2006年10月2日月曜日

映画「麦の穂ゆらす風」



ケン ローチ監督の映画、「THE WIND THAT SHAKES THE BARLEY」を観た。邦題「麦の穂ゆらす風」。
現在、クレモン オピアム、一時資金繰りが苦しくて閉鎖したが、熱烈なファンの要望にこたえて復活したパデントンのシェベルで、上映中。

2006年カンヌ映画際の平和賞受賞作。ケン ローチと言えば、「マイ ネイム イズ ジョー」、「スイート シックステイーン」など 一貫して人間の良心を描いてきた、今、最も優れたスコットランドの映画監督。作品を見渡してみて、社会派というべきか。

タイトルのBERLEYは大麦、大麦畑を揺り動かす風、とも、大地ゆさぶる風、とも訳せる。 風とはイギリスの圧制から自由を求めるアイルランドの人々の動きを言う。
1920年、一人の青年医師はイギリス軍による暴政をまじかに見て、アイルランド独立運動のゲリラ部隊に入隊、何度も死線をかいくぐりながら、ゲリラ活動を継続する。しかしイギリスとアイルランド間の合意協定で、南アイルランドの独立が認められると、仲間の一部は、それでよしと政府の懐柔策に妥協して、IRAアイルランド共和国軍に合流する。
しかし 青年医師は北アイルランドの独立なくして勝利はないとして、これらと対立、ゲリラを続ける。が、ついに捕らえられ、銃殺処刑される。

実に800年にわたるアイルランド独立の戦いの歴史のひとコマだ。1920年のドキュメンタリータッチの映画だが そのまま現在にいたる北アイルランドの状況を見れば、この映画はそのまま今の話である。
独立獲得の戦いが本当の敵、イギリスよりも、内部の敵、妥協の産物、との戦いになり、路線の違いで、同じ独立運動の同士が殺し合わなければならない青年達の苦渋、愛憎をケンローチは淡々と映像化していく。

オーストラリアはイギリスからの、移民でできた国なので、アイルランド人が多い。上映中、逮捕されたゲリラの隊長がイギリス軍に拷問にかけられ、生爪をはがされるシーンがあったが、隣で映画をみていた老夫婦がたまらず席を立ち、出て行った。アイルランドの苦渋に満ちた歴史の痛みを自分の痛みのように感じている人も この国では多いのではないか。
銃殺される青年医師 CILLUAN MURPHY は優れた俳優だ。別のケイト ブランシェットの映画でもレジスタンス役をやっていた。

ケンローチはプロの俳優を使わず、自分のイメージに合う素人を 町で拾って、映画を作るという 手法で有名だが、今回はみなプロを使っており それが皆、すごく良い味を出していた。地味な映画だけれども、いつもケンローチの映画には、「ほんもの」」 がある。
惜しいのは、アイリッシュアクセントが強くて、劇中、会話を聞き取るのが至難の業だったこと。彼は、スコットランドのグラスゴウを舞台にした作品を多く作っているが、スコットランドなまりがつよくて、イギリス人に理解できないため、字幕がついている。この映画にも英語の映画だが、英語の字幕をつけて欲しかった。