2020年4月14日火曜日

良識ある報道を




4月13日イースターマンデーに、民間チャンネル9のニュースではトップに、老人ホームに勤める看護助手が、6日間もCOVID19症状が出ていたのに出勤していたために施設の中の1人の老人が発病した、と報じた。その口調は一方的に看護助手を責める厳しさで、政府の保険大臣にわざわざ「今後、医療従事者は症状が出ていたら出勤してはいけない。きちんと自制するように。」と繰り返し言わせていた。老人ホームという年寄りが安全で静かに暮らせるサンクチュアリに、悪い職員が病気をまき散らしていた、というような論調は、中世の魔女狩りや、火あぶりのリンチを思わせる。
外出禁止令で一挙に自宅待機者や失業者が増え、それがいつまで続くかわからない、そんな社会の閉塞感、政府への不信感、将来への不安感が蔓延している。そういった不安定な状況で不満をどこかにぶつけてはならない。今ほど、人が良識というものをもつことが求まられているときはない。

この看護助手はおそらくアジアか南米からの移民で、6か月ほどの研修で資格の取れる介護者として、今どこでも人手が足りなくて困っている病院や医療施設で働いていたのだろう。人を世話するのが大好きで、良い人もいれば、とりあえずオーストラリアで働いて永住権がとれるかどうかやってみよう、という目的で来豪しただけの介護職に適さない人もいる。
6日間COVID19の症状が出ていた、というが、今オーストラリアは秋で花粉アレルギーまっさかり。冬に向かって急激に気温が下がり風邪気味に人も多い。また、インフルエンザの予防注射が始まったが、生ワクチンだから注射後1-2日インフルエンザの症状が出る人も多い。軽い風邪症状で働いていたことを責めることはできない。

自分もCOVD19のものすごいプレッシャーに中で働いている。自宅の入り口にはパジャマなどが入った「入院バッグ」が用意してあって、発病したら、できるだけ20分ほど先の救急病院までそれを持って歩いていくつもりだが、いよいよ呼吸困難で救急車を呼ばなければならなくなったら救急隊にそのバッグを一緒に持って行ってもらうように大きく注意書きをしてある。職場ではCOVID19患者を運ぶ救急車の面々と接触するし、施設の酸素ボンベや医療品や、洗濯ものや、食料の配達や業者などと対応しなければならず、普通のナースよりずっと感染の機会が多い。
悲しいが娘たちにも、孫たちにも会えない。孫には1月以来一度も会えずにいる。でも毎日自宅に帰れるだけでもましか。公立病院に勤めるドクター、ナースたちは自分たちの家族に感染させないために、病院が貸し切ったホテル住まいしている人も多い。小さな子供を抱えたドクター、ナースたちが仕事で疲れ切って、冷たいホテルの枕で寝る姿を思うと、とても申し訳ないと思う。

そんな中でアジア系のドクター、ナースは病院の制服で通勤中、「武漢に帰れ!」とか、「コウモリ食うな!」などと嫌がらせや、唾を吐かれたりした。その後は「コロナうつすな!」、とか「あっち行け!」だ。電車やバスや路上で暴力を振るわれた例もたくさん出てきて、遂に政府は、「危険なのでナースやドクターは病院の制服で出勤しないでください。」ということで、フロントラインで働く医療従事者に悪態をついたり嫌がらせをした加害者は$5000の罰金が言い渡されることになった。

かなしいことだ。政府や警察に緊急法によって罰則を作ってもらわないと、人を傷つけることをやめられないのか?良いことと悪いことを、政府と警察に教えてもらわないとわからないのか? 失業したり、収入が半減したり、レントが払えなかったり、将来の見通しが見えなくなって不安になると、何かに当たりたくなる。しかし、そんなとき、皿を割ったり、壁に拳を打ち付けたり、妻を殴ったり、子供の肌にタバコの火を押し付けたり、ドクターやナースを罵倒し蹴飛ばしたり、しないでいることだ。何の罪もない子供までCVID19で死んでいるのだ。全米で死者22108人、たった1日でニューヨークでは758人が亡くなった。70%はアフリカンアメリカンだ。
良識を持つこと。いま生きていることを大切にして、より良く生きることが望まれている。

歌っているのは「MY WAY」