2020年3月22日日曜日

すべて災害は人災

2020年は年明けから災害と災難に生活が脅かされている。
12月と1月、オーストラリアではブッシュファイヤーで、1000万ヘクタール、日本国土の3分の1の面積に当たる土地が燃えた。NSW州だけで8000頭のコアラが焼死した。燃えつくす山々から立ち上る灰と煙で、私どもの住むシドニー中心部でも、空は灰色にかすみ、今まで見たこともないような、ダイダイ色の太陽が遠くの空でぼやけて見える様子は、この世の終わりかと思えるほど不気味だった。喘息プラスCOPD(閉そく性肺不全)を抱える身で、呼吸がずっと苦しかった。車で通勤するとき、窓をきつく締めていても煙ってくる悪い空気にむせながら、吸入器で日々を乗り切る姿は、炎天下の犬がベロを出してハアハアと浅い呼吸をする姿に似ていたと思う。

2月になって、山火事が終息してきて、煙い毎日をようやくやり過ごしたと思ったら、集中豪雨が襲った。ブッシュファイヤーで大地の恵みを吸収する木々を失った土地では雨を吸い込むことができず洪水が起きる。住んでいるアパートの地下の駐車場が浸水し、50センチの深さの雨が溜まって捌けない。2週間もの間浸水している駐車場に車を停められず、自宅前の交通が激しく路上駐車禁止の道路を2時間おきに点々と車を動かしながら、浸水が引くまで耐えた。

ようやく乗り越えたと思ったら、3月に入ってCOVID19 感染が深刻になってきた。オーストラリアは国境封鎖、海外渡航禁止、外国人の入国禁止、握手やハグ禁止、他人と1.5メートル以上のスペースを空ける、風邪症状のある人は2週間の自主隔離、パブ、レストラン、映画館、ジムの閉鎖、すべてのスポーツイベント、オペラ、コンサート中止、必要不可欠でないサービスすべての停止が宣言された。カンタスは2万人のレイオフを発表した。政府は国のGDPの約10%、660憶ドルを、今後の失業者、年金生活者、パートタイマーなどへの救助に支出するという。

現在のところ、全国のCOVID19感染者は、1349人、死者7人。70歳以上は、致死率が高いので自宅自主隔離をアドバイスされているが、ピカピカの70なりたての身でも、医療従事者として週26時間フルタイムで施設で働いているので、職場放棄するわけにはいかない。全国の小中高校を休校にすると、医師、看護師、救急隊員、薬剤士、などの医療従事者が、子供の世話で仕事に来られなくなるので、学校は休校にならない。自宅隔離が良いとわかっていて、子供を犠牲にして医療従事者たちは働き、感染者かどうかわからない患者たちを扱っている。救急病院をパンクさせるわけにはいかない。職場では妊娠中の若い人など、感染を怖がっている職員もいるが叱咤激励している。

振り返ってみるとブッシュファイヤーも、洪水も、COVID19も、天災ではなくて人災であって、すべてつながっている。地球上の環境汚染、温室ガス、CO2、気温の上昇、大気汚染、プラスチック汚染、排気ガス、など私たちの肺はこれらの汚染によって、新ヴァイルスの逆襲に脆弱だった。これからもCOVID19が克服されても、また新たなヴァイルスに人々は侵され続ける。自然を破壊してきた人類の当然の報いだろう。

いまは、1人熱のある患者のために、使い捨てのガウン、マスク、ゴーグル、シューカバー、グローブで完全武装して、プラスチックのコップとスプーンまたはストローで投薬をして、ケアが終わるとが、次の熱のある患者のためにまた新しいプラスチック使い捨てのガウンを羽る。山のように積み重なるプラスチックのごみ山を見ながら、何と罪深い人類の存在であることか、自らを呪いたくなる。

2020年3月2日月曜日

マルテイグラでプロテスト

この2月29日、シドニーでマルテイグラのパレードが行われた。
世界最大のLGBTQIのお祭りも、今年で42年目。LGBTQIとはレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クイアクエスチョ二ング、インターセックスプラス、など性的マイノリテイを包括総称したもの。
パレードに先立って、2月14日からダンスパーテイー、映画、ショーなど100を超えるイベントが、NSW美術館や、オペラハウスや、映画館などで開催されていたが、いつも通り最後の2月29日、最終日に盛大なパレードが行われた。
当日、シテイ中心のオックスストリートでは、数万人の世界各国から来たパレード参加者や見物人で賑わった。毎年この時期は春嵐で大雨になったり、急に寒くなったりしてドラッグクイーンなど、ほとんど裸のパレード参加者には気の毒な年が多かったが、今年は晴天パレード日和で大成功。アボリジニのスモーキングセレモニーと、NZマオリのハカのあとのパレードの華は、RFS(ルーラルファイヤーサービス)で、おなじみの黄色の防火服を着て虹色の小旗をもって誇らしげに行進した。
去年の9月から今年の2月のかけて全国を燃やし続けたブッシュファイヤーのために、ボランティアで消火活動をした人々だ。火災は29人の消防士の命を奪い、2800余りの家々を焼き、ポルトガルの全国土よりも大きい1070万ヘクタールが焼き尽くされた。本職を放り出して自分の命を顧みずボランテイアで消火活動をした人々は、真の英雄だから、大拍手をあびていた。
パレード参加者は、200台のバイクに乗ったLGBTQIの人たちを先頭に、続いて消防士、陸、海、空軍、警察官、ライフセイバー、カンタス、自由党、グリーン、独立党、ANZ銀行、ボーダーフォン、ロレアル、などなどが続き、それぞれが趣向を凝らした衣装とダンスを披露した。シドニーロードメイヤー知事のクローバー モアもオープンカーに乗って行進に参加した。彼女はレズビアン。

オーストラリアでは同性婚は法制化されており、差別禁止法によって法的に、性的少数者への差別は許されない。しかし、目に見えない形で差別は厳然として残っている。パレードの参加者がみな口をそろえて、これはお祭りではなくて、プロテストだ、と発言していた。彼らの勇気ある強い主張は立派だ。
マルテイグラのパレードが始まったばかりの42年前は、ゲイ、レズビアンは「違法」だったし、カミングアウトも」、パレードというかデモをするのも、命がけだったのだ。
米国カルフォルニアサンフランシスコ市会議員だったハーベイ ミルクが市庁舎で、ゲイヘイトの男に殺されたのが1978年。彼の甥、スチュアート ミルクも、このパレードに来ていて、立派なスピーチをした。ミルクの果たせなかったLGBTQIの人権が守られ、差別が無くなる日までパレードは続く。ミルク市会議員の死は「ミルク」(2008)で映画化されて、ショーン・ペンが主演、その年のアカデミー主演男優賞を受賞した。
お祭りではなく、過去の差別の歴史を顧みて忘れず、これからも差別と闘う姿勢を崩さず、プロテストを続けてこう。