2007年4月17日火曜日

映画 「世界最速のインデアン」


とても若かった頃、出会ったときから 何かすごく気があって血がつながっているみたいに心安く ずっと信頼を置いていた人がいる。その昔 私がものを書いていた頃 彼も書いていた。4000キロほど離れていたが、バイオリンを弾いていた頃 彼も弾いていた。今はもっと離れたところで暮らしている。そんな人と 先日、本当に久しぶりで東京で会った時、この映画がとてもよかった と言ったのでうれしかった。

映画「THE WORLD FASTEST INDIAN」「世界最速のインデアン」。シドニーでは 余り 話題にもならず、メジャーの映画館では上映されなかった。 ニュージーランドとUSA合作映画。主演 アンソニーホプキンズ、監督、ロジャードナルドソン、2006年作。 キウイ(ニュージーランド人)のバート ムンロ(BURT MUNRO)が、64歳のときに、1920年代のインデアンという名のバイクをもとに自分で作ったバイクで アメリカ ユタで行われるレースに出場して 世界新のスピード記録を出したときの実際のできごとをもとにした映画。このとき1967年のスピード記録は いまだに破られていないのだそうだ。

長年、役者として功績を残し70代になっても現役のアンソニーホプキンズはサーの称号をもらったが、この映画では キングイングリッシュを捨てて、キウイアクセントに徹していた。64歳のバートは 長年のバイクの排気音で難聴、ニトログリセリンが手離せない狭心症、おまけに前立腺肥大で排尿障害も持っていて ぜんぜんかっこよくない。そんな彼がバイクレースに出るという目的だけのために、淡々と、そしてゆうゆうと一歩一歩目的に向かっていく姿をみているうちに 彼のうれしさが自分の喜びになり、彼の落胆が自分のつらさになり、すっかり共鳴して、彼が本当のヒーローに見えてくる。この男 すごくかっこいい。

NZランドからロスアンデルスまでの 船の旅費が十分でなく、乗船中は料理人、皿洗いなんでもやる。はじめはエプロン姿のおじいさんに 何だよ と言う感じが 人懐こい彼の言うことには含蓄があり、荒くれ水夫達の大に人気者になってしまう。

ロスに初めて着いて タクシーの助手席に乗り込もうとして運転手に どなられる。NZランドやオーストラリアでは 運転手などの肉体労働がホワイトカラーより貴重で大切にされるから 客は仲間意識をもって運転手の助手席にすわるが、アメリカではホールドアップを恐れて 客が助手席に座ろうとすると運転手はパニックになる。1分間も無駄にしたくない運転手と 田舎ものバートのやりとりがおかしい。

モテルに着いて受付で、あんたイギリス人と聞かれて、「え、ぼく、そんなにひどくないでしょう?」と答えるのも、彼のウィット。女性と思っていた受付の人が ホモセクシュアルの男性とわかっても 気にせずきちんと レデイとして扱う。

いよいよ ボロ車を買って修理して ユタのソルトレイクに向かうが、途中、バイクが破損してインデアンの老人に助けられる。湧き上がる彼との友情。美しい石でできたお守りのネックレスをかけてもらって、また出発。 バートの「 同性愛差別や人種差別を超えた 人類みな等しい、人に違いがあるとするなら 夢を持つ人と持たない人とがあるだけ 」という彼の意識が映画の随所で観られる。

本当に苦労しながら ソルトレイクのレース会場に着いて、もうレース参加の申し込み期間が過ぎていたり、バイク修理の費用に底がついて レースに出られないところだったり、と、いろいろなできごとがあるけれど、そのたびに彼の ひょうひょうとした魅力に周りの人々が 助けずにいられなくなって、人々の温情に助けられながら レースで世界新記録を出すのだ。

この映画はアンソニーホプキンズがやらなかったら、全然 成功しなかっただろう。ホプキンスがとても良い。彼自身、インタビューに答えて、この役になるのが じつに、楽しくて、自然に演じられた。と言っている。ホプキンズと言う人は 怪傑ゾロや、ハンニバルや 人食いレクター博士をやっているより、本当は自身がバートのような人なのではないか。

この映画は夢を持って生きる男達に改めて夢を見続けることの大切さを再認識させて、涙ぐませた。

映画には出てこなかったが、実際のバートが世界記録を出したとき スポーツ紙のインタビューで、200キロのスピードで走って 死ぬことが怖くないのか と聞かれて、「全然こわくない。ぼく、平穏に暮らしていくよりも、5分でも余計にバイクにのっていたいんだ。」と答えたそうだ。 うーん、64歳の男のことばにしては、悪くない!