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2014年1月20日月曜日

映画 「アメリカン ハッスル」

                 


原題:「AMERICAN HUSTLE」
監督:デビッド ラッスル
キャスト
クリスチャン ベール
ブラッドレイ クーパー
エイミー アダムス
ジェニファー ロレンス
ジェレミー レナー

こんなに楽しい映画を久し振りに見た。愉快で楽しくて、痛快で心が躍る。
この映画を監督したデビッド ラッセルの前作「世界にひとつのプレイブック」では、ブラッドレイ クーパーとジェニファー ロレンスが不思議な恋人同士を演じたが、ジェニファー ロレンスがアカデミー主演女優賞を受賞した。また 同じ監督の「ザ ファイター」では、クリスチャン ベールと、エイミー アダムスが主演して、クリスチャン ベールがアカデミー助演男優賞を受賞した。今回、この映画で、クリスチャン ベール、エイミー アダムス、ブラッドレイ クーパー、ジェニファー ロレンスの主演俳優の4人が4人ともアカデミー賞ににノミネートされている。4人というか、ジェレミー レナーも含めて主演の5人がみんなとても芸達者で、生き生きしていて素晴らしい。それぞれの役者の味を心得ている監督なのだろう。

ストーリーはアブスキャム事件という、1979年に起きた大掛かりな収賄事件を扱ったもの。ニュージャージーで知事が人気取りのために大型娯楽施設やカジノの建設を計画し、業者からわいろを受け取った。上院議員と5人の下院議員がFBIのおとり捜査によって逮捕されて有罪となった。このおとり捜査には、男女のプロ詐欺師がFBIに協力した。バックには、イタリアマフィアの資金が関わっているから、おとり捜査も決死の覚悟がいる。実際にあった、この事件をミステリー風に怖いストーリーにすることも、ドキュメンタリータッチでまとめることもできたが、デビッド ラッセル監督は、5人の芸達者な役者を使って、洒落とユーモアで、面白おかしく上手に仕上げた。

プロの詐欺師カップルには、クリスチャン ベールとエイミー アダムス。彼らの弱みを握ったFBIのブラッドレイ クーパーが、二人の詐欺師に刑事罰を科さない代わりにおとり捜査に協力させる。FBIと詐欺師にまんまと引っかかるのが 市長のジェレミー クーパーという役回りだ。
同じような筋書で「ステイング」(1973年)という映画があった。「明日に向かって撃て」のポール ニューマンとロバート レッドフォードの二人が一番輝いていた時期の映画。二人ともうっとりするほどの男前だった。シーンが変わるごとに、つっかえとっかえ新しい三つ揃いのスーツをビシッと着て 洒落た帽子姿でハンサムなふたりが現れるたびに 深い深いため息が出た。とてもお洒落な映画で、ふたりとも格好が良すぎた。この映画を意識してか、意識しないでか、今回の「アメリカンハッスル」では 詐欺師のクリスチャン ベールが全然恰好が良くない。衝撃的な姿で出てくる。「バットマン」でも「ターミネイター」でも主役で男の中の男が、どうしてどうしてハゲでデブになって出てくるの。心臓が止まるかと思った。

かねてからクリスチャンべールの役者造りへの執念、というか役へののめり込み方は、普通ではない。「マシ二スト」(2004年)で 役のために30キロ痩せて、183センチ、54キロの体重になった。その半年後には、「バットマン ビギンズ」を演じるために体重を86キロまで戻し、また「ザ ファイター」では13キロやせてボクサーになった。役のために髪を抜いたり、歯を抜いたり、もう残酷物語か、我慢大会みたいだ。そのクリスチャン ベールが、この映画でハゲでデブな上、うさんくさい中年のおっさん詐欺師をやっている。彼はこの映画を主演するにあたって、当時の本当の詐欺師、メル ワインバーグ、89歳のところに行って、3日3晩 一緒に過ごしたそうだ。映画の中で、彼がエイミー アダムスとデューク エリントンのLPに二人してうっとり聞き惚れて涙ぐむシーンは、笑える。しかし、このおっさんが只者ではない。頭の切れるエイミー アダムスとコンビを組んで次々に詐欺を働き、女性フェロモンぷんぷんんのジェニファー ロレンスを妻に持ち二人の女を巧に操作している。エイミー アダムスに愛想を尽かされても大丈夫、しっかり心までつかんでいるから必ず彼女は帰ってくる。

エイミーアダムスとジェニファー ロレンスの愛人と妻との女トイレでの大喧嘩がすごい迫力だった。うーん。全くジェニファー ロレンスには負けます。こんな良い女には、誰にも勝てない。しかし女達の決死の争いに思わず笑い出してしまう。この明るさは、一体何だ。
FBIのやり手捜査官、ブラッドレイ クーパーがシーンが変わるごとに素敵なスーツ姿で現れる。スタイリッシュで頭が良くてカーリーヘアが愛らしくて、颯爽としている。そのエリート捜査官が、意外や意外にも 本当はメキシコ人で、貧困家庭に育っているという設定もひねりがあって面白い。彼が自宅のアパートに帰れば、所せましとスペイン語しかわからない母親や婚約者や、兄や姉の子供たちが一緒に暮らしていて所構わず走り回っていて混沌世界だ。妻の尻に敷かれているクリスチャン ベールに愛想をつかせて、FBI捜査官に乗り換えようとしたエイミー アダムスが、ラブシーンで、相手に自分の本当の姿を知ってもらいたくなって、「本当のことを言うと私メキシコ人なの」、と告白したとたんに、ブラッドレイ クーパーが度しらけて、「その英国人アクセントは何なんだよ。何だってイギリス人じゃないのか。」とぶっちぎれて女に怒りをぶちまけるシーンも大笑いだ。

ニュージャージーの知事に、「ハート ロッカー」のジェレミー レナーが出てきて、悪者のはずが、結構たたき上げの苦労人で 人の良い5人の子供のお父さんで、よくわきまえた妻をもった情に厚い男だった姿も笑える。最後に自分がおとりになって知事をだましたくせに、泣いて謝るクリスチャン ベールの格好の悪さ。まったく、だましたほうも、だまされた方も泣きながら情けタラタラな姿の大笑いだ。
カメオ出演で、ロバート デ ニーロまで出てくる。イタリアマフィアの親分だ。70歳、映画界には「デ ニーロ アプローチ」という言葉がある。「レイジングブル―」(1980年)でボクサーを演じるために体重を20キロ増やし、「アンタッチャブル」(1987年)で髪を抜き、「ゴッドファーザー」(1974年)でシチリアに住み着き、「タクシードライバー」(1976年)のためにニューヨークで本当のタクシードライバーをやった。徹底した役者造りをする人で、クリスチャン ベールの役作りのモデルにもなっている。貫録のデ ニーロが出てくるだけで、この映画がよく調味料の効いた仕上がりになっている。

この映画、もう とにかく5人が5人とも格好が悪くて笑えて笑えて仕方がない。楽しくてとっても愉快。10部門でアカデミーにノミネートされているというが、納得できる。ハリウッド映画の良さを堪能させてくれる。見て、損はない。