監督:リュ スン ワン(RYOO SEUNGーWAN)
キャスト
ファン ジョンミン:バンドマスターのイ カン オク
ソ ジ ソブ(SO JI-SUB):ストリートファイター、チェ チルソン
ソン ジュンギ(SONG JOONGーKI):挑戦独立活動家パク ムヨン
リイ ジョン ヒュン(LEE JUNGーHYUN):従軍慰安婦、オー マルニョン
キム スーアン(KIM SU-AN) :バンドマスターの娘、リー ソーヘイ
映画の背景
長崎県、端島は、形が軍艦の様に見えることから俗称「軍艦島」と呼ばれてきた。かつては石炭が採掘され、明治期からの製鉄、製鋼など基幹産業を支えてきた。島は三菱鉱業が所有していたが採掘のために島は拡張されて、当時は珍しい最新式の9階建てのアパートが建てられ、病院、学校、プール、映画館、パチンコ屋まであり、最盛期には5千人を超える炭鉱関係者が住んでいた。1960年代になると、需要が石炭から石油に取って代わられた為、1974年に炭鉱は閉鎖され、現在は無人島になっている。
その島の独特の成り立ちと歴史を評価され、ユネスコから世界遺産に指定された。2009年からツーリストを受け入れ、現在は船で上陸することができるが、崩壊する危険のある住居跡など島の95%は立ち入り禁止となっている。 2013年、007ジェームスボンドシリーズの「スカイ フォール」では、この島を使って映画が撮影された事も記憶に新しい。
当時、石炭の採掘現場は、地下1000メートルの深さにある海底で石炭を砕石するため、95%の湿度、30度の暑さという過酷な環境で採掘しなければならなかった。
1937年に日中戦争が始まると、1938年には国家総動員法、翌年には国民徴用令が施行され、1942年には 朝鮮総督は朝鮮労務教会によって、鉱夫が徴用された。次第に、戦争が長期化すると、日本の労働力不足を補うため、採掘のための労務者募集と言っても、実際には強制連行が行われ、日本警察が朝鮮の一般人を拉致に近い方法で徴用することも多かった。強制連行された韓国人、中国人などの労務者は、貧しい食事や乏しい道具で、地下深い現場で過酷な採掘に従事し、事故も多く、1300人の死者が記録されている。そのためにこの島は「地獄島」とも呼ばれた。
映画のストーリー
1945年2月 日本帝国主義による植民地朝鮮の京城(現在のソウル)。
ホテルのバンドマスター、カン オクは、ジャズバンドを持っていてホテルでショーを興業している。10歳になる娘のソー ヘイは、父親と一緒にタップダンスを踊り歌を歌ってショーの人気者だ。酒とショーを楽しみにやってくる日本兵は上客でもある。ある日、親しくしている日本人の親方から日本に出稼ぎに行ったらどうか、と勧められる。もっと稼げると聞いて、彼は娘を連れて、船で長崎に向かう。同じ船には沢山の出稼ぎのために来日する朝鮮人労務者が乗船していた。
しかし到着したところは軍艦島だった。待ち構える日本兵に囲まれて、数百人の朝鮮人らは裸にされて、時計や金製のアクセサリーなど、すべてを取り上げられて、男女は別々に分けられる。カン オクは、娘を取り上げられるのに抗して、ローレックスの時計を差し出すが無視されて、娘と離れ離れにされてしまった。
女たちは一様に着物を着せられて、慰安婦として島崎隊長ら日本軍将兵の相手を務めることになった。10歳のソーヘイまで化粧を施され、上官の酒の席に差し出される。女たちは言われるまま座敷に出るが、涙が止まらない。そこで島崎隊長は座敷の空気を明るくすべく、レコードをかける。それはソーヘイが父親と歌っているジャズだった。ソーヘイは、わたしは歌手です、歌手なのです、と叫ぶように言って彼女が踊ってみせる。そして慰安婦にされる危機局面を脱したソーヘイは、その後島崎隊長の住む家の女中として働くようになり、時々父親とも会えるようになる。
バンドマスターでショーマンのカン オクは、兵隊たちの前で「同期の桜」や軍歌を次々と演奏して気に入られ、過酷な鉱夫の労働から逃れることができた。以降日本語が流暢な彼は朝鮮人仲間のために、様々な便を図る。
地底深く劣悪な環境で採鉱する現場では事故が多発し、怪我人や病人も沢山出た。海底で突然噴き出るガスや炭塵で失明する鉱夫も出た。何百人もの朝鮮人鉱夫を牛耳っている朝鮮人ボスの非人間的な扱いに怒った、ストリートファイターのチル ソンは、壮絶な喧嘩の末に新しいボスになった。また、鉱夫に中には朝鮮独立活動家のム ヨンが居た。ム ヨンは京城大学学生らと結束して、島から脱出する計画を立てていた。ム ヨンは 日本軍が隠している内部資料を見て、日本兵と朝鮮人労務者との間の橋渡しをしている朝鮮人の組織委員長は、朝鮮人の信頼を得ていたが実は 日本側に身売りしたスパイであることを見抜く。この男は同胞の賃金の上前を撥ね、鉱夫たちに集団脱走を勧めておびき出し、その全員を鉱内の閉じ込めて殺害する計画を立てていた。ム ヨンは事実を鉱夫たちの前で暴く。
軍艦島の上空を、B29が飛んでいく。ム ヨンは日本の敗戦は目に見えていると読んだ。広島に新型爆弾が落とされたらしい。そして、遂に軍艦島もB29によって爆撃された。炭鉱は火の海。混乱に乗じて集団脱走が始まった。
島崎隊長は大火傷を負い、部下の山田副隊長に殺害される。日本兵らは軍の秘密書類を処分する。軍は朝鮮人らを強制労働させていた一切の証拠を焼却しなければならない。集団脱走の混乱のなかで独立闘士ム ヨンは山田副隊長の首をはね、奪った船に鉱夫たちや病人、怪我人や女たちを誘導する。船に乗り込むための鉄橋が破壊されたが、カン オクらの犠牲的な働きで再建され400人の朝鮮人たちは島を後にする。故郷を夢みる人々が長崎に向かう航路で見たものは、新型爆弾が落された瞬間だった。
というおはなし。
映画史に残る、優れた反戦映画だ。
反戦映画というだけでなく、エンタテイメントとして、実によくできている。忘れられないシーンが沢山ある。
男気のかたまりのような元ストリートファイターのチル ソンが、慰安婦のマル ニョンの哀しい話を聞かされて、必ず故郷に連れて帰ると約束するが、集団脱走の最中、マル ニョンは銃で撃たれて動けなくなる。彼は傷を負った女のために脱走を諦めて、仇を取った末、満身創痍の状態で虫の息の女を抱きしめて共に死ぬ。二人の純愛シーンにすすり泣く観客の声があちこちで聞こえた。
脱走する400人の朝鮮人をすべて鉱路に閉じ込めてダイナマイトで殺すように命令しながら自分は上官を殺して逃亡を図る山田副隊長に火炎瓶を投げる10歳のソー ヘイ。その忌まわしい敵の首を一刀両断で撥ねるム ヨンのその歌舞伎役者のような身のこなしに胸のすく思い。
島と舟とを結ぶ鉄橋が破壊され、乗船できなくなった。落ちた橋を再び起こすために日章旗を真ん中から引き裂き、2本の紐を作り、銃弾が飛び交う中を身を挺して、鉄橋を持ち上げるカン オクと慰安婦たちの英雄的な行為。
脱走した人々を乗せた船が下関に向かうときに落とされた原子爆弾、そのまばゆい光に照らされた人々の赤い頬。立ち尽くす人々。
10歳の女の子、キム スーアンの演技が秀逸。タップダンスしながらジャズを歌う、マルチタレントの子役女優。彼女の感情表現の豊さには目を見張る。2016年の「TRAIN TO BUSAN」でも彼女を見て立派な役者だと思っていた。ゾンビ映画だが、愛も人情も正義も描かれた映画。銃を構える兵士たちに「OVER THE RAINBOW」を歌いながら向かって行くシーンで映画が終わったが、今回の映画も彼女の唄で映画が終わる。
ストリートファイターのチル ソンと日本兵のお気に入りボスのミン ジョウとの乱闘場面が凄い。風呂場で互いに裸で、どちらかが生き残るか。殺気と活劇の激しさは本当に死者が何人か出ても不思議でないほどで、これまで他で観たことがない激しさだった。頭蓋骨陥没、大腿骨骨折、肋骨8本くらい折れていて不思議はない。こんな乱闘場面に比べたら、ランボーもジェームスボンドも軽い、軽い、話になりませんな。
そんな強くて優しい男、チル ソンにめろめろです。本名ソウ ジーソブ39歳、水泳の韓国代表選手だった人で、今はヒップホップラッパーで自作のCDをいくつも出している人だそうだ。
彼に限らず出演している男達、プロフィルをみると、みんなそろって身長180センチあって、引き締まった体で、裸の姿が絵になっている。素晴らしい。
韓国映画はドラマ造りのチャンピオンだ。ストーリーが良くできていて、おもしろい。わかりやすいが少しひねりもある。情があり情緒豊かで純愛を描いたら超一流。他にはかなわない。
どうしてか。
監督は、若干43歳、1973年生まれの、リュ スン ワン。彼が子供だった時は、表現の自由は制限されていて、映画と言えば、「プロパガンダ」ばかりだった。自由な表現にあこがれて、3年間中学生のとき昼食を食べないで我慢して貯めたお金で、8ミリカメラを買ったそうだ。同じころに両親を亡くして高校進学はあきらめたが、カメラを使って自由な表現を追及してきた、という根からの映画人だ。だからこの映画でもたくさんの登場人物が出てくるが、「ひとりひとりが豊かな感情をもった人」として描かれている。英雄的な人も何人も出てくるが、たった一人の英雄を描いた映画ではない。鉱夫たち、海底1000メートルの灼熱地獄で石炭を掘る、ひとりひとりが英雄だ。鉱道の先端で狭いところには大人が入れない。若くまだ子供の様な少年が最も危険な先端で採掘をする。トロッコの暴走で片足を失う男が居る。無言で死者を弔う男達、そういったわき役を演じる人々が圧倒的なパワーを持っている。「カメラで表現する」そうした動機をもって監督になった人だから、登場人物のひとりひとりが豊かな感情を持った「人」として描かれている。どのような環境にあっても人であろうとする400人の魂が、みんなみんな英雄として描かれている。
旧日本軍の残虐さが映画の背景にあるので日本の歴史の負の面を描いた映画という理由で日本での上映が懸念されている。世界中113か国で上映されている。日本での上映を心から望む。
アンジェリーナ ジョリイが監督した映画「アン ブロークン」では、日本軍が外国人捕虜を虐待するシーンがあったという理由で、日本で上映されなかった。この映画の映画評は2015年1月24日のこのブログで書いた。
チャン イーモー監督で、クリスチャン ベイル主演の映画「FLOWER OF THE WAR」は、南京虐殺を背景にしているので、これまた日本で公開されなかった。この映画評は2014年8月2日のブログで書いた。どちらも素晴らしい作品だった。
芸術に反日も好日もないのではないか。2本とも日本で一般公開されなかったことは残念でならない。過去の間違いは反省して正す努力をすればよい。旧日本軍を描いた映画を避けて正面から観ようとしない日本人に、「KKKにも言論の自由があるから、取り締まらない。」と言ったダニエル トランプ大統領を笑う資格はない。
世界中で公開されている映画をに日本だけでは公開しない、権力者にとって都合の悪い映画は封印する、というのではこれは「思想統制」ではないか。日本の誤った歴史から目を背けて無かったことにするのでは、画家アン ウェイウェイを弾圧し、ノーベル賞受賞者の詩人、劉暁波リウ シャオボーを獄死させた中国政府を批判する資格はない。
「軍艦島」の日本公開を切に願う。