2007年8月25日土曜日

2008年の日記帖

この時期の 楽しみのひとつは 来年の予定がひとつずつ埋まっていくことだ。

まず、オペラ。2008年のカタログが 水曜日に送られてきた。来年は、シドニーでは、12のオペラが上演される。 このうち、6つを観る事に決めた。2月に、プッチーニの「ラ ボエーム」、3月に ビゼー「カルメン」、7月に「マイフェアレデイー」、8月に、ドンゼッテイの「LAMMEMOOR]、9月に「真珠とり」、10月に、ヤナチェックの「MAKROPULOS SECRET」。カチャカチャ チーン!$1900、19万円! ひ、ひきつけ起こしそう。でも、すごく良い席が確保できた。たのしみ。

そうしているうちに、オーストラリアチェンバーオーケストラ(ACO)の 来年のカタログも届いた。年間7回の定期公演。リチャード トンゲテイのバイオリンは何といっても、文句なしにラリアで、一番。毎回の公演ごとに、ゲストが来て、多くは外国からの 様々な楽器の演奏家だが、この人たちとオーケストラの共演が、とても楽しい。これは、何年も毎年観にいっているので、特別の価格で、$500.

それと、この時期に、2008年のジャーマンセパードの日記が、良いタイミングで、カナダから、送られてくる。$25なり。ジャーマンセパードの日記帖は、写真集になっていて、表紙がセパードの写真というだけでなく、1週間ごとに ページをめくるごとに、ちがうセパードの写真がでてくる。週ごとのスケジュールが一目瞭然で便利なだけでなく、毎週いろんなセパードの表情に出会うことが出来る。私たちがシドニーにくるときに、フィリピンに置いて来ざるを得なかった家族の一員だったセパード犬とそっくりの 犬の多いこと。毎日ページを広げて、そっくりさんの犬をながめては、12年前に置き去りにしてきた犬をしのんでいる。もし、生きていれば17歳の、アルメニウス セント デ ニコラウス、、、どんなだろう。

2007年8月24日金曜日

映画 「NO RESERVATION」


映画「NO RESERVATION」邦題「幸せのレシピ」を観た。スコット ヒックス監督 ハリウッド映画、主演 キャサリン ゼタ ジョンズと、アーロン エクハート。

この映画の前に、全く同じシナリオで、2001年に ドイツ版があって、邦題「マーサの幸せレシピ」で、上映されていて、とても好評だった。監督はサンドラ ネット ルペック 30代のシングル女性で、ハンブルグにある、評判のフレンチレストランが、舞台だった。

有名レストランのマスターシェフ、ケイトは、料理こそ自分の生きる道と決めて腕を磨いてきた。自分の名前のついたレシピを持っていて、固定客を沢山抱えるほど、評判の高いシェフとして、ワークホリックな毎日を送っている。彼女のキッチンは 冗談も余裕もスキもない、完璧主義の彼女の性格を反映して いつもピリピリしている。そんな彼女を、レストランのオーナーは、心理療法士のコンサルテーションに送り出す。にもかかわらず、彼女の頭の中は、新しいレシピのことばかり、自分の欠陥に気ずかないでいる。

そんな彼女の妹が9歳の娘を乗せた自動車で事故に合い 急死する。妹はシングルマザーで、この母親を失ったばかりの子、ゾウ(ABIGAIL BRESLIN )を、ケイトが引き取ることになる。結婚にも興味なく仕事ひとすじだったケイトが 急に母親役を引き受けることになり 子供の心をつかめない彼女はゾウの拒食症にあって、誰からも賞賛されてきた自分の料理を拒否されて、どうして良いかわからない。

そんなときに、レストランにイタリア人コックのニックが登場する。ハンサムで明るくてオペラを歌いながら料理する彼に早くもレストランオーナーやキッチンの働き手達の心は奪われてしまっている。自分こそがチーフとして固定客を持ち レストランを牽引してきたのに、自分の誇りと よりどころをケイトはいっきに失いそうになる。ニックはケイトのレシピにあこがれて来たというが、ケイトにはニックの何もかもが気に入らない。

しかし、そうしているうちに 心を閉じていたゾウが、ニックには 心を開きかけてきた。段々とケイトはニックを無視することが出来なくなってくる。そこで、まあ、子供がカスガイになって、二人が結ばれる めでたしめでたし、というお話。

ハリウッドの顔きき、マイケルダグラスと結婚して、エリザベステーラーが リチャードバートンから せしめたのよりも大きなダイヤをもらって、二人の子を産んだキャサリン ゼタ ジョーンズの本格的映画界への復帰作というので、大宣伝している映画。彼女の出産前に主演したミュージカル「シカゴ」では、彼女、アカデミーも取ったけれど、歌も踊りも本当に素晴らしかった。彼女、子持ちになっても相変わらず美しい。 この映画も、娯楽作品としてそれなりに楽しいし、シングルマザーの子が孤児になってしまって拒食症になるなど、泣けるところもあって、良い映画だった。

しかし、2007年アメリカ版のこれよりも、2001年ドイツ版のほうが ずっと良かった。比べ物にならない。 40才近くなろうとしている美女が料理に、うちこんで、他のものが見えなくなっている様子や、彼女が家に帰ってきて静まり返った よく整頓された部屋の様子、神聖な料理場で歌を歌ったり冗談をいって人を笑わせるようなイタリア人料理人に対する軽蔑心、嫌悪感を、ドイツ映画では女優がとても、自然に演じていて、共感がもてた。アメリカ女がこれを、まねてみても 全然寂寥感とか、嫌悪感がでてこない。

ハリウッド映画では、登場人物が良く動きよく しゃべり過ぎる。しゃべりすぎて下品だ。私はフランス映画の静寂、ひっそり喜び哀しさを暗示するような音のない瞬間が好きだ。 だいたい、この映画ではマンハッタンの人気フレンチレストランという設定だけど、忙しいニューヨーカーに、食い物の味がわかるのか? ソースに命をかけるフランス料理が、前の映画では、ヨーロッパだったから まだ納得できたんだけど。 前の映画では、イタリア人シェフが全く美男でないところも、良かった。今回のハリウッド版は、男が役の割りにハンサムすぎる。美男美女のコミカルな娯楽映画になってしまって、限りなく、無価値な見てすぐ忘れてしまう映画のひとつになってしまった。残念だ。

2007年8月9日木曜日

映画 「フラクチャー」


アメリカ映画「FRACTURE」を観た。邦題は未定。FRACTUREは 砕けるとか、壊れると言う意味。 アンソニー ホプキンス(ANTHONY HOPKINS)と、ライアン ゴスリング(RYAN GOSLING)の、サイコテイック 二人劇とでもいえる映画。すごく良く出来た映画。 アルフレッド ヒッチコックが生きていたら、同じ、この2人の俳優で この映画を撮影しただろう。

アンソニー ホプキンスは、この映画で、テッド。富も名声も業績も、美しい妻も もっている教養ある、航空工学の専門家。

ライアン ゴスリングは、ウィーリー。片田舎で、貧しい家庭の私生児として育ち、スポーツで認められた奨学金で 辛うじて、大学の法学部を出る。日ごろの努力の結果、検察官として頭角を現してきた。彼の担当する犯罪者の97%は 有罪にして、刑務所に送り込んできたので、検察から一目置かれるようになった。 そして、遂に、私立の弁護士ファームに高給で引っこ抜かれることになった。有頂天で、人生順風 航海楽し の瞬間。

ウィリーが まさに新しい職場に移動する直前に、夫が妻を銃で撃つ殺人未遂事件が起きて 犯人が現場で自供しているという警察の言葉を鵜呑みにして引き受けたことによって、彼は、新しい職場も、実績も名誉も何もかも失うことになる。

テッドの豪邸で、浮気をしていた妻が 銃で撃たれて 血の海のなか、瀕死の状態で倒れている。その横に、銃をもったウィリーが立っている。押し入った警部にテッドは 自分が撃って妻を殺したと言う。テッドは逮捕されるが、かれの銃に発砲の痕跡がなく、テッドの体から、硝煙反応が出ないため警察も検察もテッドを有罪にするための、証拠が立件できない。

裁判の法廷で 事件担当で、テッドを逮捕拘束した警部が、撃たれた妻の浮気相手だったことが、テッドによって巧みに暴露されて、警察側の大失態。ウィリーは テッドの有罪を証明できず、テッドにとことんまで もてあそばれる。 一方、テッドは晴れて、自由の身になる。この先は、これから映画を観る人のために 言わないでおく。

自分の担当した事件の97%の成功率を誇る 若い検察官ウィリーに対して、3%の間違いも、決して許されることのない パーフェクトが要求される航空工学の世界で生きてきたテッド。 美しい妻は、顔に弾丸を受けて、壊れる。(fracture)そして、ウィリーも、卵の殻が簡単に壊れる(fracture)ように、壊れていく。そして、テッドの壊れる様子はもっと痛ましい。

いつも、完全犯罪を解くおもしろさを映画にしてきた ヒッチコックが、アンソニーホプキンスの名演に、手を叩いて 喜んでいる様子が、目に浮かぶよう。完成度の高い映画だ。

2007年8月7日火曜日

映画 「AS IT IS IN HEAVEN」


スウェーデン映画、「AS IT IS IN HEAVEN」(邦題未定、天国にいるような、か?)監督、カイ ポーラック(KAY POLLAK)を観た。この映画は シドニーで一番古くて 72年の歴史を誇る映画館、クレモンオピアムで、連続37週間 上映している。現在もまだ上映記録更新中で、毎日フィルムを回し続けて 話題になっている。 連続上映第36週目に行ってみた。驚くことに館内は満員の盛況。一人として美男、美女が映画に出演している訳ではない。有名な監督でもない。地味な映画だが、評判にたがわず、良い映画だった。

オーストリアで高く評価されている、有名な指揮者ダニエルは、ある日、舞台で指揮を終えた瞬間に、心臓発作で倒れる。死の淵から生還した彼は休養を命じられ、激しい音楽家の競争社会を捨てて、子供のころ 暮らしたことのあるスウエーデンの田舎に帰ってくる。古い小学校を買い取り、自然の美しさに見とれ、ただなすがままに残りの人生を送るつもりできたのに、教会の合唱隊の指導を頼まれる。全く 乗り気でなかったのに、地元のおじいさんや おばさんたちが 発声方法や音楽の基礎を学ぶうちに みるみると変わっていく姿を目の当たりにする。遂に彼は指導にのめりこみ、合唱隊をオーストリアの合唱コンテストに出場する程の実力を養う。ダニエルはコンテストの当日、奇跡のような美しいハーモニーを聴きながら、、、、というストーリー。

これは、音楽が人の生き方を変えることが出来るという、現実をきわめて明確に描いた映画。 ダニエルの 理にかなった合唱指導が実に良い。全身を使って どなる、自己最大音を発散させる、床に寝て腹筋をゆるめて、大笑いする、腹の底から笑う、足を踏み鳴らしながら体を動かす、声の限り自分の音を出させる、咽喉で歌うのでなく全身をサウンドボックスにして、音の振動を感じる、このようにして 体を音を振幅させる楽器として音が出せるようになると、団員のひとりひとりが音の限界からも、個の限界からも開放されて、表現する喜びに満ち溢れ、自然と歌い踊りだす。

家庭内暴力をふるう夫をもった妻は、合唱団で歌うことによって自分をとりもどし、家を出る決意をする。知恵遅れの 青年はやっと、合唱団に自分の居場所を見つける。2年間 妻子ある男にだまされていた女は、男を見限る。長年 女教師に片思いしてきた おじいさんは、遂にみんなの前で、彼女に愛を告白する勇気を持つ。 牧師の妻は生まれて初めて 感情を表現する喜びを知って、改めて、夫に愛を告白して歓喜の夜を過ごす。そんな妻に、牧師の夫は「このような行いは間違った行いだ。」と、妻をたしなめようとする。女として成長して変わった妻を受け入れられない夫、喜びを分かち合うことができない夫にとまどう妻、、、自分の生を生きる自信をつけた妻達に対して、嫉妬に狂い 暴力で女を押さえつけようとする男達の、醜いこと。

スウェーデンの片田舎の自然が素朴で美しい。合唱団が出かけていく、オーストリア、インスブルグの町並みの美しさ。雪を頂いたアルプスの山々に囲まれた街に 赤い路面電車がはしる。一度、住んでみたい街。 この映画、音楽の持つ力を存分に描いた後、単に感動もののハッピーエンドにさせないところが良い。