フイリピンマニラ空港の混雑に揉まれて、1月になったのにメリクリスマスと言い金品をねだってくる入管局職員やなんかの伸ばしてくる手をよけながら、乗り込んだ飛行機は満席で、なぜかミスでダブルブッキングされていて3人はばらばら席。
やっと着いたシドニー空港から見上げた、雲一つない大きな青い空が忘れられない。私たちは、3人それぞれがバイオリンと小さなバッグを背負っただけの姿で、知り合いもない、友達も親類もいない新しい土地に着いて生活を始めたのだった。
その日は、オーストラリアデイ、祝日だった。英国人探検家ジェームスクックがボタニー湾に到着して、シドニーコーブで植民地として領有を宣言した日だ。国を挙げての祭日。この日から、先住民族アボリジニの虐殺が始まる。アボリジニは5万年も前から先住していて独特の言語と文化を持ってきた民族だ。しかし、この日は、デイフェンスフォースによるパレード、政府による式典、この1年の間に活躍した人への功労賞、国民栄誉賞などが賞与される。式典は、オーストラリアでは国会が始まる時や、スポーツや大きなイベントが始まる前に必ず行われる、アボリジニーのスモーキングセレモニーで始まる。ユーカリの葉に火をつけた煙で参加者全員が身を清めて式典が開始される。
今年はコビッドで式典も縮小されるだろうし、パレードするデイフェンスフォースも、空港やホテルで海外から帰国してきたオージーの検査、誘導、ホテル隔離に駆り出されているので式に参加する数も限られるだろう。
今年の栄誉賞のトップに推薦されたのがテニスの昔のチャンピオン、マーガレットコートであることで勲章賞与に反対する人が続出している。彼女は、ゴリゴリの保守で引退後、ペンテコステ派の聖職者となり、LGBTQIを悪魔呼ばわりしていて恥じない。今年表彰される予定のキャンベラのクララ スー医師は、LGBTQIへの差別を助長するような勲章などは受けるつもりはない、と辞退。前年に表彰を受けた人々のなかにも勲章返上の動きもある。ただでさえLGBTQIの自殺率が高い。勲章辞退、返上の波は広がるだろう。
オーストラリアデイは、アボリジニにとっては、侵略された日だ。多くのアボリジニは、各地でお祝い気分の祭典に抗議して、デモに参加する。年々デモの規模は大きくなってきているが、2020年は、ジョージ フロイドの死を契機にしたブラック ライブスマターの広がりの中でアボリジニーの拘束中の死が脚光をあびた。ニューヨークのデモに、「アボリジニー432人の死」に抗議するオージーが加わって大きく報道されたのだ。
アボリジニーは5万年も前から大自然と共に生きてきた。自分の家や、他人の家、公共施設といった「境」が文化の中にない。彼らにとっての「マイ プレイス」は実際自分が住んでいる家でなく、まわりの土地全部、湖、山々、海を含むのだ。そんな人々がいったん酔っぱらって公園で寝ていたり、他人の自転車をちょっと借りただけでポリスに拘束され、窓のない日の差し込まない留置所に留め置かれたりする。それだけで神経が拘束に耐えられず自殺者が出る。アボリジニーに対するポリスの暴力的な扱いも止まない。この10年に、獄死者 432人。
1月26日
オーストラリアデイは、わたしたち母娘3人が、オーストラリアに来て新生活を始めた特別な日。
英国人を先祖に持った侵略者たちが、この国に到着して植民地にした開国日。
アボリジニにとっては侵略を受けた屈辱の日。
国民の40%が外国からの移民でよって作られているオーストラリアで、人口3%弱にまで減少してしまったアボリジニー文化に、敬意をもって、アボリジニの怒りに共鳴して、その日を過ごしたい。