オーストアリア国民の悲願で、完成させることが国家的大事業だった、映画「オーストラリア」が、遂に この12月に完成して劇場公開された。 2年前に、撮影のために アウトバックにあった本当の農場を借り切って映画作りが行われている ということで、国民は その仕上がりを今か今かと期待に胸を膨らませて 待っていたわけだ。1億3000万ドルかけて作られた 超大作、3時間の映画だ。いわば、オーストラリア版「風と共に去りぬ」。この映画を完成させることが国家的事業であったから、公開されて、観にいかないのは、国賊扱い、と言うわけだから観に行った。
監督:バズ ラーマン
俳優:ニコル キッドマン
ヒュー ジャックマン
ストーリーは 英国貴族アシュレイ サラ(ニコル キッドマン)は、新開拓地オーストラリア北部に 広大な牧場を所有していた。
その牧場は ベルギー一国ほどの大きさで、夫が管理している。しかし、サラは 夫がこの未開地に長らく留まったまま 帰ってこないので 業を煮やしている。彼女は、オーストラリアに行って、牧場など、処分して 夫を連れ戻してくるつもりでイギリスを発つ。
着いたところは、オーストラリア最北の港町 ダーウィン。ここで、サラは イギリス政府から派遣されている官庁の役人達の丁寧な歓迎など 素通りして、荒くれカウボーイのドローバー(ヒュー ジャックマン)の運転する車で 牧場に向かう。 しかし着いた屋敷でサラを待っていたのは 槍で襲撃されて死亡したばかりの 夫の横たわる姿だった。家には 年をとった会計士と、中国人の料理番とアボリジニーの家政婦がいるだけ。サラは 家政婦の息子ヌラ(ブランドン ウオルター)と友達になる。
会計士と話していて、わかったことは、牧場のマネージヤーは、ダーウィンの牛肉業界のボスの婿養子で、不正を働き、牧場の牛を計画的に盗んでいたことだった。サラはただちに マネージャーを首にする。しかし、それは、ダーウィンから遠く離れた牧場で サラが たったひとり孤立してしまうことを意味していた。 それを知ったサラは、カウボーイのドローバーに、すがって、1500頭の 牛をダーウィンに売却するため移動させて欲しいと、懇願する。20人のカウボーイが必要な牛の移動を 3,4人で、できるわけがない。彼は いったん断るが サラの窮状を見ぬふりで去ることができない。 また、アボリジニーの子供ヌラが 当時の白人同化政策のため、ミッションスクールに強制収用するため、連れ去られそうになっているところを 自分の子供として育てる決意をするサラを見て、ドローバーは、サラのために、人肌脱ぐことにする。
カウボーイのドローバーと、サラと、アボリジニーのヌラと 年老いた会計士、数人の身の回りの世話をするアボリジニー家族だけで、1,500頭の牛を移動させる過酷な旅は、苦渋を極める旅となる。不正をして解雇されたマネージャーは、執拗に追ってきて サラとドローバーの牛の移動を妨害する。何度も 死線をかいくぐりながら 少年ヌラと、それを遠くから見守るアボリジニー長老のキングジョージの不思議な 自然と一体化したようなパワーに助けられながら、遂に一行は、ダーウィンに到着する。 初めは、サラはイギリスから持ってきた絹のドレスや帽子などまでを持たせて移動していたが、荒々しい砂漠で、何度も命に関わる経験を経て自分がどんなに 世間知らずだったかを 思い知る。その過程で、不可能な旅を可能にしてくれた ドローバーのカウボーイとしての能力や 人間としての幅の広さを認識して サラはドローバーを愛するようになる。同時に子供が苦手だった自分が、孤児になったヌラを引き取ることによって 人間としても成長する。
サラはダーウィンに着いて 牛を売り払い、牧場を処分してイギリスに帰る予定だったが それを取りやめて ドローバーと二人で牧場を経営して ヌラを引き取って暮らしていくことを決意する。しかし幸せは長く続かない。日本軍が、パールハーバーを攻撃して戦争が始まった。ヌラは、警察に拘束され、ミッションスクールのある島に送られてしまう。サラが ダーウィンの市庁舎で、通信業務を手伝っているときに、日本軍の攻撃にあい、沢山の死傷者をだして、街は混乱し、人々はパニックに襲われて、あわただしく避難を開始する。サラも、死んだと、伝えられる。 混乱のなかで、ドローバーは 船に乗って ヌラが連れ去られたミッションスクールのある島に行き 爆撃から生き残ったヌラと他の子供達を 連れ帰ってくる。その途中で、日本軍兵士と銃撃戦になって、ドローバーは 自分の弟を亡くす。 ダーウィンに子供達を連れ帰ったドローバーとヌラの目の前に 市庁舎の崩壊とともに焼死したはずのサラが 立っていて、、、。というお話。
アメリカ ハワイのパールハーバー(1941年12月7日)では、日本軍によって 殺された人:2403人。171機の飛行機、21艘の船が破壊された。
1942年2月19日のオーストラリアへの攻撃では、たった5000人の人口のダーウィンで、243人が死亡、350人の負傷者が出た。
パールハーバーに比べると、ダーウィンでは、被害の規模は 少ないが 攻撃を全く予想もしていなかったため、人々の衝撃は、小さくなかった。60年たった、今でもダーウィンの住民による反日感情は大変強い。それは、事実。また、当時の日本軍の対外政策は間違っていた。日本軍はジュネーブ協定など無視して残酷非道なことをした。日本軍は悪い。これも事実。 しかし、だからといって 歴史にないことを映画で作ってしまっては いけない。この映画には 事実義認がある。日本軍はダーウィンを空から攻撃したが、いかなるオーストラリア領地も、占領していない。攻撃の直後に、陸軍がダーウィン付近の島に上陸して、ミッションスクールを探索したり、子供を救いに来たオーストラリア人を取り囲んで殺したりはしていない。 この映画は 世界大戦という激動の時代を背景にした、人間ドラマで、歴史スペクタクルなのだから、歴史にないことを作ってはいけない。調べれば 簡単にわかるような歴史検証をせずに シナリオを作ってはいけない。3時間ちかく、ふむふむ、と気分良くみていて、ここのところで、全くしらけてしまった。わたしは、こういう小さな嘘がきらいだ。
それにしても、雄大な北部オーストラリアの山々、川 そして砂漠。広大な大地。その中で アボリジニーの長老:キングジョージ(デビッド ウェンハム)が すごく良い。この俳優、たくさんの映画に出て、活躍しすぎて 一時酒と女で、悪い男だった時期もあったそうだが、いまは、枯れて 本当にアボリジニー社会で、裸で伝統的なブッシュ生活しているようだ。 今回の映画では、アボリジニーの13歳の少年ブランデン ウオルターが、断然スーパースターだ。ものすごく可愛い。まつげの上に重い万年筆を載せても落ちない。びっしり生えて、ながーい睫毛にぱっちりした大きな目。彼らが画面に出ると、デジュリドウーが鳴り出し アボリジニー風の音楽が流れて これがオーストラリアだ という確かな感覚がある。アメリカ映画で、インデイアンが 付け足しみたいに出てくるのとは かなり違う。この映画、アメリカでも公開されて、けっこう高く評価されているらしい。大画面で、観ても損はない映画だ。