ページ

2014年1月26日日曜日

アイマックスで映画 「ゼロ グラビテイー」

                                      
映画「ゼロ グラビテイー」
原題:「ZERO GRAVITY」
監督:アルフォンヌ キュアロン
カメラ:エマニュエル ルベッキ
キャスト
ライアン ストーン博士  :サンドラ ブロック
マット コワレフスキー宇宙飛行士:ジョージ クルーニー

ストーリー
地球上空600キロメートル、空気も重力もない世界。
宇宙飛行士マット コワレフスキーと、メデイカルエンジニアのライアン ストーンは、スペースシャトルから出て、船外ミッションに携わっていた。ヒューストンから連絡が入り、ロシアの宇宙ステーションでミサイルが自国の人工衛星を破壊したので、大型の宇宙のゴミ(デブリ)が、拡散して危険が予想されるので、船内に入るように指示される。宇宙空間にはたくさんのゴミが浮遊しているが、そのほとんどのものは太陽の引力によって周りをまわっていても、小型で害を及ぼす前に自然消滅する。しかし、今回のゴミは大型らしい。マットとライアンが船内に入る準備をしているうちに、宇宙ゴミがライアンたちを直撃する。ライアンは宇宙空間に放り出されるが、マットに回収される。二人は、スペースシャトルに戻るが、シャトルは すでにダメージを受けていて、他の隊員は全員死亡している。

マットの判断で、900メートル先の国際宇宙基地に行くことになった。二人の宇宙服の酸素は限られている。二人とも酸素が十分でない状態で、国際宇宙ステーションにたどり着き、シャトルをつかもうとするが難しい。やっとのことでライアンの足が宇宙船の綱にひっかかり、取っ手を掴むが、マットはライアンのベルトに命綱をつけたままの状態で取っ手を掴むことができない。マットは、ライアン一人を救うために、自から命綱を離して宇宙空間に浮遊していった。ライアンは、宇宙船の中に入って、地球に帰還するために、ソユーズに乗り込むが、国際宇宙基地は火事が起きて、二つあるソユーズのうち、ひとつはすでに離脱している上、もう一つはパラシュートが開いてしまっている。ライアンは 再び船外に出て、絡みついているパラシュートを引きはがしソユーズで脱出を図る。ソユーズを発動させるが、今度は この燃料が切れかけている。

動転するライアンは、自ら綱を離して行ってしまったマットが、中国の宇宙基地、天宮に行くように指示したことを思い出し、160キロメートル先にある中国基地に向かう。壊れかけたソユーズの中でライアンは何度も生き残る希望を捨てたくなるが、不思議とマットが目の前に現れ、諦めないように見守ってくれた。中国基地が、見えて来た。ライアンは勇気を奮って、ソユーズから出て、自動消火器を噴射しながら宇宙空間で方向を変えながら、中国基地に 取り付くことができた。マットに言われた通りに、天宮の中に入り、中の宇宙船、神舟に乗り込む。起動させることに成功し、落下、分解して神舟は切り離されて、大気圏に突入、パラシュートが開いて湖に着水する。神舟は浸水して沈没するが、ライアンは水底から宇宙服を脱ぎ捨てて、泳いで浮かび上がり岸に泳ぎ着く。自分で呼吸ができ、自分の足で地の上を立つことができる地上に戻ったのだ。
というお話。

傍若無人なロシアが勝手にゴミをまき散らしたために、国際基地が破壊されて、ナサの生き残った飛行士が中国基地の助けを借りて無事地球に帰還することができた、でも中国製のソユーズの出来が悪くて粗悪品なので、地上にもどって、すぐに沈没してしまった。というなんだかアメリカ人の心情を表しているみたい。アメリカのドルが弱くなり、一方で強くなった中国の助けを借りなければ生存できなくなってきた。今のところロシアの影響下にいるより中国はアメリカ側に付いたほうが利益が多いといった米中ソ3国の国際関係を揶揄しているようで、おかしい。
映画の中で、ガンジーの写真が貼ってあったり、中国基地では、仏教の像が飾られていたりして、この映画に、近代技術の先端である宇宙科学が、どんなに発達しても精神的な支えが必要だというメッセージが込められている。でも、ブッダの像が、七福神のなんだかの神様だったので、ちょっと笑えた。

映画の登場人物がサンドラ ブロックとジョージ クルーニーの二人だけ。
無重力の宇宙空間に二人が浮遊する様子を どんな撮影技術で撮影したのか、誰もが知りたいところだ。ワイヤーでつるされた役者のまわりをカメラが回り、同時に、音響効果を狙って音源も同時のまわしたのだという。それで、宇宙空間を浮かんでいるような不思議な音が、あちこちから聞こえるような気がしたのだろう。無重力の世界で、聴覚と視覚が冴え渡る。
二人の役者は 撮影にあたって、5か月間 特殊装置の中で演技をする訓練をしたそうだ。カメラマンのエマヌエル ルベッキは、「ライトボックス」という、360度LPライトで囲まれた大きな箱を作り、その中で役者に演技をさせたそうだ。ここでは360度どんな角度からもライトを当てることができる。中で演技する役者を、影のできない3Dの立体像で映し出すことができる。この箱をサンドラ ブロックの名を取って「サンドラ ボックス」と撮影隊は呼んでいたそうだが、1日10時間も中で演技を続けるサンドラにとっては、大変な重労働だったようだ。子供の時からクラシックバレエをやってきたサンドラの柔らかい体がこの役を演じるのに役立ったという。インタビューで彼女が、「手を上げたり足を曲げたりする、ひとつひとつの動作のために50人の技術者が働いて居る。独創的な装置のひとつが動かなくなっても、上空に吊るされている自分が落下して命はなかった。」と、撮影の大変さを語っている。49歳のサンドラ ブロックの贅肉ひとつない少年のような体に好感を持ったのは、私だけではないだろう。役者は体が命、というが、彼女のような肢体を長年維持してきた役者は立派だと心から思う。

映画が始まって終わるまで、はらはらし通しの緊張を強いられる映画だ。
でも充分、宇宙遊泳を楽しむことができた。重力のない世界で移動する、浮遊する楽しさを3Dで、アイマックスの大きな画面で体験できて とても幸せ。ずっとこの映画を観たかった。でもなぜかシドニーでは、あまり上映中は話題にならなくて、夜6時からの上映ばかりで、見逃していた。今年のアカデミー賞で最多10部門でノミネートされたおかげで、アイマックスで上映してくれたので、とても嬉しかった。シドニーのアイマックスは世界一大きい。縦29,42メートルで、横35,73メートルの巨大スクリーンだ。高価な70ミリのフィルムを使うので、製作費用もかかるという。広い視野角によって、映画の中に居るような感覚にするために、座席が ひどく急こう配になっている。階段がだめなオットは、席にたどり着くのに半死状態になった。チケットは普通の映画の3倍くらい。でもそれだけの価値はある。

3Dで空を飛ぶ体験を「アメイジング スパイダーマン」で経験した。スパイダーマンの伸びる粘りを利用して夜のニューヨークの高層ビルからビルを飛び移る、、、耳元に風が鳴るような爽快な体験だった。今回の宇宙では無重力を浮遊するおもしろさを体験した。600キロの距離だから 地球が目前に大きく見えて美しい。太陽の周りを正しく回っているときは良いが、いったん軌道を外れると宇宙は底なしの暗さで、恐ろしい。宇宙散歩といっても自由に動けるわけではないから骨が折れる。貴重な体験だ。こんなに素敵な映画を、つまらなかった、という人が居て驚いた。カーチェイスもなく銃撃戦もなく痴話喧嘩もない。つくずく映画を楽しめるかどうかは、その人の想像力に罹っている、と思う。宇宙空間に放り出される画面を見て、自分自身にそれが起きているかのように、想像できるかどうかだろう。だから物語に想像力をかきたてられない人は、気の毒かもしれない。

宇宙飛行士の日記で、スペースシャトル内の無重力状態にいるときに、排尿排便はバキュームクリーナーのような装置を使うが、下手すると無重力の空中に拡散してしまって回収するのが大変だ、と書いてあるのを読んだことがある。うーん。大変だ。浮かんでいるのも楽ではない。
宇宙葬というのもある。亡くなった人のお骨を宇宙に打ち上げて しばらくの間地球を回っているのを地上から見上げて亡くなった人を偲ぶらしい。しかし、今回のような映画を観ると、宇宙のゴミを増やすのももう止めておかないとゴミだらけになってしまうので、自粛したほうが良いかもしれない。

地球に大きな彗星が衝突して、地球の自転の速さが遅くなってしまったら、赤道に近付けば近付くほど無重力状態になるのではないか。そう考える科学者が、島田荘司の小説「アルカトラス幻想」に出て来た。だから、巨大恐竜が、重い体重でも重力がなくて生存できたのではないか、と推測する。これはおもしろかった。

地球には重力があるから歩いたり立ったりすることができる。と教わったときの驚きと興奮がよみがえる。重力のない世界で宇宙の果てには、どんな光景が待っているのか、科学への強い興味と関心が奮い立つ。科学の世界に、想像が尽きない。夜空を見上げて、しばし立ち尽くす。
今年のアカデミー賞、10部門でノミネートされている。素晴らしい映画だ。