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前2000年紀にパレスチナに住んでいたヘブライ人は、強国エジプトに移住し奴隷として生存を許されていた。60万人のヘブライ人がモーゼに率いられエジプトを奪出したとき、エホバは、彼らが十戒を守ることを条件にそれを助けた。その後、約束の土地カナン(パレスチナ)に王国を建てたヘブライ人は唯一エホバを信仰し、自分たちが天地を創造した全能の神エホバによって選ばれた民族として救済されるといった選民思想を持つ。
ユダヤ人というと、誰もがナチスヒットラーによって犠牲になった600万人のホロコーストを思い浮かべるが、「ユダヤ人の選民思想であるシオニズム」は、「ヒットラーのゲルマン純血主義」よりも、はるかに強力な排外思想だ。自分たち選ばれた民族が、約束の土地で全能の神エホバだけを信じ、新しい国を建国するという思想は、他の宗教を認めない。他民族や他国文化を相いれないし認めない。
戦後、生き残って世界中に散らばっていたユダヤ人が集結して、1948年イスラエルを建国したことによってパレスチナ国家を奪われたパレスチナ人民500万人は、避難民として限られた土地に追いやられている。ネタニヤフ大統領が再選され、強硬派が力をつけており、ユダヤ人の新居住区が拡大する一方だ。イスラエル軍、警察は、抗議するパレスチナ人を迫害し、爆弾を落とし、銃撃している。
2019年5月15日、16日、18日とイスラエルのテルアビブでユーロビジョンソングコンテストが行われた。ヨーロッパ最大の祭典で、41か国のヨーロッパ各国代表に選ばれたアーチストがパフォーマンスを行い、それを見ている観衆やテレビの視聴者が携帯で人気投票をする。その後、即時投票結果が発表される。世界中で、6億人の人々が投票したり観戦する。
出場参加国が多いので、3日間に渡って選抜が行われ、第1次審査と第2次審査を通過して残った国と、ドイツ、英国、フランス、イタリア、スペイン、ビッグ5の代表の合計26か国が、最終日にパフォーマンスを競う。ビッグ5は、この国際音楽祭に多大の出資額を負担しているので第1審査が免除されている。毎年英国は、最大額出資しているのに1997年以来一度も優勝したことがない、ことをこぼしているけど、それは実力というものでしょ。
昨年はイスラエルの女性歌手が、自分でDJをしながらユニークなパフォーマンスを見せて優勝したので、開催国がテルアビブになった。今年はオランダの青年が、キーボードを弾きながら歌い、最高得点で優勝したので来年はアムステルダムで開催されることになった。
オーストラリアはヨーロッパに位置していないのに出場が許されている稀有な国だ。移民でできている国だからヨーロッパを身近に感じている人の方が多い。距離ではなく、文化だ。戦後20年間の間に移民した人々は、英国、アイルランド、ニュージーランドから88万人、北欧、オランダ、ドイツ、スカンジナビアから24万人、東欧、ユーゴスラビア、ポーランドから30万人、南欧、イタリア、ギリシャから53万人、、、戦災から逃れてきたヨーロッパ人だけでこれだけの数で、毎年移民は増えるばかりだから、文字通りの移民国家なのだ。
またオーストラリアはいまだに英国女王を元首とした国。自分を英国人だと思い込んでいて、英国のパスポートを死んでも離さない人が多い。
10年前オーストラリアで、英国から分かれて独自の大統領制にするかどうか、国民投票が行われたが、オージーは、英国女王をこのまま元首として選んだ。自国のアイデンティテイー存在基盤を、現状維持的に英国民族の末裔とすることに決めたのだ。一般にオージーは女王陛下のロイヤルファミリーは好きだが、英国議会やメイ首相は、ぼろくそに批判、自分達はオージー多民族、多文化をもった新しい国の国民だと認識している。だから、ユーロビジョンは、オージーの間でも長い事人気があって、2014年に特別参加が認められたときの人々の興奮の仕方と言ったら、怖いほどだった。
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興味深いのは最後の視聴者による人気投票だ。ウクライナはロシアの政治介入と干渉を受けて政治的に憎んでいるはずなのに、ウクライナ人の最大数の人がロシアに投票している。ロシア人もウクライナ歌手に投票している。セルビア人がスロバキア歌手に最大多数票を入れて、アルバニア人がクロアチア歌手に投票している。ポルトガル人がスペイン歌手に票を入れ、スペイン人がポルトガル歌手に票を入れる。
こういった現象をみていて人々の好みというものが、国境線や政治では語れないということがわかる。人は生まれて育ち、赤ちゃんの時から耳にしていた音階や旋律になじんで、快感を覚えるようになる。そして慣れない音や旋律に違和感を覚える。それはその人の感覚、そのものを形成しているから、政治的な状況が変わったり、国境線が変えられたり、戦争したり、移民したり、難民になっても変わることがないのだ。国境が文化の境ではない。人々は文化の広がりをもって、国境を越えて生きているのだ。人々の感覚は国境線を越える。こういった事実に気つかせてくれたのが、ユーロビジョンだった。感謝しなければならない。
今回パフォーマンスがすべて終わり集計を待つ間、ステージを飾ったのは2014年に優勝したコンチータ。ドラッグクイーンの彼女は黒い髭、胸毛をさらして、網タイツにハイヒール、濃いまつ毛をつけて優雅でパワフルなパフォーマンスをした。
そして最後のマドンナ。今年のユーロビジョンの最大のトピックはマドンナの登場だったろう。大金を積んでマドンナの出場をオーケーさせたイスラエルは得意だったろうが、これが一筋縄でいかないアメリカ人。30人ほどのダンサーとコーラスを引き連れて登場。数百メートル先で、パレスチナ人が爆撃で殺されているのだ。
ステージでマドンナの登場にはしゃぎまわっている司会者に、彼女はニコリともせず質問にろくに答えもせず、MUSIC MAKE PEOPLE COME TOGETHER (音楽で人はひとつになれる、、)を繰り返した。ステージは小オペレッタのような舞台。神は死んだ、戦争と地球温暖化、環境汚染、核による汚染で人々に未来はない。といったメッセージ。「LIKE A PRAYN」と「FUTURE」を歌った。最後に背を向けたダンサーたちの背中に、パレスチナの国旗がはりつけてあった。最後に大画面で、WAKE UP.
これがマドンナの限界だったろう。これ以上のことをしたら彼女のパフォーマンスそのものがつぶされていただろう。これだけでも良くやった、と言わなければならない。
こうして2019年ユーロビジョンは終わった。華々しい会場から数百メートル先にある、パレスチナに生まれ居住区で貧しい生活を送る人々に爆弾を落としながら、ヨーロッパの歌の祭典を主宰したイスラエル。彼らの選民思想と排他主義はユーロビジョンの趣旨に最もそぐわない、人々の魂である音楽とヨーロッパの文化を貶めている。WAKE UP。(目を覚ませ)
写真1:マドンナ 写真2:アイスランド代表が持つパレスチナの旗
写真3:オーストラリア代表
写真4:優勝国オランダ代表 写真5:スイス代表
写真6:左がコンチータ、2014年オーストリア代表で優勝