2022年10月7日金曜日

母国語喪失

自分が使っている言語が権力によって禁止され使えなくなったら、ある意味でそれは死と同じではないか。言語は思考そのものであり、その人のアイデンテイテイだ。人は生まれ育って自然と身に着けた自分の言語で物を学び、物を考える。それを失うことは自分を失うことだ。

中国人は「標準中国語」マンダリンを使うが、香港の人は広東語カントニーズを使う。2者は文法も発音も全く異なる。しかし公式には広東語は、広州地方の方言ということになっている。中国には広東語以外に、上海語、福建語、延辺朝鮮語、モンゴル語、ウイグル語など沢山の言語を使う沢山の民族が居る。「標準的」マンダリンを使う人口は世界中でほかのどの言語よりも多く、13憶4800万人、英語の11憶3200万人(2022,6月統計)をしのいでいる。

香港は100年英国に統治され人々は広東語と英語で生活してきた。700万人の香港の人々は英国式民主主義に慣れ、表現の自由に身を置いてきた。「国境なき記者団」による報道の自由度は、180各国中148位を誇り、日本のジャーナリズムよりはるかに高い報道の自由を持っていた。それが2020年6月「国家安全法」が施行され、あっという間にメデイアが封鎖され、外国メデイアが撤退させられ、外地ウェブサイトも遮断された。アップルデイリー編集部は国家転覆罪、立場新聞は扇動的刊行物発行、共謀罪で裁かれている。国家安全法の怖いところは、解釈によってどうにでもとれる法が、終身刑を含む重罪を課すことができるところだ。

今まだ広東語は禁止までには至っていないが、学校の教科書は「標準中国語」に取って変わられた。これから教育を受ける子供たちは、徐々に香港人との会話が出来なくなってくる。世界から一つの言語が失われ死につつあるのだ。

4年前に自分の生まれ育った国、香港に帰っていった親友がもどってきた。無事な姿で会えて嬉しい。しばらく連絡不通だった。オーストラリアの市民権があり、2人の息子はシドニーで生まれ今は独立してそれぞれ家庭を持っている。長いこと同僚だったが、退職して香港に職を得て、逃亡犯条例反対、国家安全維持法反対運動に身を投じた。デモに参加した学生たちを黒服の男たちが深夜、怒号と共にドアをたたいて拘束していく。大学の入り口で待ち構えていた公安が、学生のカバンをこじ開けさせて、香港独立思想の本を所持しているといって暴行の上、逮捕していく。そういった日常に耐えられず、彼女は母親の会を作って救援活動をしていた。

その彼女が香港のパスポートを更新せずにオーストラリアに戻ってきた。無事でいてくれて嬉しい。しかし生まれ育った土地への彼女の思い、失われていく文化、亡くなっていく言語のその先を思うと、胸がつぶれる思いだ。

日本は秋だが、こちらは春。異常気象で雨が降り続き寒い。作詞、吉丸一昌、作曲、中田章の「早春賦」を歌ってみた。

I am singing [ SOUSHUNFU] written by Nakada Akira, lyrics by Yoshimaru Kazuaki. Song tells:
People said Spring has come. Although wind chilly. Even birds not singing. But snow melt in the lake. Buds unfold in the Sunshine.