



水木しげるの影響を受け、東京芸術大学で日本画を専攻した現代作家に、村上隆がいる。今回の特別展では、彼の埼玉県の工房から2体の赤鬼、青鬼のオブジェが運ばれてきた。それと高さ3メートル、幅30メートルの大作「死者の国に差し込んだ虹の尻尾を踏んだ時は」と、同じく高さ3メートル幅10メートルのNSWアートギャラリーのために創作された新作のアクリル画の2作を観ることができた。
機会さえあればできるだけ現代美術の作品を見たいと思う。それは今日世界中で起こったニュースを、自分の生活に関わりはないが、見ておきたいので必ず夜6時半から1時間SBSのワールドニュースを欠かさず観るのと同じ感覚だ。世界で何が起き人々がそれに対してどう反応し時代というものの流れがどう変わっていくのか把握しておきたい。だから現代美術が好きでなくても観るし、村上隆の作品をあげるよ、と言われても遠慮しておくけど。
草間彌生が1960年代に裸になって、ペニスを形取ったオブジェで遊んで見せたりボデイーアートでみせた女の主張は、その時代にとって必然的に通過しなければならない過程だったと思うし、彼女の代名詞のような水玉もようは、彼女が幼少期からみてきた強迫概念から逃れるために必要なものだったかもしれない。が、それは私に必要なものではなくて、理解できるが、共鳴できない。

村上隆は、狩野一信の「五百羅漢図」にインスパイヤ―されて300人の彼の弟子と美術生とを使って、「五百羅漢図」(2007-2012)」を完成した。日本画家出身者に線を描かせ、洋画出身者に色塗りをさせることによって、日本画と洋画の融合をもくろみ、500人の仏陀の弟子たちのそれぞれ異なった姿を描いた。高さ3メートル、幅100メートルの巨大なシルクスクリーンを使ったアクリル画だ。キャンバスに光る素材を塗ってから絵を入れたので背景が、星のように光って見える。漫画のAKIRAや、NARUTOもいる大作だ。森美術館で展示されていた。
今回の展示会ではこの五百羅漢に似た、長さ30メートルの大作「死者の国に差し込んだ虹の尻尾を踏んだ時は」は、東日本大震災のあとに描かれたもので、背景には彼が大震災のときに実際に見た雲が、下地に描かれている。中央に荒れ狂う海、木の葉のように波に翻弄される船、龍、虹、光、大きな黒い骸骨、左に青い服の男。右には国籍不明の人々と子供達。

松井冬子のフイルム作品で、毛の長い白い犬が印象的だった。それと、女が死に、肉が腐って蛆に食われ、骸骨になっていく日本画が美しかった。
総じて観る甲斐のある展示会だった。「ジャパンスーパーナチュラル」と聞いて、ジブリのアニメを思い浮かべるのか、若いオージーがたくさん見に来ていた。「ねつけ」と言って、おしゃれな武士や裕福な商人たちが帯に付けた小さな飾りものだ、と説明してもオージーには何のことかわからなかっただろうが、象牙や木製の彫られた骸骨や鬼を目を細めて見つめる若い人々の姿が印象的だった。展示ははじまったばかり、3月8日まで。観る価値はある。
モーツァルトを演奏したり、モーツアルトのオペラを観るごとに、どうして、どうして彼が極貧の内に、たった32歳で死ななければならなかったのかと思って、泣きたくなる。
重厚な宗教音楽が主流の時代に、彼は早く生まれ過ぎた。
前衛は常に叩かれる。芸術家の斬新さを人々は認めようとしない。今まで自分が親しんできた芸術作品になじんで快適だからそれを変えたくない。でも現代作家たちの作品をよく見ようと思う。新しい動きを好きになれなくても良いから。村上や松井の作品が100年先の人々にとって宝になるのか、ただの紙クズになるのか、それは私ではなく、100年先の若者たちが決めることだ。
1:始めの写真は:村上隆のねこ(NSW州立美術館所蔵)
2:左上:歌川国芳 骸骨の浮世絵
3:右上:月岡芳年「お岩」
4,5:2作:水木しげるの「妖怪道53次」
6,7:「死者の国に差し込んだ虹の尻尾を踏んだ時は」:村上隆
8:寄り目の猫:村上隆
9:赤鬼:村上隆
10、11:白い犬、骸骨の女:松井冬子
12:骸骨のねつけ(木製)
1:始めの写真は:村上隆のねこ(NSW州立美術館所蔵)
2:左上:歌川国芳 骸骨の浮世絵
3:右上:月岡芳年「お岩」
4,5:2作:水木しげるの「妖怪道53次」
6,7:「死者の国に差し込んだ虹の尻尾を踏んだ時は」:村上隆
8:寄り目の猫:村上隆
9:赤鬼:村上隆
10、11:白い犬、骸骨の女:松井冬子
12:骸骨のねつけ(木製)