2008年3月13日木曜日

オペラ 「ラ ボエーム」


オーストラリアオペラの定期公演のひとつ、「ラ ボエーム」を観た。
プッチーニの作品。音楽:オーストラリアオペラバレエオーケストラ。指揮:TOM  WOODS。 監督:SIMON  PHILLIPS。
出演は、
詩人ロドルフ:WARREN  MOK (テナー)
画家マルセロ:BARRY  PHILLIP(バリトン)
哲学者コリーネ:JUD  ARTHER(バス)
音楽家ショナルド:WARWICK  FYFE (バリトン)
お針子ミミ:ANTOINETTE  HALLORAN(ソプラノ)

若きボヘミアン、パリのカルチェラタンの屋根裏部屋に住む 貧しいが、志を高くもった若い芸術家達のお話。

詩人ロドルフは、画家マルセロ、哲学者コリネ、音楽家のショナルドと一緒に 貧しくつつましい生活をしている。ストーブに くべる薪も買えない冬の夜を 自分の売れなかった詩を燃やして凍える手指を暖めたりしている。そんななか、やっと、音楽家のショナルドの 曲が売れて 皆の食べ物が手に入って ほっとしている。喜び勇んで 皆がカフェに出かけていってしまった後で、一人残って書き物をしていた詩人ロドルフのところに、同じアパートに住む、お針子ミミが ろうそくの火をもらいにやってくる。

二人は すぐに惹かれあい 愛し合うようになる。でも、ミミは結核に侵されていた。せっかく二人で幸せな生活を始めたのにロドルフは ミミのために薬を買ってやることも出来ない ふがいない自分を責めながら ミミと別れることにする。ミミは別の男のものになって去っていくが、結局ひどい扱いをうけて、最後、ロドルフのところに帰ってきて、ロドルフに抱かれながら死んでいく というお話。

このオペラで一番良いところは 第1幕の始めのところ。ロドルフとミミが出会って、二人で歌うアリア「冷たい手を」で、ミミの冷たい手をロドルフが自分のポケットで温めてやるところ。本当に美しい曲だ。この「冷たい手を」は、ハイC (高音のド)といって、テノールの歌い手にとって、限界ともいえる高音なので とても難しい曲だ。それを 痩せ型 ハンサムなロドルフがミミを抱きながら 難なく歌い上げるところに このオペラの良さがある。これが歌えないテノール歌手も、たくさんいる。

この曲に続いて、今度はミミが、「私の名はミミ」を歌い 可憐な美しさで 舞台を圧倒する。 この二つの曲は 最後ミミが死ぬときにも 繰り返し歌われる。

それとミミが死にそうなとき、哲学者のコリーネが美しいバスで 自分のジャケットを売って ミミのために薬を買いに走るときの歌が良い。凍えそうな寒い火の気のない部屋で 僕を温めてくれた上着よさようなら、と歌うのだけど 彼のロドルフへの友情のあつさに ほろっとくる。

総じて、今回の舞台は 第2幕のカーニバルの華やかさも楽しかったし、画家マルセロと愛人ムゼッタとの ドタバタも楽しかった。寒くて、空腹で結核持ちの暗い悲しいお話だけれど、笑いも涙もあり良い舞台だったと言っても良い。

でも、やはりオペラに200ドル近く出して観にいくからには 声が良くて楽しい舞台だったら良いかというと、それだけでは不足。どうして主役ロドルフが 中国人? 彼、髪をオールバックにして、小太りで背が低い。いくら声が良くても、、、WARREN MOK さん、その外見 なんとかなりませんか?

それと登場人物の衣装にも もんくがある。この悲しいお話は結核が不治の病だった頃のプッチーニの頃のお話で パリでカルチェラタンなのだから、画家は画家らしく、詩人は詩人と ひとめでわかるような服装で 当時のパリの雰囲気を出して欲しかった。

オーストラリアは 北半球のイタリアファッション、パリコレクションからは、遠く離れていて およそ、こいきなファッションに縁遠い。オーストラリアブランドといえば、マンボーとかビラボンとか みんなサーファーグッズや水着の店しかない。若い男のファッション最先端といえば、ひざ下までの半ズボンに 花柄の半そでシャツ、女の子といえば ゴムぞうりに吹けば飛ぶような小さな水着 というわけだ。

で、この舞台の衣装係は、何を血迷ったか パリに お気楽オージーファッションを持ち込んだ。 画家マルセロは 皮ジャンにブーツ、(バイク乗り回すわけじゃないでしょう?)。 哲学者コリーネは ひざ下半ズボン(真冬ですよー)に建築現場のひとが履く様なドタ靴。 主役のロドルフは 唯一、ベルベットの背広ジャケットを着ていたけど、禿げ上がった頭にオールバックヘアで、二段腹では、ねー、、、。トホホ。

そんな訳で、いつもはオペラを見るときは老眼鏡にオペラグラスももって 舞台の隅から隅まで ながめながら素晴らしいテノールやソプラノに酔う私も 今回の舞台ではオペラグラスもめがねも さっさとバッグにしまいこみましたよ。眼鏡なしで ぼやけているくらいが丁度 良かった。時々 目をつぶって聴いていました。

昔テレビで 盲目のイタリア人歌手 ボッチェリが この主役ロドルフをやったときの素晴らしい舞台を観たが、目を閉じて このときの情景を思い描いていた。盲目なので 動きが少なく シーンによっては他の俳優に手を取られながら演じて、歌っていたが 当時のカルチェラタンに住む若い詩人の雰囲気を身につけていて、ミミを失ったときの 悲嘆の歌は、ハンカチが3枚くらい必要なほど真に迫っていて泣けた。そんな、舞台を観たかったなー。