2011年9月11日日曜日

NYメトロポリタンオペラ 「トスカ」



ニューヨーク メトロポリタン オペラ公演「トスカ」プッチーニ作曲、3幕4時間を 映画館でハイデフィニションフイルムで見た。

実物のオペラ「トスカ」は 去年 オペラオーストラリア公演を、下の娘と観た。上の娘は この「トスカ」を本場イタリア ローマのカラカラ遺跡の野外オペラ会場で観てきたところだ。真夏なのに、夜になると遺跡のあたりに風が出て、寒くて寒くて途中からは ガタガタ震えながら観ていた と言う。

指揮:ジョセフ コラネリ
キャスト
トスカ   :カリタ マテイラ
カラバドッシ:マルセロ アルヴァレス
スカルピア :ジョージ ガグニッゼ

ストーリーは
1800年 ローマ。聖アンドレア デラ ヴァレ教会で画家、カラバドッシがマリア像を描いている。そこに ナポレオン支持派の反政府活動家アンジェロデイが 監獄から脱獄してくる。カラバドッジは 親友の出現に驚きながらも 自分もナポレオン支持に傾いているので、親友を匿い 無事に逃亡させる決意をする。脱出計画を立てている最中に 女優で恋人のトスカが カラバドッジに会いにくる。あわてる恋人のただならぬ様子に、嫉妬深いトスカは 彼が浮気をしていたのではないかと疑って責め寄る。

そんなトスカを 心から愛している気持ちを誠実に伝えて なんとかなだめて、カラバドッジは 親友を別荘に案内して匿う。
しかしその間に 警視総監スカルピアが 脱走犯を追って教会にやってくる。トスカもカラバドッジの態度に腑に落ちない気持ちで 教会にまた戻ってきて、スカルピアと顔を合わせる。スカルピアは早くも カラバドッジが アンジェロッテイの逃亡に関わっていることを悟り トスカの嫉妬心を利用してカラバドッジを問い詰めれば 脱獄犯を再逮捕できるし、ついでに片思いしていたトスカも思いどうりに出来る と考える。

カラバドッジは逮捕され、拷問を受ける。それに耐えられずトスカは スカルピアに、自分の体と引き換えに 逮捕されたカラバドッジの命を救う約束をさせる。しかしスカルピアの腕が、トスカに伸びた瞬間、誇り高いトスカは思わずスカルピアを刺し殺してしまう。
死刑場に引き立てられたカラバドッジに トスカが駆け寄る。スカルピアとの約束で、銃殺刑に使われる銃には空砲が入っているだけ、死んだふりをして、役人達が立ち去った後、二人で逃げましょう、と、愛し合う恋人達は歌い合う。

しかし空砲のはずの銃には スカルピアの思惑通りに実弾が入っていた。
目の前で恋人を銃殺されたトスカは 聖アンジェロの城の頂上に登り 身を投げて恋人のあとを追う。
というおはなし。

今回観たフイルムでは イタリア人ジョセフ コラネリが指揮をし、ソプラノをフィンランド人のカリタ マテイラが歌い、テノールをアルゼンチン人のマルセロ アルヴァレス、そしてバリトンをジョージア人のジョージ ガグニッゼが歌った。それをシドニーで観て 日本語で報告を書いている。
アメリカ大陸、ヨーロッパ、南米、ロシア、そしてオーストラリアと、全大陸をひとつのオペラが駆け巡っている訳だ。トスカというオペラ中のオペラ、オペラの代表のような この作品がいかに時代を超え、国境を越えて愛されているかが、わかる。

ソプラノのカリタ マテイラは緑色の目をしているそうだが、トスカを演じるために茶色のコンタクトレンズを入れて、実にパワフルな声で歌った。愛する男の命を助けるために 自分の体を警視総監に差し出すが、嫌な男に身をゆだねることに耐えられなくなって 刺し殺してしまい 最後には逮捕され裁かれるよりは死を選ぶ強い女だ。可愛らしくて転がるような美しいソプラノではなく、力強い 自立した女の しっかりした声でなければならない。彼女、重い1800年代の衣装姿で、よく歌っていたが、やはり年齢は隠せない。40後半から50代ではないだろうか。体が固い。この役をあと何年も 繰り返して演じるには無理がある。

その点、テノールのマルセロ アルヴァレスは 若い。パワフルなのに 限りなく柔らかく伸びる美しい声だ。最後には 彼が登場すると客席では総立ちになって拍手していた。その拍手の長いこと 長いこと 本当に長いことスタンデイングオべーションが続いた。本当にきれいな声だ。今後も他のオペラで 彼を見ることもできることだろう。人気者になるに違いない。

しかし この公演の一番の華は なんと言ってもスカルピアだ。ものすごく悪い奴。腹黒く 表は冷酷無情 裏では色欲物欲に目のくらんだ 俗物中の俗物。最低の最低の最低の奴。卑怯でムシズの走る男。こんな奴に触られでもしたら、思わずヒステリーを起こして殺してしまいそう、、、本当に こんな男を絵に描いたような男をバリトン歌手が 歌って演じた。もとソ連いまはジョージア出身のジョージ ガグニッゼだ。太ってギョロギョロ目で二重顎 本当に憎憎しい。彼がブランデーグラスを片手に、金で買った3人の娼婦たちと戯れながら 歌う。これがみごとだ。みごとに いやらしい。
娼婦達は 薄く透けて見えるガウンに 身に着けているのはGストリングだけ。おしりも乳房も出しっぱなしで 「え、、これオペラだったかな」と心配するほど妖艶に これでもかこれでもか とばかり挑発的で扇情的なポーズを取る。日本公演でも これをやるだろうか。ちょっと心配。
ともかく 今回の悪役スカルピアは 大成功。「トスカ」は ヴィデオでも舞台でも何度も観ているが、これほどピカイチのスカルピアを他に見たことがない。バリトンの太ぶとしい音までもが 憎憎しく聴こえる。ものすごく上手だ。これほど悪役を演じることができる人の才能に拍手。

メトロポリタンオペラの公演をネットで見ていたら、ソプラノだけを替えて、彼らがテノールとバリトンのコンビで 「トスカ」を何度も演じていることがわかった。絶妙のコンビ、ということだろう。マルセロ アルヴァスと、ジョージ ガグニッゼ、ちょっと忘れられない 良い歌手たちだ。

衣装の豪華さ。舞台の洗練されたセンス。優秀な歌手たち。メトロポリタンオペラの贅沢さに、身を浸して 満ち足りた日曜の午後を過ごした。