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2023年5月17日水曜日

若い詩人の詩「湖へ」

フィリピンで独裁者マルコス政権がピープルズ革命で倒された翌年、まだ混乱状態にあったレイテ島に、建設省から派遣され家族赴任した。2年過すうち何度も殺された共産軍の死体を見たし、危険な目にも合った。ベランダから押し入ってきた族の荒い息をドアごしに聞いて、震えて祈りながら、使えもしない銃を構えていたことも。標的にされている夫は運転手に背広を着せ助手席に座らせ、自分は運転手の服を着て運転して移動する日もあった。

その後、マニラに赴任先が移り、娘たちがインターナショナルスクールに入り、やっと文化的な生活ができるようになった、というのに夫も、それに付随するビザも失った。帰る国も帰る家もない。弁護士の力添えで、娘たちの学校でバイオリン教師の職を得て6年、その後、娘たちの大学入学のためにオーストラリアに移民した。あのころ生きるのに必死で、娘たちがどんな気持ちでいたのか、考える余裕もなかった。
いま、この詩集を読むことは、あのころの娘たちの独白を聴くようで痛みを伴う。

静謐な水面、静かに水をたたえる湖が、その底では激しいマグマのような燃えたぎる熱情が渦巻いている。だからこの若い詩人の言葉が、ナイフで切りつけられたように胸が痛む。

その時に何かを強く感じたので、しばらく記憶に残っている。言葉にできないままでいるときに、若い詩人の言葉に出会って、その時の自分の強い気持ちが嵐のようによみがえる。言葉があふれるように心の中で広がっていく。そんな言葉にいくつか出会った。あなたも、あなたも、あなたも、とても強く感じて、言葉にできなかった感情を、この若い詩人の言葉の中に、見つけられるかもしれない。

姜湖宙 詩集「湖へ」