2015年8月22日土曜日

映画「ミッションインポッシブル・ローグネイション」





ミッションインポッシブル シリーズの第5作目。主役は勿論トム クルーズ、監督はクリストファー マッカリー。第4作目の「ミッションインポッシブル ゴーストプロトコール」(2011年)の続編になる。
IMFエージェントは、トム クルーズ、ジェレミー レナー、サイモン ペグ、ヴィング レイムスが、そろって出演している。ジェレミーは2回目、サイモン ペグは3回目、アフリカンアメリカンのヴィングは、何と初回から出ていて5回目のトムとの共演になる。今回新しく、CIA長官に、アレック ボールドウィンが適用されていて、この人が出てくると映画全体が和らいで優しい空気が流れてくるから不思議。

IMFとは、インポッシブル ミッション フォースの略で、間違ってもインターナショナル モニタリー ファンドのIMFではないから誤解しないように。後者の方は、ギリシャの経済をむちゃくちゃにし、アフリカをはじめ多くの台所の苦しい国にバシャバシャお金を貸しては、サラ銀並みに取り立てて、弱小国を潰してきた犯罪的なファンドだ。トム クルーズの方のIMFは、アメリカCIAの中に属する組織で、不可能を可能にしてしまう選りすぐりのスパイを集めている。

副題のローグネイションとは、今回のIMFの敵、ローグつまり無法者、ならず者悪漢集団を言う。各国のスパイ、エージェントたちが様々な事件に巻き込まれて命を失ってきた。しかし彼らは実際には死んでいなくて、姿を隠して秘密裏に新組織を作って巨大な資金をバックに影の世界制覇を目論んでいた。
多量の神経ガスが盗まれた。IMFのイーサン ハント(トム クルーズ)は、国際組織が動いているに違いないと見て、神経ガスを満載したエアバスに飛び移り、組織の全体像を掴もうとするが、逆に敵に捕まってしまう。危機一髪のところで謎の女性に救われて、IMFの連絡を取るが、実績を出せないでいる業績不振を上院委員会で追及されたCIAは、IMF存続を認めない方針を決定した。CIA長官は、ウィリアム ブラント(ジェレミー レナー)にIMF廃止を伝え、ありもしない秘密組織を追って、帰還命令に応じないイーサン ハントをCIAの敵をみなす、という厳しい決定を言い渡す。

ハントは姿を隠した。6か月が経った。ある日、元IMFのベンジャー ダンの処にオペラの招待券が送られてくる。コンピューターおたくでオペラ狂いのダンは、一も二もなくウィーンに飛ぶ。題目は「トランドット」。ところはウィーン国立オペラ劇場。ベンジャーの到着を待ってイーサン ハントは、会場でローグネイションが、何をしようと企んでいるのかを調べようとする。舞台裏に、以前ハントを捕えて拷問をしたテロリストたちが現れ、ついでにハントの命を救った謎の美女も現れる。彼らの銃の照準は、オーストリア財務大臣だった。ハントとベンジャーは、暗殺者から財務大臣の命を守るが、オペラから帰途に就いた車が爆発して財務大臣夫婦を死なせてしまう。

元IMFのルーサー ステイケルとウィリアム ブラントは、窮地に陥ったイーサ ハントとベンジャー ダンに合流するためにモロッコに向かう。モロッコの水力発電の水の底にローグネーションの秘密組織の全容データが隠してある。ハントは謎の女性がイギリスのスパイMI6に違いないと判断して、彼女の力を借りてデータを盗み出す。しかしこのデータは、イギリス首相の目の網膜と指紋がなければ開けられない。ハントは、首相を誘拐する。そして首相の口から、ローグネーションはもともとMI6の一部だったが、余りに危険なことをするので解散させた組織だったことがわかる。一方、ベンジャーが敵に誘拐され、なぞの女性も行方不明だ。ハントは二人を救い出すために、敵中に一人向かっていく。果たして敵、ローグネイションを倒すことができるのだろうか。というお話。

撮影は、ウィーン、モロッコ、カサブランカ、ロンドンとめまぐるしく移動する。
007ジェームス ボンドシリーズの最後の作品では イタリア本場のスカラ座でオペラ「トスカ」を見せてくれた。オペラ会場でタキシードに身を包んだダニエル クレイグが、思わずため息が出るほど良い男だったけど、アクション映画にオペラというのが好評だったからかどうか知らないけど、この映画では、プッチーニの「トランドット」を見せる。トランドット姫を、ジュリアード音楽大学卒のアメリカ オリヴオという美人歌手に歌わせている。オペラ上演中に、舞台の真上でIMFとMI6とローグネイションとが争いあって格闘するのが、ハラハラし通しで、実に面白かった。
オペラでは、冷酷非道な王様は各地で侵略し領土を拡張している。王様にはわがままで氷のように冷たい心を持ったプリンセス トランドットがいる。そんなプリンセスに、こともあろうに侵略されて城を追われたもとプリンスが一目惚れしてしまう。
戦に負けて乞食同様になったもと王様を介抱する従者の素晴らしいソプラノを聞きながら、着々と舞台裏に殺人者たちが到着して暗殺の準備をしている。また、恋に陥って、眠ってなどいられないと、切ない胸の内を歌い上げるテノールを聞きながら、女がフルートと思わせて会場に持ち込んだ銃を組み立てて、照準を合わせる。
プリンスに愛されて本当の愛の心に目覚めたトランドットが、わたしの恋人の名前はLOVEと、美しいソプラノを響かせてくれるオペラのクライマックスが、ハントとテロリストとの取っ組み合いのクライマックスに重なっていてスリル満点。舞台の真上で争っているから、舞台に落ちそうになってオペラが台無しになる寸前に何度も何度もなる。ドラマチックな本格派重厚なオペラを背景に、3者3様のスパイたちが最新技術の武器を駆使して争そって、十分興奮させてくれて、今までのどんなアクションシーンよりもおもしろかった。すっかり魅せられたが、オペラ嫌いな人にはどう映ったんだろう。

世界中から優れたスパイを事故を装って殺されたことにして新組織を作ってみたが、MI6の一部にしておくには跳ね上がりで、過激すぎるので解散させたが、組織はすでに勝手に独り歩きしていた、という設定や、美人MI6は二重スパイらしいとか、組織のために命を懸けて働いてきたが、信頼していた組織のトップは実は敵だった、という設定はスパイ映画では珍しくもなければ、新しくもない。オーストリアの財務大臣を夫人ともども爆弾でズタズタにしてしまったり、英国首相を誘拐して脅かしてローグネイションを作った経過を白状させたり、、、なんかアメリカ映画って、すごいな。
話の筋書が荒削りで、話が単純、突っ込みどころも満載。
ボーンドクターというまがまがしい名前の悪漢が出てくる。拷問用具を持ち歩いていて、ピカピカに光る包丁、ナタ、金つち、大小長短のナイフを広げてぞっとさせるけど、一度も道具を使わないうちに美人MI6に叩きのめされる。バイクに乗って追ったり追われたり、オペラの舞台上で格闘したり、それなり頑張るけど最後には宿命の対決で肉弾戦になって、でかいナイフを振り回すけど、小さいナイフを持った美人さんにあっけなく殺される。聳え立つでかい体、強面、冷血無血の殺し屋が見かけ倒しだったんですね。だいたい重いブーツ履いて完全武装しているのに、裾の長いパーテイードレスにヌーデイーなハイヒールを履いた女性の廻し蹴りでコケるって、なんなの。

しかし、とにかくアクションがすごい。
トム クルーズがすごい。
スウェーデン人のレベッカ ファーガソンのアクションが華麗で美しい。
前に「ゴーストプロトコール」で、世界一高いドバイのビル、ブルジェハリファの828メートル高い窓に張り付いて、危険なアクションを見せてくれたトム クルーズが、今回は地上1524メートルの高さを飛ぶエアバスの機外に取りついて、そこから機内に入って敵をやっつけるというスーパーアクションを見せてくれる。このシーンを撮るために8回、繰り返し撮影したという。そのたびにトムは、走行し始めたエアバスに向かって全力疾走し、機体の外側の窓につかまって、機外にぶら下がりながら上空の寒さと強風にさらされて挌闘したわけだ。落ちたり滑ったりしていたら、映画は完成しなかった。彼も、今までの映画撮影のなかで一番危険な撮影だった、と言っている。ジャッキーチェン同様、スタントマンを使わない役者だが、その危険の度合いが並はずれている。
モロッコの水力発電所の水の底をもぐるシーンも、出口がないわけだから、危険極まりない。人は2分以上息をしないで生きている生き物だったっけ。2015年型BMW、M3新車でのカーチェイスも、フルにアクセルを踏んで階段のてっぺんから後ろに飛んで着地するなど無茶を通り越している。
モロッコでのBMWバイクのチェイスもあきれるほどだ。これだけ カーブの山道をフルスピードで走れるなら、国際バイクレースでも、マルク マルケスやバレンチーノ ロッシなど負かして優勝できる腕前ではないのか。現に本物のF1マシンに乗って、時速最高速で290KMまで記録したことのあるトム クルーズ、、、並の男ではない。役者は体が資本というが、これほど役者の体の極限まで酷使して良いものなのだろうか。

この映画は話の筋が荒削りな分だけ、映像の方はとてもよくできていて、計算しつくされており、アクションシーンにつぐアクションの連続に息をつくひまもない。それでいて、血が流れない。アクション映画に観られがちな、手足がちぎれたり、顔がつぶされたり、血がダラダラながれたりするシーンが全くない。子供に見せられる珍しいアクションものだ。良心的。大型アクションの娯楽映画の良さが詰まっている。53歳のトム クルーズが好きでない人は、この映画を見て彼のことを好ましく思い、もともと好きな人はもっと彼が好きになるだろう。アクションが断然おもしろい。カンフーを習いたくなる。バイクに乗りたくなる。走りたくなる。だから、たまには娯楽映画も良いものだ。

キャスト
IMFイーサ ハント   :トム クルーズ
IMFウィリアム ブラント:ジェレミー レナー
IMFベンジー ダン   :サイモン ペグ
IMFルーサーステイケル:ヴィング レイムス
CIA長官アランハンレイ :アレック ボールドウィン
英国MI6イルザファウスト:レベッカ ファーガソン
ローグネイション主謀者 :サイモン マクベリー
MI6ソロモンレイン    :シーン ハリス
英国首相          :トム ホテンダー
トランドッド姫        :アメリカ オリヴオ

2015年8月13日木曜日

今日の気分は野良猫次第










もう5年余り、野良猫を世話してきた。黒ねこと、縞ねこと、白黒ぶちの3匹、まるまると太っている。
約200世帯が住むノースシドニーの高層アパートに住んでいるが、アパートの建物と土台の間に、日本で言う「縁の下」みたいなスペースがあって、そこに真っ黒の野良猫が住み着いた。毛並みが良いので、もとは飼い猫だったろう。でも余程、頭も性格も悪い飼い主だったようで、猫に避妊もさせていなければ、オーストラリア政府が飼い主に義務付けているマイクロチップスも埋め込んでいない。おかげで厳しい野良猫暮らしを強いられた猫は、疑い深くなって、保護しようにもすばしこくて捕まえられない。

黒い野良猫に興味をもつようになった切っ掛けは、鳥の死骸だ。
野良猫が隠れ住んでいるスペースのまわりに、たくさんの鳥の羽が落ちている。鳥がどうしたのか、と注意深く観察するようになって、太っていた黑猫がいやに痩せたのに気が付いた。野良猫は妊娠していて、やがて生まれてきた子供たちに、飛んできたハトやカラスを殺して食べさせていたのだった。「母は強し」だ。アパートの周りに来る鳥が、ことさら鈍いわけではないだろう。母猫は余程飢えていたの違いない。
そんなわけで、子連れ野良猫に餌をやるようになった。朝と晩の二回、猫用缶詰めとビスケット。やがて子猫たちの目が開いて、母猫について外に出るようになると、不憫に思ってそっとミルクや食べ物をスペースの入り口に置いていくアパートの住人が何人も出て来た。かと思うと、まゆ吊り上げて「野良猫は汚い、臭い、子猫を無限に産む、捉えて処分しろ。」と叫びまわる住人も沢山いる。こういう一見正論を通そうとする正義の味方みたいな偽善者が一番タチが悪い。

でも黒猫はよく子供を産んだ。冬でも気温10度を切る日が少ないシドニーで、野良猫は年に3回も子供を産む。妊娠中なら捕まえられるかと思うと、そんなに甘くない。なんとか妊娠中に捕まえようとしている内に、子供達が生まれている。猫好きの清掃会社の人と一緒に、泥だらけで腹這いになって建物の下の狭いスペースから、一匹ずつ生まれたての子猫を取り出して、ペットレスキューのところに持って行ったこともあった。やっと歩き出すようになるまで待って、ひとつひとつ捕まえて、ふところに収めて、獣医のところに行って里親探しを頼んだこともある。釣りに使う大きなネットで5匹丸くかたまって寝ているところを、一時に全部一緒に捕えて保護したこともある。それを茂みからじっと見ているであろう母猫の気持ちを考えると、居たたまれない思いがするが、一匹の野良猫で、大騒ぎしているアパートの住人を思うと、これ以上野良猫を増やすわけにはいかない。どうしても子猫たちは、獣医の手で寄生虫駆除とワクチンを打って、避妊手術をして、どっかの飼い主に引き取られなければならない。

200世帯の沢山の人が住むアパートで、野良猫を世話しているのが誰だか、どうしてわかったのか。誰の通報かわからないが、アパートの管理会社から手紙が来た。アパートの住人全員の利害を考えて、「野良猫に餌をやるのを止めなさい。」という結構、強制力のある内容だった。このアパートは駅に近く、勤めている病院の目の前で、ジムもプールもあって便利だから借りて住んでいるが、持ち家ではないから管理会社からの警告を無視すれば、強制退去になり兼ねない。反駁も無視もできないまま、かくれてそっとエサやりを続けてきた。エサを入れた入れ物をエサやりの15分後に片付けにいく。証拠を残さない。猫の餌を持って、猫たちを猫撫で声で呼んでいる一番ヤバい時に運悪く、「猫反対派住民」にとっ捕まってしまった場合、こうした危機を切り抜ける唯一の方法は、「やっていません」を繰り返すことだ。これは1968年12月にデモで逮捕された時に学んだ。
「野良猫に餌をやっているだろう?」
「やってません。」
「そのエサの入った入れ物は何だ?」
「やってません。」
「野良猫は迷惑なんだよ。あんたがエサをやって居続かせると困るんだよ。」
「やってません。」
「ぐずぐず言わずに早いとこ吐いちまえ。全部白状したら楽になるぞ。」
「やってません。」
「おまえがやってるんだろう。こっちは証拠があるんだぜ。」
「やってません。」
という訳で、そのうちに相手の顔がひきつってくる。相手があきらめるまで、この手でいく。そんなやりとりを、茂みとか、隠れ家の中から猫たちが、ハラハラしながら観ている訳だ。「かあちゃん頑張れ」という猫たちの応援が聞こえてくるようだ。

一方アパート管理会社は、害獣駆除の専門業者を雇って、野良猫を処分しようと動きだした。罠を仕掛ける。建物の下のスペースを金網で閉鎖する。毎日罠をつっかえとっかえ変えて巧妙に捕らえようとする。ある真夏の昼下がり、遂に母親猫が罠に捕えられた。小さな金網でできた罠の中で母親猫が低い声で唸っている。この罠が害獣駆除会社のものなのか、同志による母親猫保護のための罠なのか、確認するために家から電話をかけまくっていて、敵による罠だとわかってあわてて罠をぶっこわそうと下に下りたときには、もう遅かった。罠ごと連れ去られていた。

3匹の子猫が残った。母を亡くして以前よりもすばしこく、絶対に人を信用しない。呼ぶと一定の距離を置いてエサを食べに来る。3匹とも雌だと分かって、気が気ではない。早く避妊手術をさせないと、、、。とうとう動物保護団体に助けを求める。彼らは、特別性能の良い罠を貸してくれた。まず、母親似の真黒の猫、サンダーが捕まって、獣医のところでワクチンを受け、避妊手術を受けて、腹巻みたいな包帯姿で隠れ家に帰された。次に縞猫、マギー。白黒ぶちのババがなかなか捕まらなくて、半年もたってやっと罠に入ってくれて、手術を受けた。もうこの頃には3匹全員がすっかり成猫サイズになっていた。獣医からの請求書も ずいぶんビッグサイズになっていたけれど。もうこれで野良猫の妊娠を心配することもない。野良の雄が興味を持たないので病気をうつされることも怪我させられることもない。平和に暮らせる。

ババと名付けられた白黒ぶちがぽっちゃりの日本猫風で可愛い。うちの飼い猫クロエと一緒に暮らさないかと、手術のあと家に引き留めた。しかしワイルドに生まれて、ワイルドに育った彼女、部屋の隅にかくれて出てこない。水も飲まなければエサも食べない排便もしない。結局ハンガーストライキを3日間やって、ベランダから身投げした。15メートルの高さから、空に向かって大きく飛んでいってしまった。ペットとして飼い主に拘束されるくらいなら、「死んだ方がマシだぜい。」という強力なメッセージを残して自由人、黒白ぶちは身を投げた。そして、15メートルの高さをものともせず軽々と着地して、翌日からまた他の2匹の猫たちと一緒に、朝食を貰いに来た。
彼女の15メートルハイジャンプから、5年も時が経った。3匹とも今やまるまる太っている。名前を呼べば近くまで来るし、決して体を触らせてはくれないが甘えた様子もみせる。寒い日には どうして寒さをしのいでいるかと心配するし、呼んでも来ない日は 何があったのか気になる。朝晩2回のエサやりごとに元気な顔が見られれば一日中嬉しい。

人の中にも物質主義の世の中が嫌で、仕事にも家庭に縛られるのもいやで、自由に生きたい風来坊がたくさんいる。猫にも飼われることを拒否して、自由に生きる野良猫が居ても良い。

人にはだれでも自由になりたいという贅沢な夢がある。
腐った阿部政権の「日本国籍」から自由になりたい。重税に苦しむ納税義務から自由になりたい。社会的責任から自由になりたい。絶え間なく忙しい職務から自由になりたい。病気で介護なしに生きられなくなったオットから自由になりたい。すべての束縛から自由になりたい。自由になって、国籍を持たない、職業を持たない、名前を持たない、誰でもない存在になりたい。
そんな、自分の夢を3匹のワイルドな猫たちに託しているのかもしれない。今日の気分は、野良猫次第というわけだ。