2014年7月31日木曜日

映画 「ベルとセバスチャン」

                                 

フランス映画:「BELL AND SEBASTIAN」
監督:ニコラス ヴァニエ (NICOLAS VANIER)
キャスト:セバスチャン: FELIX BOSSURT
      お祖父さん : TCHEKY KARYO
      叔母さんアンジェリナ:MARGAUX  CHATELIER

ストーリーは
6歳のセバスチャンは。フランスのスイス国境に近いアルプス山岳地帯にある、小さな村に住んでいる。親はなく、遠い親戚の叔母さん、アンジェリーナに引き取られている。父親代わりのおじいさんからは、アルプスの山を越えたところにアメリカという国があって、そこにセバスチャンの母親が住んでいて、良い子にしていたらクリスマスに会いに帰ってくると、言い聞かされている。

村の人々は山岳地帯の厳しい自然のなかで、羊の放牧をして暮らしを立てている。村では今年になって何頭もの羊が、野生のオオカミの犠牲になっていた。しかし、残された足跡からみると、どうやら羊を襲っているのはオオカミではなくて、野生化した大型犬らしい。冷酷な飼い主から逃げ出して野生化した犬が羊を殺すのは困ったことだと考えた村の人々は、山のあちこちに罠を仕掛けた。ある日、セバスチャンは山で、汚れたボロをまとったような大きな犬に出会う。いつも一人ぼっちのセバスチャンは、すぐに人なつこい犬と友達になる。ベルと名付けて、時を忘れて野山を走り回りセバスチャンは遊んだ。しかしそれを秘密にしておかなければならない。セバスチャンは、ベルに罠のあるところを教え、山稜にある山小屋の秘密の隠れ場所を教える。

時は1943年。ドイツ軍が、セバスチャンの住む小さな村にも進駐してきた。セバスチャンの叔母アンジェリーナは、村のパン屋をしているが、駐屯するドイツ軍のためにパンを供出しなければならなくなった。村に居るたった一人のドクターは、パルチザンに加わっていて、ユダヤ人を山越えしてスイスに逃亡させる手伝いをしていた。村の人々は一見、平常と変わりないように暮らしているが、駐屯しているドイツ軍兵士たちの強権的で横柄な態度に強い反感を持っている。

ある日、セバスチャンは山の稜線で山岳パトロール中のドイツ兵が、興味本位で子供を連れた山羊を打ち殺すのを見て、それを止めさせようとする。子供をもった親羊が撃ち殺されると、残った山羊の子供は生きていけない。邪魔をされたドイツ兵たちはセバスチャンに腹を立てて暴力をふるう。それを見た大型犬ベルは、セバスチャンを助けるために、ドイツ兵に襲い掛かって怪我をさせた。怒ったドイツ兵は、村人を集めてこの犬を殺すように命令する。村中の男たちが駆り集められた。セバスチャンはベルをかばうが、人々の理解を得ることができない。ついにベルは追いつめられて撃たれる。その夜、セバスチャンは、ベルが死んだものと思って眠れなくなり山小屋に登って秘密の隠れ場所に閉じこもっていると、夜半傷を負ったベルがやってくる。ひどい熱で怪我も重い。セバスチャンはドクターを連れてくる。そしてベルのことを口外したら、ドクターがユダヤ人を山越えしてスイスの逃亡させていることをドイツ軍に密告すると脅かしてベルの傷を治療してもらう。やがて、ベルは元気になる。

クリスマスが来た。ドクターは引き続きユダヤ人家族を国境まで案内して国外に逃亡させている。ある夜オオカミに襲われた羊を囲い込もうとして、ドクターは大怪我をする。雪山で、歩けなくなったドクターをそりに乗せて山道を下り、セバスチャンの家まで、そりを引いてきたのはベルだった。ドクターの命は助かったが、山小屋の残してきたユダヤ人家族の山越えの案内をすることができない。セバスチャンの叔母アンジェリーナが代わりに案内をすることになったが、女一人で山越えすることが心配なので、セバスチャンがベルを連れて同行することになった。ユダヤ人家族と国境線の山々の超える山行は、吹雪になって全員遭難する危険があった。しかし辛うじてベルの方向感覚に頼って困難な山越えを成功させることができた。ベルはセバスチャンにとってだけでなく、人々にとってなくてはならない存在になっていた。
クリスマスがきても、アメリカにいるといわれていたセバスチャンの母親は帰ってこない。お祖父さんは、セバスチャンに本当のことを話す。セバスチャンの母親はジプシーだった。セバスチャンを産んで居なくなった。でもセバスチャンはもう一人きりではない。ベルがいつも一緒だ。
というお話。

2013年フランス映画祭の出品された作品。1965年の子供向けの童話を映画化したもの。
最初の山岳シーンがすごい。心ない猟師が、歩けるようになったばかりの子羊を連れた母親の山羊を撃ち殺す。撃たれた山羊は斜面を岩にぶつかりながら谷に落ちていく。残された子羊は急斜面の取り残されている。母乳を飲んでいる子羊は母親をなくすと生きていけない。それを山稜から見ていたおじいさんは、セバスチャンに空のリュックサックを背負わせて、命綱をつけて岩場から下に下ろして子羊を救出に向かわせる。切り立ったオーバーハングの岩場だ。たった6歳の小さな子供がロープ一本を命綱に降りていく。それを360度の角度から写し撮る。レンズを接写から広角へ、山全体を映していく。アルプスの乾いた岩の急先鋒がどこまでもどこまでも続く。4808メートルのモンブランに続くジュラ山脈の山々だ。アルプスの山々の大きさに比べてロープ一本で釣り下がっている人の何と小さいことか。このスケールの大きな山のシーンを見るだけのために、この映画を見る価値がある。

そういった山岳地帯の自然描写がただただ美しい。わずかな緑を求めて放牧した羊を移動させる人々。堅固な石でできた洞窟のような家に住む人々。深い雪、厳しい自然。ドイツ軍による進駐、冷酷無比の隊長。ウサギ狩りをするような感覚で面白半分にユダヤ人逃亡者を追い詰める兵士たち。暗い時代に、厳しい自然状況に生きる人々の内に秘めた生への希求。
親のない子供の心にある大きな穴をすっぽり覆い隠すほどの存在感と重量を持った大きなセントバーナード犬の力強さ。犬と人との友情を扱った友情物語はいつも感動的だ。

はじめベルが野生化した犬なのでぼろ雑巾のように汚い灰色をして登場するが、セバスチャンと一緒に川で泳いで遊んで、岸に上がってみるとびっくり、真っ白でふわふわのまったく別の犬になっている。映画を見ていた人が「ほ ほー!」とため息をついていたが、セバスチャンも「え、おまえは白い犬だったの?」と言う。セバスチャンも映画の観客も一緒に驚いて、同時にその美しさに感動するシーンだ。監督の見せ方がうまい。
犬は他の動物にない人に対するゆるぎない信頼と、忠誠心をもっている。人は裏切るが犬はしない。語り掛ければ、懸命に耳を傾けて聞き取って、人と喜怒哀楽を共有しようとする。犬の良さがみていてよくわかる。
子供向けの童話なので登場する人物の内面が深められていない。ストーリーも単純すぎる。テーマソングが子供がベルベルと歌ってダサい。しかし、犬と少年の美しい姿が、そういったマイナス面を忘れさせてくれる。雪を頂いたアルプスの山々の映像に見とれた。自然の美しさが、映像が終わってもずっと目に焼きついている。とても良い映画だ。