映画「ボヘミアンラプソディ」が、2019年第91回アカデミー賞で、主演男優賞、編集賞など4つの賞を取った。
映画は、フレデイ マーキュリーが生きていた時代にはまだ生まれていなかった若い人々を魅了させ、クイーンが再び脚光を浴びる結果となった。彼らが1981年にサンパウロのエスタジオ ドモルンビーで行ったコンサートは、観客数で世界記録を作り、未だにどのロックグループも記録更新できずにいる。1986年8月に英国ネブワース公演で、30万人の観客の前で、フレデイが絶唱したのが、最後のフレデイのコンサートになったが、この何十万人もの観客が熱狂する姿が、フレデイの目に映るシーンが、この映画の最高に興奮するところだ。フレデイの大きな目の隅から隅まで、フレデイのパフォーマンスに酔いしれる観衆若者達の姿が捉えられている。フレデイは演奏者と観客の興奮を、一つに一体化させて、観客を熱狂の渦に巻き込むことにおいて天才だった。
彼らの音楽は、ジャンルにとらわれることなく、ロカビリー、ロック、ヘビメタル、ゴスペルなどを取り入れて抜群にユニークな音楽を作った。
映画の中で、これから何をやるんだ、と聞かれてフレデイが、「俺たちオペラやるんだよ。」と言い、意表を突かれたブライアンとロジャーとジョンが、一瞬ののちにそろって、「そうだよ。俺たちオペラやるんだよ。」というシーンがある。そうして、オペラチックな「ボヘミアンラプソデイ」が生まれるのだ。かっこいい。
ブライアン メイ、ロジャーテイラー、ジョン デイーコンが一人ひとり個性を持った、知的で多才な男達で、それぞれが4人4様でいて、とてもイギリス人的。仲の良いグループだった。
例えばブライアン メイは、宇宙工学博士で、大学で研究も講義もしてきたし、自分の工学的知識をもとに特殊音響効果音を自作のギターで創作してきた。ロジャー テイラーは歯医者だ。フレデイを含めて全員がピアノもギターもシンセサイザーも演じて歌うことも作詞作曲もする、すぐれた音楽センスを持っている。
この映画が成功したのは、主演したラミ マレックがフレデイそっくりにその姿を再現したことと、彼が歌っていた歌、すべてが本物のフレデイの声で編集されたことだろう。
今年のアカデミー賞授賞式で、トップにクイーンが登場して「WE ARE CHAMPION」と「WE WILL ROCK YOU」を歌ったのは嬉しいサプライズだった。ブライアン メイのギター、ロジャー テイラーのドラム、アダム ランバートのボーカルだ。パフォーマンスのあと、71歳のブライアン メイと、69歳のロジャー テイラーは会場に残って授賞式を楽しんで居る様子が見られた。二人とも知的で優雅で美しくて、最高だ。
ところでフレデイ マーキュリーがエイズで亡くなったことはみな知っているが、ゾロアスター教信徒だったことはあまり知られていない。
フレデイは当時英国領だったアフリカタンザニアのザンジバル島で生まれた。幼少期は英国領だったインドで育ち、17歳で家族と共に英国に移住して、彼はロンドンの工業学校とイ―リングアートカレッジでデザインを学ぶ。両親は敬虔なゾロアスター教信徒だ。
ゾロアスター教には厳しい戒律があり、布教はしないこと、両親が信者だと子供も信者と認められるが、多宗教の信者と結婚すると信者であることを捨てなければならないと決められている。
もともとゾロアスター教は、古代ペルシャで、ツアラストラが創設した善悪2元論の宗教だ。紀元前からサーサン朝まで、ペルシャでは国教として信心されていたが、7世紀になってイスラム帝国の軍事侵攻によって、ペルシャがムスリムに改宗されたことを切っ掛けに、迫害された信者たちはインド西部に逃れた。この時、ヒンズー教がマジョリテイーのインドに、ゾロアスター教を布教しないことを条件で定住を許された。だから信徒は、現在10万人くらいで、減少するばかりだ。
ゾロアスター教といえば鳥葬で有名だ。沈黙の塔の石板に遺体を乗せて鳥がついばむのに任せる、究極の自然主義リサイクルだが、いまは法的に禁止され土葬になっている。
余談だが日本のカーメイカーのマツダは松田さんという創業者によって命名されたが、ゾロアスター教の守護霊アブラ マズダーの名をかけて、MAZDAが正式名になっている。
インド最大の国際金融都市、ムンバイ(かつてのボンベイ)には、ゾロアスター教信徒が大勢居住している。彼らは、かつての東インド会社との関係が深く、貿易関係者や知的職業人が多い。中でもタタ財閥は、現在のインドの金融商業活動で最大のパワーを持つ財閥だ。このタタ財閥が所有する1903年に開業した、タジマハールパレスホテルは、世界中から来た政治家、王侯貴族などが滞在する最高級のホテルだ。スイート46室を含む565室、22階建ての美しいホテル。このホテルが、2008年、175人の命を奪ったムンバイ同時多発テロで襲撃され多数の被害者を出した。放火されて建物のトップにあったドームはいまだに修復されていない。この様子が映画になった。
邦題:「ホテルムンバイ」
邦題:「ホテルムンバイ」
原題「HOTEL MUMBAI」
キャスト
デヴ パテル : アジュン ホテルの給仕
アーミー ハマー:デヴィッド アメリカ人旅行者
ナザ二ン ボ二アデイ : ザラ デヴィッドの妻
テイーダ コバン ハーベイ:サリー ザラ夫婦の子の乳母
アヌパン カー: ヘルマン ホテルヘッドシェフ
ジェーソン アンザック: ロシア人ホテル滞在客
ストーリーは、
2008年11月26日、いつものようにタジマハール パレスホテルでは仕事始めの朝礼が始まっていた。アジュンら、給仕たちは一列に並びヘッドシェフ、ヘルマンから、お客様を神様と思って尊重し、満足されるように給仕するようにと訓示され、身だしなみから姿勢まで厳しくチェックされる。その日もいつもと変わらず、ホテルマン達は、忙しく立ち働く。
イラン系英国人貴族のザラが、アメリカ人の夫デヴィッドと赤ちゃんのキャメロン、乳母のサリーを伴ってホテルに到着する。夫婦は乳母を赤ちゃんを部屋に残して、階下に食事に出る。
イラン系英国人貴族のザラが、アメリカ人の夫デヴィッドと赤ちゃんのキャメロン、乳母のサリーを伴ってホテルに到着する。夫婦は乳母を赤ちゃんを部屋に残して、階下に食事に出る。
一方10人の自動小銃や手榴弾で完全武装した男達が、パキスタン、カラチ港から貨物船で渡航、ゴムボートに乗り換えてムンバイの海岸に到着した。男達は二人ずつ分かれて、夕方で混雑している駅やカフェや映画館などで、いきなり無差別乱射を始める。外国人に人気のカフェで夕食を楽しんでいた、アメリカ人のバックパッカーたちの目の前が血の海となる。
チャトラパテイシヴァ―ジ駅、オベロイトライデントホテル、レオポルドカフェ、カマ病院、ユダヤ教ナリーマンハウス、メトロアドラブ映画館、マズガーオン造船所など、12か所で、人々が一日の仕事が終わり夕食を取る時刻に、突然乱射が起こった。警察は前代未聞の出来事になすすべもなく、特殊部隊の救援を頼みに待つばかりだった。
街で起きている無差別乱射から逃げ惑う人々が、助けを求めてドアを叩いたのが、タジマハールパレスホテルだった。パニックに陥っている人々は、群れを成してホテルのロビーになだれ込むが、その中にはテロリスト達も紛れ込んでいた。ホテルのロビーで情け容赦ない射殺が始まる。階下のロビーやレストランでの殺傷は一段落すると、犯人たちは、オペレーターに銃を突き付けて、客達に一室一室のドアを開けるように命令する。ドアを開けた宿泊客たちは、たちどころに撃たれる。
ザラとデイヴィッドはレストランに身を伏せて、銃も持った犯人たちの様子を窺う。ホテルの部屋では、事態を知らずにいた乳母は、突然隣の部屋に宿泊していた老婦人が、血相を変えて部屋に踊り込んでトイレに隠れ、それを追ってきた男達が撃ち殺すのを間近に見て、洋服ダンスのなかに隠れる。レストランからデヴィッドが、犯人たちのすきをついて赤ちゃんを助けに階上に上がろうとして、犯人に人質として捕らえられる。
ホテルのヘッドシェフのヘルマンと、給仕のア―ジェイは、レストランに隠れていた生存者を安全な会議室に誘導する。そこに外から逃げ込んできた人々も合流する。テレビは、多発テロで混乱する駅や町の様子を放映している。
ニューデリーから、軍の特殊部隊が到着するのに何時間も待たなければならない。すでに、その時間は過ぎ、1日経っていた。ザラや、謎のロシア人客らは、救援がもう来ないのではないかと絶望的になり、ヘルマンやアージェイの助言を聞かずに、自分達でホテルから脱出しようとする。しかしそれらの宿泊客達は、待ちかまえていた犯人たちによって殺され、ザラは人質として捕らえられる。人質にされたデヴィッドは、見張り役の犯人の銃を奪おうとしてザラの目の前で死ぬ。犯人たちと警察との交渉は、決裂した。火がつけられ、人質にされた外国人たちは一人ひとり撃ち殺される。ザラは銃の頭に向けられて、必死でコーランを唱える。その女の頭を犯人は銃で吹き飛ばすことができない。
丸2日かかって、軍の特殊部隊300人がホテルの犯人たちを一掃、テロリストの襲撃は終わった。
10人のテロリストによる乱射で175人の命が失われ、そのうちの34人が外国人だった。犠牲者の一人に三井丸紅液化ガスの日本人社員もいた。
ニューデリーから、軍の治安特殊部隊の到着が大幅に遅れ、一般市民が無差別に殺害され始めてから、丸2日たっても10人の犯人を捕らえることができず、市民の救命が遅れた理由のひとつに、タジマハールパレスホテルが、インドの大多数がヒンズー教信者ではなく、ゾロアスター教信者の所有するホテルだったこともあったのではないか、と言われている。
映画ではロシア人で秘密部隊で働いていたらしい謎の屈強の男が出てくるが、ザラを守ろうとして、あっけなく殺される。ハンサムの代名詞みたいなアーミー ハマーも生存できない。
映画の中で、足を撃たれて動けなくなった犯人の一人が、人質たちの見張り番を任される。彼は怪我の痛みに耐えかねて、故郷の父親に電話をする。「パパ、元気?組織からお金を受け取った?」「え? まだなの?受け取ってないの?」 息子の英雄的アタックの命の代償として大金が父親に送られる、という組織の話がウソだったことが分かる。自分は捨て石だった。彼は泣きながら「パパ、元気で。」と言って電話を切り、一人ひとりの人質を処分していく。
今年2019年4月2日に、スリランカのコロンボで起きたイスラム国によるカトリック教会への爆弾テロでは250人の命が失われた。ニュージーランドのクライストチャーチでは、たった一人のレイシストによって、モスクが攻撃されて50人の信者たちが亡くなった。
これらで犯人らが使ったのが「AK自動小銃」だ。今ではオーストラリアでもニュージーランドでも所有が禁止された。これら自動的にたくさんの弾丸が連射できる銃を、「卑怯者の銃」という。狩猟は原始からある男の究極のスポーツだという人があるが、殺傷目的に開発された銃をスポーツとして狩りに使うなら、動物が苦しまずに綺麗に死ねるように、たった1発で仕留められることが、スポーツだろう。安全なところに隠れていて連発銃や散弾銃で獲物の姿が形をとどめないほどにして殺すのは、冷血で精神を病んだ者のすることだ。スポーツからは程遠い。銃は断じてスポーツではない。一度に沢山の人を殺すためのものだ。
「卑怯者の銃」AK47など自動小銃は、一度弾を込めて発射すると、発射時に発生する高圧ガスが次の弾を薬室に押し出すので自動的に再装備することができる。1分間に600発もの発射が可能な自動連射小銃が開発されている。自分が安全なところに隠れていて、短時間で最大数の「けもの」を殺すことができる「卑怯者の銃」だ。
もともと武器は、帝国主義国が他国を侵略するときに、自分達とは、肌の色や宗教や、文化の異なった人々を「野蛮人」と断定して自分たちの都合の良く植民地化する目的に使われた。野蛮人でも奴隷でもない人々が、帝国主義者が使ったのと同じ武器を持って反撃に転じるのは当然の成り行きだ。
いまテロリスト達に大量殺人が行える「卑怯者の銃」を製造販売しているのは、最先進国米国、英国、フランス、ロシア、中国、イスラエルの国々の企業だ。シリアで反政府軍に武器を供給してきたのは米国だし、トルコ、カタールといった国々とも兵器を供給している。こうした武器を使って米国や英国はアフガニスタン、イラク、スーダンや南米の国々に直接介入してきた。武器の供給の過程で、それら巨大な武器製造企業の裏では、マフィアともつながっている。
テロリスト達に大量殺人が行える武器を製造供給しているのは最先進国の企業だし、売れれば売れるほど人が死に、死の商人は肥え太る。テロリストは最先進国の企業が育てているのだ。 ロンドンもパリも執拗に狙われている。私たちは明日、どこかで爆弾の爆発や、無差別乱射に巻き込まれて命を落とすかもしれないという、危険の中を生きている。そんな場面に行き当たったら生き残るかどうかは、運次第と言うしかない。
そうした病んだ社会を資本主義が育てて来た。武器生産を止めるしか道はない。人は誰ひとり、人をだまし、傷つけ、殺すために生まれてきたのではないからだ。
「ホテルムンバイ」のようなデザスター映画は、見た後でいろんなことを考えさせられるが、これを観るなら「ボヘミアンラプソデイ」を3回みることをお勧めする。元気が出る。