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2013年8月23日金曜日

映画 「エリジオン」

               


映画:「エリジオン」
原題:「ELYSIUM」
監督:ネイル ブロンキャンプ
キャスト
マックス デコスタ:   マット デーモン
防衛長官ジェシカ:   ジュデイー フォスター
エージェント クルーガー: シャルト コプレイ
フレイ サンチャゴ:   アリス ブラガ

タイトルのエリジオンとは 理想郷、英雄が最後に達成して行き着く場所のこと。アメリカ映画。サイエンスフィクションのアクションスリラー映画。
製作、監督、脚本は、ネイル ブロンキャンプ。
ストーリーは
2154年、地球は人口の爆発的な増加や、資源の奪い合いによる各国間の戦争、度重なる自然災害によって、病弊し切っている。もはや国は無くなっている。人類は、持てる者と持たざる者の2つの階層に完全に分かれている。一方は、地球から離れてエリジオンに住むわずかなエリート。他方は貧困と餓えの蔓延した地球に住む圧倒的多数の人々だ。

エリジオンは巨大企業、アーマデインが創設した宇宙空間に浮かぶ人工的に作られた星だ。最高に発達した科学と文明を持ち、そこに住むわずかな住民には、もはや寿命も病気もない。贅沢に人々はスポーツに興じ、高い文化を享受している。
地球から 上空に浮かんでいるエリジオンが見える。指輪のような形をした銀色に輝く美しい星だ。ロスアンデルスの孤児院で育つマックスは、仲良しのフレイに、いつも自分が大きくなったらフレイを連れて必ずエリジオンに連れて行ってあげると約束していた。

マックスは成長して、いまではアーマデインの工場で働いている。フレアは看護婦になった。汚れ果てた空気の中で人々は貧困と病気に苦しんでいる。アーマデインが治安警察もすべて支配しており、人々はたくさんの警察ロボットに監視されて、暮らしている。ある日、マックスは工場で機械の誤作動のために高濃度の放射線を全身にあびてしまい、後五日の命、と診断される。時間がない。五日間の間にエリジオンと地球を往復する宇宙船を乗っとって、エリジオンに行かなければ命を長らえることができない。マックスは躊躇わずに地下組織に入る。そこで、地下組織で働く医師と技術者によって、人工頭脳を脳に埋め込み、人工神経を手足に装着する人体改造手術を受ける。

マックスはアーマデインの経営者の乗る宇宙船を乗っ取り、経営者の脳をすべて自分の頭脳にコピーする。そしてエリジオンに向かおうとするところで、フレアを人質にとられて、エージェント クレイガーの執拗な追跡に抗しきれず拘束されて、囚人としてエリジオンに連行される。そこでもマックスは戦い続けるが、力尽き、、、。
というお話。

強い男、マット デーモンがスキンヘッドになって、頭に人工頭脳を取り付けて大活躍する。寡黙で幼馴染の女の子との約束を果たすために傷ついても、死にかけても戦い続ける。マット デーモンが好きな人には見る価値あり。だけれどもサイエンスフィクションとしては、つっこみどころの多い子供向け映画か。
1: 寿命がなく、年を取らず永遠に生きられる社会が2154年にくるとは思えない。映画では、どんな病気もマシンに中に入ると治ってしまうことになっているが、すべての疾病は原因も異なれば、発病のメカニズムも異なる。単純な怪我ならば 特別なマシンに入って早く治すことができる時代は来るだろう。しかし遺伝病や自己免疫疾患のように複雑なメカニズムで発病した疾病をマシンで一瞬で治せるはずがない。また精神疾患はどうだろう。寿命が無くなって、永遠に生きられることになったら人は重篤な精神疾患に苦しむことになるだろう。人は機械ではないから、マシンに入ってたちどころに病気が治る時代がくる、ということはあり得ない。

2:映画では、一つの巨大企業が地球を支配しているが、資本主義社会では企業同士が競い合って巨大企業になるのであって、一つだけの企業が生き残って、全世界を牛耳ることは考えられない。
3:映画では人類をエリジオンに住む階層と地球人の階層とに2分しているが、永遠に生き続けるエリジオンの人口が変わらないならば、文明は衰退する。代わって地球では圧倒的多数の頭脳が大きな力を持つ。いくらロボット警察が監視していても安定した社会は構築できない。またエリジオンの食糧生産、エネルギーの生産はどうなっているのか。人の命が永遠である以上、食糧もエネルギーも永遠に生産可能でなければならない。
4:地球から見て、いつも同じところに浮かんでいる人口的に作られた星エリジオンは、地球と月と太陽との自転の関係では どうなっているのだろう。いつまでも浮かんでいられるものなのか、そのあたり宇宙物理学をやってる人でないと、よくわからない。

アメリカ人は世界で一番 他言語を習得することが苦手な国民がと言われているが、本当にそうだ。ヨーロッパのように地続きで異なる言語文化をもった外国人を持たないから、自然と自分の言葉と自分の世界が世界のすべてだと思い込んでしまう。この映画では、ロスアンデルスとエリジオンしか出てこない。出てくる人はみんなアメリカ人ばかりで、インド人もいなければアジア人も出てこない。世界人口の半分はインド人と中国人なんですけど、、。アメリカというか、ロスが世界だ ロスが地球だ、と、、こんな小さな世界でサイエンスフィクションで遊んでもらいたくない。
でもマックスの苗字が、デ コスタで、フレイの苗字がサンチャゴ というのは、おもしろい。会話もスペイン語と英語のミックスだった。伝統的なアメリカ人の氏は 2154年には絶え果てて、人々も言語もスペイン語圏の人々に乗っ取られていることを予見している。

マット デーモンがSFの主人公という不思議で意外な役柄。この前の映画「ビハインド カンデラブラ」では,意外や意外、、、同性愛のピアニストのペット、ビューテイフルリトルボーイの役をやったのもびっくりだった。芸達者だなあ。
ジュデイー フォスターが知的で冷血、防衛庁長官といった役どころを演じている。マーチン スコセッシの「タクシードライバー」で若干13歳で娼婦役を演じた頃からのファンとしては、彼女の口許の皴が悲しい。ハリウッドは一流の化粧係を抱えているのに、どうして彼女の皴をきちんと消してくれなかったんだろう。フレイを演じたアリス ブラガが若くて可愛らしい。二人の女性を比べても仕方がないが、やっぱり大写しの画面では年齢の衰えが鮮明に出て隠しようがない。

ブラッド ピットの「ワールド ワオーZ」、トム クルーズの「オブリビオン」、マット デーモンの「エリジオン」と、ハリウッドを代表する役者たちが それぞれSF映画を主演したが 総じて「どこがサイエンスなのか」「これでもサイエンスか」と一喝したくなるような、ストーリーの細部の詰めの甘さが目につく。医学知識の欠如、科学知識の不足、未来をイメージするイメージそのものの貧困さが、気になる。
しかし、頭にマイクロチップを埋め込んで、頭からコードを延ばして別人の頭につなげるとその人の頭脳をコピーできるし、人工神経を手足につけて戦闘ロボット並に強くなる、というのは 夢みたい。人として心をもったまま、ロボットのような機械人間になって、悪者をばたばたやっつけて、正義に味方になって戦いたいというのは子供のころ、だれもが、思い描く夢かもしれない。そんな子供の夢を、大真面目に、たくさんのお金をかけて映画にしてくれたのだから、かなり科学的にあり得なくても、つっこみどころ満載でも、それで良いのではないか。娯楽映画なのだから。