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2018年6月11日月曜日

ウェスアンダーソンの映画「犬ヶ島」

原題:ISLE OF DOGS      
監督:ウェス アンダーソン
第68回ベルリン国際映画祭 銀熊賞受賞作品

102分という世界で一番長いストップモーションアニメーション。ギネスブックを更新した。犬や人などの、約900の登場キャラクターが全部、紙粘土で作られていて、それを表情や動きの変化ごとにストップモーションの技術でフイルム化し、編集された映画。一人の人間や犬に、200の異なった表情を持つフィギュアが、手造りされて、それをすこしずつ動かしながらフイルムに捕え編集されている。例えば、主人公小林アタリが笑いながら手を挙げるシーンならば、アタリの手の位置や、顔の表情を少しずつ動かすごとにフイルムを撮り、スムーズに動いているように編集する。根気のフイルム造り。
ウェス アンダーソンは、宮崎駿が、自分のアニメーションをすべて一枚一枚手書きで、描いてそれを編集して一本のフイルムを完成させることに心を動かされた人で、同じように自分もフギュアを一つ一つ動かしてはフイルムに録るストップモーションで作品を完成させた。
彼は日本贔屓で、黒澤明と宮崎駿を信奉している。震災と放射能被害で深く傷ついた日本人を心から応援したい、という気持ちでこの映画を製作したという。
彼はこのフイルムを完成するのに、4年余りの歳月を費やしている。

スト=リーは
20年後の日本。犬インフルエンザが蔓延した日本のウニ県メガ崎市では、小林市長が、犬の隔離政策を決断。犬ヶ島とよばれる、ゴミ廃棄場となった島に、すべての犬を放逐することを決めた。市長の養子、12歳の小林アタリには、生まれた時から忠実に用心棒を務めてくれたスポッツという犬がいた。市民に模範を示すため市長は、スポッツをいち早く、ゴミの島に送った。アタリは、迷わずスポッツを探すために、小型飛行機を操縦して島に到達する。そしてアタリは、島で出会ったチーフ、レックス、キング、ボス、デイユークという5匹の犬たちとともに、スポッツ探しの旅に出る。

一方、メガ崎市では、犬インフルエンザを研究していた渡辺研究所長が、すでにワクチンを開発していた。あとは実際の犬に使用してみるだけだ。ワクチンはインフルエンザを予防、治療することができるだろう。しかし、渡辺医師は市長の命令によって暗殺される。オノヨーコ助手は、それを嘆くだけで、圧倒的な権力を握る市長の前では無力だった。
小林市長はロボット犬製作企業と、グルになってすべての犬を、犬ヶ島で処分して、ロボット犬に挿げ替えるたくらみを進めていたのだった。犬は生きていれば病気もするし死ぬこともある。エサも必要だし、汚れもする。ロボット犬の方が良いに決まっている。小林市長は、ロボット犬企業から多額のわいろをもらっていたのだ。

アタリと5匹の犬たちは、処分されるところだったスポッツを見つけ、他の犬たちを助け出す。アタリがすっかり世話になったチーフを洗ってやると黒い犬だったチーフは、本当は白いテリア犬だった。話を整合してみると、何とチーフはスポッツの兄弟だったのだ。

アタリは犬たちを連れて市議会に行く。アタリの学校の生徒達も、インフルエンザワクチンをもって合流する。そこで、小林市長の汚職と横暴が暴露され、再び、犬たちは人々のもとに帰ることになった。
というお話。

映画のポスターは、AKIRAを描いた大友克洋だそうだ。
原作のISLE OF DOGS をアイルオブドッグス、アイルオブドッグスと繰り返して言っていると、アイラブ ドッグスと聞こえる。というように、これは愛犬家のお話だ。

サンフランシスコでは、この映画を見に来るのに犬を連れてきて良い、という試みがあった。沢山の家族が犬を連れて、映画を観た。当の犬が嬉しかったかどうかは、よくわからないけど、、、やっぱり。ウェス アンダーソンが紙粘土で作り、アルパカの毛を植毛した犬のフギュアに、本物の犬が仲間と同定したかどうかは、不明だし、、。

棄てられた犬たちがみんな立派な名札をつけている。犬は人類にとって最も古い友達だ。人の喜びを犬は理解しようといつも勤めて、いつも人の力になりたいと思っている。
映画で、チーフが素敵で恋をしそうだ。アタリを助けた5匹の犬のうち、チーフ以外はみな、飼い犬で以前は立派な主人を持っていた。素敵なご馳走を食べさせてくれた思い出を語り合っていたとき、みんながチーフに、「君はどんな物を食べてたの。」と聞くと、「イヤー、俺か?俺は主人なしの気ままな放浪だからよー。でも時には食べ残しのステーキとかが手に入ったよ。」と照れながら話す。豪胆なのにシャイ。それで、すごくセクシーな犬、ナツメグに出会った夜は、「アンタ、いつもこんな時間にここにいるのか?」とか、話し方もアプローチもハードボイルド、その男気が素敵だ。そんな彼が、黒い犬じゃなくて、実は白い犬で、本当は立派な血筋だったとわかったとき、青い大きな目から涙が零れ落ちる。このシーンで泣かなかった人、人じゃないよ。

ウェス アンダーソンは、いつもとてもアーテイーな映画を作る。
「グランド ブダベストホテル」では、カラフルなホテルと、美しい自然と山々の描き方など、美しい絵本を見ているようだった。しかし人間模様を描写すると、とたんに、人種差別、自然破壊、貧富差、階級社会などが、ちゃんと描かれていて、ともかく渋い。今回の映画でも、大企業と結託した政治家、権力者の腐敗、弱い者いじめ、環境汚染、放射能汚染、自然破壊などなど、簡単には解決できない現状の嘆きが、映像にしっかり織り込まれている。

犬たちの、痛めつけられても、強制隔離されても、殺されそうになっても、人を信じてまっすぐ立ち向かう姿には、魅せられてやまない。チーフの湖のように青い大きな目から、涙があふれて流れ落ちるシーンが、ぞっとするほど美しくて、心に残って忘れられない。

小林アタリの声優をやった13歳のコーユー ランキンは、良く日本語をこなしていて、ハンサムな子役なので、この映画で人気が出てテイーンの間でアイドルになっている。
スポッツの声優、リーブ シュレバーも、チーフのブラアイアン クランストンも、とても良い。ウェス アンダーソンが大好きな、偏屈大物役者ビル マーレイがボスの声優をやっている。ナツメグのスカーレット ヨハンソンも、とても上手だ。渡辺医師の助手オノヨーコが名前通り本人がやっていた。
和太鼓が鳴り、クロサワの「7人の侍」の曲も使われていた。アタリの、「なにゆえに、人類の友、春に散る花」とかいう俳句とも和歌ともいえない歌が、メガ崎市議会の流れを変えるところでは思わず笑ってしまったが、太鼓の音が、とても効果的に使われていて良かった。

世界一長いストップモーションアニメフイルム。670人のスタッフが、900の登場キャラクターを使い、4年かけて作られたフイルム。ウェス アンダーソンの独特な表現世界が好きな人も、嫌いな人も、犬が好きな人も、嫌いな人も、この映画観る価値がある。