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2013年10月23日水曜日
いよいよオットと山へ、弥陀ヶ原
アルペンツアーに参加する。そのために上野のホテルに1泊した。
ツアーの名前は、「歩かなくても楽しめるアルペンツアー」、、ジャジャーン!歩かなくて山に登って紅葉が見られるなんて、そんなことを山の神様に許してもらえるのだろうか。宣伝文句の「足の弱い人でも大丈夫」、「荷物は無料で一足先に宅配します」、「歩かないで、3000メートル級の山々が目の前に、、、」という言葉につられて、ついふらふらと参加を決めてしまった。オットは沖縄に行きたい と叫んでいたというのに。ゴメンよー!
アルペンルートとは、北アルプスの山々の中でも、長野県の大町市から日本海側の富山市を結ぶ立山、黒部の山々を行くルートを言う。具体的には立山から美女平、室堂に登り、立山を観ながら黒部湖に降りてきて、黒部ダムを見て扇沢に下りる、2泊3日の山旅だ。
学生の頃、夏に立山、剣岳縦走を何度か試みた。同じコースで、トロリーバスで室堂まで行き、立山の雄山に取り着いた。立山3山には成功したが、2度とも天候が悪くて剣まで行けなかった。その時以来、剣岳は私にとって「登山不可能な山」、永遠に見上げて憧れる山になった。どこから見ても美しい。妥協のない完璧な美しさ。堂々として取り付きようがない。こんなに素晴らしい山が、立山よりも低いなんて信じられない。立山3003メートル、剣岳2999メートル。いっそのこと剣の頂上に高いケルンを積んで立山より高くしたい。
新幹線あさま511号に乗る。上野駅で待っていると、長野に行く白のボデイに赤いラインの入った新幹線や、山形行きの緑色の美しい新幹線や、真っ赤な美しい流線型の秋田行きの新幹線が次々と入ってきて目を奪われる。オットは夢中でカメラを向けているけど、シャッターを押したときにはすでに走り去っていて、ひとつも写真に映っていない。
新幹線で長野駅まで行き、バスで立山駅へ。そこから立山ケーブルカーに乗り、一挙に500メートルの高度をかせいで、美女平に行き、またそこから高山バスで弥陀ヶ原まで登るのが今日のスケジュールだ。
美女平までの立山ケーブルカーに乗るときの階段が大変だった。オットは死にかかった。私だけの支えでは足りなくて、ケーブルカーの係りの人が オットを背負うようにして叱咤激励して何とかオットを引き上げてくれて、やっとのことでケーブルカーに乗ることができた。ケーブルカーは急傾斜に止まっているから、乗り込む階段も急傾斜で、手すりも頼りの綱も鎖もない。下りるのも大変だった。半分死んだ顔で、美女平行きのバスに乗り込んで、やっと息を吹き返した。「歩かなくても楽しめるアルペン」なんて、真っ赤なウソを信じちゃダメだよ。山はそんなに甘くない。
反対に私は山に入れば入るほど生き生きしてきた。落葉松とぶなの林のなつかしい香り。山から吹き下ろしてくる乾いた風の心地よさ。山の滋養を全身に感じて体中の血液が浄化されるようだ。何て山は素晴らしいんだ。心が嬉しくて沸き立っている。山の風と一緒に飛び回っている。
高原バスで、標高1930メートルの弥陀ヶ原に上がるまでの途中、称名の滝を見る。350メートルの高さを豊かな水量が落下する。日本で一番長い滝だ。ちょっと沢登りしてきます、、、と言って取り付くようなスケールではない。
弥陀ヶ原は、紅葉の真っただ中だった。もんくなしの日本の秋に出くわした。ダケカンバの真紅、ヌマモミジ、チシマササ、オオバスノキ、アオモリトドマツ、ナナカマド。どれもが異なった赤さに染まっている。弥陀ヶ原は美女平と室堂の間に広がる東西9キロ、南北3キロの広い大湿原だ。春から夏のかけては山からの水でたくさんの水溜りが点在し、水芭蕉、ゼンテイカ、チングルマ等が咲く。今ごろの秋にはすっかり湿地が乾いて歩けるほどになるが、尾瀬のように木道ができていて木道から外れて高山植物を踏み荒すようなことは許されない。木道から、かなり離れたところで、ライチョウがダケカンバの実を食べにくる。それが証拠に、金魚のエサのような形の良い乾いた糞がところどころに落ちている。ライチョウ、、、なんて可愛い奴なんだ。姿は見えないんだけど糞を見ただけで満足。
弥陀ヶ原には私たちの泊まる弥陀ヶ原ホテルと国民宿舎があって、どちらも白い大きなモダンな建物だ。弥陀ヶ原ホテルの中二階にある大食堂からのながめが素晴らしい。四方ガラス張りの窓から紅葉した中大日岳が見える。他に獅子岳、鍬崎山、白山なども。遠くを見ると、下方には日本海と富山市まで見える。キラキラ街の火が光る、日本海側の夜景は絶景だ。
夕食に、富山でしか捕れないという白エビを大根おろしをつけて出された。ホタルイカや、なんとかのワタ漬けとか、なんだかの刺身など山海の珍味もたくさん。それで、お酒を飲んだ。室堂から引いた大きな温泉まである。3000メートル級の山々に囲まれて、絶景をみながら温泉に、お酒で、のんびりできる贅沢に、なんだか慣れない。山に居るという実感だけで、嬉しすぎて山でくつろぐのがもったいなくて仕方ない。山だ、山だ、山に居るんだぞー! と、心がはしゃいで止められない。ひとりでワーっと叫んで走り回りそうだ。