2013年12月19日木曜日

映画 「リスボン行き夜行列車」

                            


原題:「NIGHT TRAIN TO LISBON」
監督:ビル オーガスト
原作:パスカル メルシェル
キャスト
レイモンド  : ジェレミー アイアンズ
ステファ二ア:メラニー ローレント
アマデウ  :ジャック ハストン
アドリアナ :シャーロット ランプリング

ストーリーは
舞台はスイスの美しい街 ベルン。
ラテン語学者の高校教師レイモンドは、何年も前に妻が出て行ってから、毎日判で押したように平凡で何の変化もない生活をしてきた。朝起きて、高校で講義をして、帰宅してから眠るまでの間、ひとりチェスを楽しみ、毎晩決まった時間に床に就く。何の変化もないひとりの生活に、何の不満もない。

ある雨の降る朝、いつものように高校に向かう途中の橋の上で、赤いコートを着た若い女が橋の欄干に立ち、いまにも身を投げようとしているところに出くわした。レイモンドは夢中で走っていき、女を抱きかかえて急場を救う。放心したままの女は、そのままレイモンドの後をついてきて、彼が講義をする教室に入ってきて、レイモンドに言われるまま席に着く。しかし、女は、しばらくすると脱いだ赤いコートを置いたまま無言で教室を出て、姿を消す。慌てて、レイモンドはコートを掴んで、あとを追うが女の姿を失ってしまう。コートのポケットには、一冊の本が入っていた。ポルトガルの哲学者で詩人だったアマデウ ド プラドの本だった。そして、その本にはリスボン行の汽車の切符が挟まれていた。期日を見ると、あと15分で出発する切符だった。レイモンドは、そのままプラットホームに向かう。しかし、切符を買った主はやってこない。川に飛び下りて死のうとしていた女は現れない。レイモンドは迷った末、そのまま汽車に乗り込んでしまう。

アマデウ ド プラドは医者だったが、彼が書いた本は、きわめて哲学的な深い思索に富んだ内容で魅力に満ちていた。美しい詩的な文体で自己哲学を語っている。レイモンドは、本に引き込まれるようにして読んだ。読めば読むほど、アマデウの生涯に興味がわいてくる。この作者と身投げしようとしていた女とは、どう関係があるのだろうか。本の出版先はアマデウの自宅になっている。レイモンドはリスボンに着くと、宿をとり、さっそくアマデウの家を訪ねる。出てきたのは、アマデウの姉だった。アマデウは生涯でたった1冊、この本を書き、それを100部しか出版しなかったという。しかしアマデウのことを語る姉の口は重い。あたかも、アマデウの生涯が秘密だとでも言っているようだ。結局大した情報を得られないままホテルの帰る途中、レイモンドは自転車に衝突して眼鏡を割ってしまう。眼鏡屋で、新しい眼鏡をあつらえるあいだ、検眼士のマリアに、アマデウについて語る。するとマリアが意外なことに自分の叔父がアマデウと親しかった、という。

レイモンドはマリアについて、老人ホームにいる叔父に会いに行く。しかし、叔父はアマデウの名前を聴いただけで 怒り狂って二人をホームから追い出す。レイモンドはアマデウを生涯を調べるために、アマデウのかつての教師でその葬式を行った神父に会い、その糸口から彼の親友だった薬剤師を訪ねる。しかし、みんな一様にアマデウと聞くと、口を閉ざし、何も語ってくれない。過去に何があったのか。
徐々にわかってきたことは、レイモンドが会って話を聴こうとした人々がみな、アマデウも含めて、むかしのアントニオ サラザール独裁政権のときの地下活動家だったことだ。そして、ついにレイモンドは一人の女を同時に愛した活動家たちの、語りようもない苦い経験に、たどり着いたのだった。レイモンドの前に赤いレインコートで身投げしようとした女が現れる。彼女はアマデウの孫だった。
事情がすべて解明できて、レイモンドはやっと 重い荷物を下ろしたような気持ちになって、スイスに戻るために準備をする。アマデウの謎ときに、ずっと付き添って、道案内やレイモンドの力になって支えてくれたマリアとも別れの日が来た。リスボン駅で、汽車に乗る前、マリアに何と言ってよいかわからず言葉が出ないレイモンドに向かって、マリアは言う。「あなたはここまで来たのよ。今度は私のために、どうしてここに留まってくれないの。」
というお話。

映画ははじめ、初老の男の退屈な日常を延々と映し出す。そして、画面が突然、橋から飛び降りようとしている真っ赤なコートを着た女に変わる。ここから急に、画面のテンポが速くなり、ミステリーのはじまり、はじまり、、、という流れが出てきて見ているのが嬉しくなる。レイモンドが慣れない外国で地図を見ながら探し当てる人々が、みんな影のある人たちで、多くを語らない。そこに観客は引きずり込まれてしまう。なぞがいっぱいで、おもしろくてわくわくする。出だしも、ストーリーの広がり方も良い。
ところが期待させてくれた割に、結論が貧弱でがっかり。作者は飽きっぽい人なのではないだろうか。次々に登場人物を出してきて話が広がっていくあいだは、興味津々だが、あと200ページくらいで徐々に結論に導いていかなければならないところを、だんだん面倒になってしまい20ページで終わりにしてしまった という印象なのだ。とても残念。
推理小説も読んでいるときが一番幸せだ。犯人はあれでもない、これでもない、事件をこうしてみるのがよいのかどうなのか、と、考えながら注意深く読み進めるときの嬉しさ、わくわく感に比べたら、結論が出てしまったあとの推理小説ほどばかばかしいものはない。この映画がまさに、それだ。ミステリーぽいのに、ただのメロドラマだった、というがっかり感は大きい。ミステリーとしてもロマンティックストーリーとしても、中途半端で成功していない。

リスボンの街がとても素敵だ。石畳の狭い道路。石造りの家々。重い木の扉。清楚な教会。こんな素敵なところで、ひと夏過ごしてみたい。

この映画に登場する役者が良い。ヨーロッパでむかし活躍した役者たちが良い年を取っていて次々と出てくる。トム コートナイ、ブルーノ ガンズ、クリストファー リー、ジョージ オークレー、シャルロット ランブリング、みんなすっかり年を取った名優だ。この映画の良さはストーリーや映像の出来上がりよりも役者の良さでもっている。
主演のジェレミー アイアンズがとても良い。66歳、シェイクスピア舞台俳優出身。端正な顔が年を重ねて、より知的で思慮深い顔になっている。学者で、ひとつわからないことが出てくると解明できるまでとことん追う、追っている間はそのことしか頭にない。まわりのことに一切お構いなしといった学者肌の、常識外れでどうしようもない男を上手に演じている。そんな無防備で子供みたいな男に魅かれるポルトガルの女も良い。
ジェレミー アイアンズは、アムネステイーインターナショナルの活動家でもある。いくつかの映画の音楽を作曲したり、監督したりもしていて、ピア二ストでもある。66歳のいま、47年間獄中で死刑囚として収監されている被告の再審要求と、死刑制度廃止を訴えてメッセージを世界中に送っている。
http://www.youtube.com/watch?v=35Jp03rm2KY&feature=share