2012年11月8日木曜日

映画 「最強のふたり」

             

フランス映画。

裕福な、脊椎損傷で四肢麻痺した男と、それをケアするセネガルからの移民で刑務所から出所したばかりの青年との交流を描いた作品。実際にあったことをベースで作られて、フランスで大ヒットした映画。2011年のフランスでの年間 映画興行収入第1位。全米でも外国映画興行成績、第1位を記録し、国際映画賞の最優秀作品賞と、最優秀男優賞を受賞した。

監督:エリック トレダノ
    オリバー ナカチェ

キャスト
ドリス:オマー サイ
フィリップ:フランコイス クリュゼ

こそ泥で刑務所にお世話になったばかりのドリスは失業中。スラムに住み、子沢山でシングルマザーの母親からは、もう迷惑なので出て行くように言われている。職安で紹介された職場に面接に行って 3回不採用になったら失業手当が出る。不採用のサインが欲しくて、ドリスはフイリップの屋敷に面接に行く。面接で問われても、障害者の介護が、どんなものか、四肢麻痺がどんな状態なのか、全くわかっていない。
しかしドリスの、でかい態度と無知が幸いして、彼はフイリップの目に留まる。面接に来た沢山の就職希望者は、障害者についての教育だけは ばっちり受けていて知識はあるが 実際にケアしたことがない頭でっかちや、障害者に同情して、へりくだった態度をするような輩ばかりで、フイリップは腹を立てていた。未経験でも ドリスならば人間として対等な関係が結べる。何にしても、ドリスは 力持ちで単純な男だ。おまけに根が明るい。

晴れて介護人として採用になったドリスは フイリップの屋敷で面食らうことばかり。屋敷には、中世の絵画やルイ14世肖像画や、骨董品が所狭しと飾られていて博物館のよう。立派な家具調度品に、風呂までついている個室を与えられて、ドリスは、ただただ、驚くばかり。はじめはフイリップの下の世話を露骨に嫌がったドリスだが、徐々に障害者に必要なものは何なのか、介護人としての自覚が芽生えてくる。争いや喧嘩でぶつかることも多いが、同時に、二人の間の友情も、確実なものとなっていく。

フイリップはハングライダーの事故で四肢麻痺に陥った。裕福で自分のビジネスを持っていて、妻に死なれた。養女に迎えた娘は高校生だ。古典音楽を愛し、絵画など、芸術に通じ、友人も多い。
そんなフイリップには、長いこと文通をしている女性がいた。手紙を通じて互いに惹かれあっているが、フイリップは自分が障害者であることを、女性に伝えていない。好意を抱いているが、手紙のやり取り以上の関係に進むことが出来ないで居る。そんなデリカシーがドリスには理解できない。ドリスは 良かれと思って、サッサと彼女に電話をして、フリップに取り次ぐ。電話を切っ掛けに、手紙だけだった二人の関係に変化が生まれる。彼女は 自分の写真を送ってきて、フイリップの写真を求める。ドリスは、車椅子に座ったフイリップの写真を送るように手配するが、フリップは自分が元気だった頃の写真に摩り替えて、彼女に送る。

仕事が順調だったにも拘らず、ドリスが仕事を辞めなければならなくなった。ドリスの母親が、ギャンググループに深入りして身動きができなくなったドリスの弟を助ける為に、ドリスを呼び戻したのだ。母親には逆らえない。ドリスは、仕事を辞めて、スラムに帰る。
一方、フイリップは、ドリスの去ったあと、どんな介護人を雇っても、気に入らない。どの介護人もフイリップの顔色ばかり覗って、対等に友人として信頼することができない。かんしゃくを起こして とうとうフイリップは、またドリスを呼び寄せる。

ドリスは、何も説明せずに、海沿いの避暑地にフイリップを連れて行く。そして、海の見えるカフェでドリスは彼女がやってくることを告げて、去っていく。すでにドリスから車椅子に乗ったフイリップの写真を受け取っていた彼女が、フイリップに会いにやってきて、、、。
というお話。

ドリスのめっぽう陽気な態度と、無知で憎めない人柄に笑って笑って、最後に泣かされる。有名な画家の抽象画の値段を聞いて 腰をぬかしたあとは、自分で一生懸命 抽象画を描いてみせたり、オペラに連れていかれて、樹が歌っている、と言って大声で笑い出したり、オーケストラが奏でる古典音楽を、「これ知ってる、石鹸のコマーシャルだよー。」「これも知ってる、ガス会社のお待たせしてます、のテープだよ。」などと、じっとして聴いていられずに、やかましい。

でもこの映画のキーワードは、「童心」だ。スーパーリッチなフイリップは、事故にあうまでは 活発にスポーツカーを乗り回し、ハングライダーや乗馬を楽しんでいた。ドリスも屈強な体を持ち、遊ぶ道具さえあればスポーツでも何でもできる。その二人の男達が合体すると、冒険心のかたまりで、童心にかえってしまう。ドリスの采配で、フリップの車椅子を倍の早さで走るようにする。車椅子を畳まずに乗れる無骨な大型車をやめて、スポーツカーで出かける。健康のために辞めていたタバコも気分転換に吸う。自家用飛行機で遠出する。ハングライダーで空中遊泳でやってみる。パンクロックで踊ってみる。そして、遂に長いこと魅かれていた女性に会う決意をする。

二人の男の童心が、みごとに結びついて、縮こまっていた二人の魂が再生し、日々の輝きを取り戻していく。その過程が美しい映像と音楽によって みごとな作品に仕上がっている。
ドリスが カバーを掛けられていた車を無理に出させて、フイリップと乗り込む。それがなんと、、、ファアットの黒のマセラテイ、クアトロポルテだ。時速300キロ以上で走る、イタリアのスポーツカー。ドリスとフリップがマセラテイに乗り込んでエンジンをふかした瞬間 二人の童心が一体化する。アクセレレーターをブアン ブアン言わせて二人が顔を見合わせてワッハッハッと笑う。この瞬間の男達の笑顔が良い。だって、何て素敵なクアトロポルテ。夢中にならずに居られない。

黒のマセラテイでぶっとばして交通警官に捕まるところを、とっさのフイリップの機転で助けられ、アースウィンド&ファイヤーの「セプテンバー」を爆音で聴きながら二人が首を振り、体を揺らしながらドライブするシーンは最高だ。思わず顔がゆるんで、画面を見ながら自分もリズムに乗っている。本当に幸せになれる映画。久々に、心躍る映画を見た。満足感でいっぱい。