2012年10月1日月曜日

オペラ オン アイス


「オペラ オン アイス」、「氷の上でオペラを」、というイタリア ベローナのコロシアムで行われた公演を ハイデフィニションフイルムで映画館で観た。


ギリシャをはじめとして ヨーロッパ中がユーロ危機で震え上がっている時期に、ついにイタリアも財政破綻か、と言われるのも、うなずける、、、というほどに贅沢なイベント。さすが、ルネッサンス発祥の地で、芸術にはお金の糸目をつけないイタリア気風に、感心。素晴らしい出し物だ。
2000年の歴史のあるベローナのコロシアム(円形劇場)の半分に 氷を張って、残りの半分にステージを作り、100人のオーケストラ、200人の合唱団を配置。それを2万5千人収容できる階段状の客席が見下ろす形で、夜の野外公演が行われた。

フイルムの早回しで 巨大なコロシアムに氷を張り、会場を作る様子をフイルムのはじめに見せてくれたが、実に興味深い。2000年前に古代ローマ人が、大理石でカバーされたこの円形劇場に、やってきて、グラデイエーターが戦う姿や、世界中から連れて来たライオンや豹などの珍しい猛獣が死闘する姿をヤンヤの歓声で見て楽しんだ。コロシアムや浴場は、古代ローマ人にとって大切な娯楽であり、社交であったろう。いま、人々はそのコロシアムで 芸術の中の芸術といわれるオペラを見ることが出来る。そのコロシアムで歌われるオペラも、600年ほど前から作られた過去の遺産なのだ。
ベローナのコロシアムは ローマのコロシアムほど傷んでおらず、ほぼ完璧な形で保存されていることから、夏の間は、オペラ会場として使われている。マリア カラスがデビューしたオペラ会場としても有名だ。そういった華やかな過去の遺産をバックに、最新の技術をもったプロのスケーターが舞う。なんとも贅沢な公演だ。

指揮:ファビオ マストランジェロ
ベローナ市オペラオーケストラ
テナー:ジーン フランコイス ボラス
テナー:ルーベンス ぺリザリ
ソプラノ:エリカ グリマンデイ
ソプラノ:レイチェル スタニスキー
メゾソプラノ:ジェラルデイン シャべ
バス:ミルコ パラツイ

スケーター
カロリーナ コスナー(イタリー)
ステファン ランビエル(スイス)
キム パン&ジアン トング(中国)
タチアナ トツミアーニ&マキシム マリニン(ロシア)
イザベル デロベル&オリバー ションフィルダー(フランス)
アナ カペリーニ&ルカ ラノツテ(イタリア)
エマニエル サンド(カナダ)
ホット シバーズ (イタリア)

ビゼーの「カルメン」の「序曲」から始まって、ラストのベルデイの「アイーダ」から「勝利の行進の歌」まで、有名な曲ばかり、オペラ歌手の歌う曲にあわせて、スケーターたちが優雅に踊った。 テナーのジーン フランコイス ボラスの歌う声がとても良かった。とくにドニゼッテイ作曲「愛の妙薬」から、「人知れぬ涙」(UNA FURTIVA LAGRIMA)の曲がいつ聞いても胸に迫ってくる。それを世界チャンピオンタイトルをたくさん持っているスケーターのステファン ランビエルが、この愛のために今死のう、とでもいうように絶望的な悲哀をこめて踊る。とても感動的だ。

オリンピックで、かつて何度もメダルを取っているこのスイス人の、ステファン ランビエルと言う人は、技術的にも中で際立っている。スケート靴を履いたまま、誰よりも高くジャンプして、誰よりも早くスピンしてクルクル回る。動作のキレが良く、とても見栄えする。この人が舞台に出てくると、観客からの歓声がものすごかった。ヴェルデイのオペラ「リゴレット」から、有名な浮気男が、女なんてみんな簡単に落とせる、と歌う「女心の歌」に合わせて踊る時は、思い切りコミカルに、氷の上を飛んだり跳ねたりして踊った。氷のステージと観客との間に堺がないので、ちょっとスピードのコントロールが悪いと観客席まで滑り落ちてしまうのではないかと、心配になるほど、激しいスピードで、自由自在に気持ち良さそうに滑っていた。プロだな。

プッチーニ作曲「トランドット」とグノーの「ロメオとジュリエット」を踊った中国人カップル、キム パン&ジアン トングのテクニックも驚くばかり。早いスピードでアクロバットのように手と手を取り合って踊る姿は怖いほどだ。例えば、横臥姿勢で横にゴロゴロ転がる姿を想像して欲しい。それをスケートを履いたまま男性に横臥状態のまま頭上で放リ投げられた女性が くるくる3回半も空中で回って それを男性に受け止められて、降りてきて、また踊り続けるのだ。頭上に飛び上がって、降りてくるだけなら分るが、横臥状態で横に回転しながら、なんて物理的に可能なことだろうか。ものすごいスピードだからできることなのだろうか。ヒョイと男性のスケート靴の上に飛び乗って、ポーズをとったり スピンの末、飛び上がって3回半の回転など 繰り返し、続けて何度も楽々とやっている。2010年のオリンピックシルバーメダル保持者で、スケート世界チャンピオンシップに毎年のように入賞しているようだが、カップルのスケーターの中では、抜群の技術の高さだ。

16人のホット シバースというイタリアの女性グループが優雅で これまた恐ろしく皆、統制がとれていた。彼らはヴェルデイの「ナブコ」から、オペラの中で一番美しい合唱の歌を、素晴らしく優雅で美しく踊った。とても感動的な合唱曲で、200人の合唱団が正装して歌っているのをバックに 途切れなく流れるような美しさで16人が一糸乱れず、たくさんの環を、氷に描いた。
ラストは ベルデイの「アイーダ」から、勝利の行進の歌を、出場者全員が歌い、全てのスケーターが華やかに踊った。オペラの中で一番立派で堂々とした曲だ。
好きな曲ばかりに合わせて、美しい踊り子達が氷の上で踊って、楽しい公演だった。

テーラーズスクエアのヴエロナという、小さな映画館で観たが、この映画館の良いところはバーがあって、イタリアビールの「ペローニ」を、ボトルでなく、樽で置いていることだ。素敵なフイルムを見て、ペローニを飲んで、外れた音でアイーダを歌いながら帰ってきた。満足な土曜日。