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2013年8月12日月曜日

映画「ビハインド ザ カンデラブラ」


http://www.youtube.com/watch?v=TQ9OgbLCsUM
    



原題「BEHIND THE CANDELABRE」

オランダで、同性どうしの結婚が法で認められるようになって12年。現在のところ同性婚が認められている国は、パートナーシップを認めている国を含めると、ベルギー、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、スペイン、ポルトガル、カナダ、南アフリカ、アイスランド、ルクセンブルグ、アルゼンチン、ウルグアイ、ブラジル、メキシコ、、ドイツ、などなど。今年、英国議会で承認され、続いてニュージーランドに先を越されて、やっとオーストラリアでも同性婚法案が討議されるようになってきたが、承認されるまでには、まだ時間がかかる。
結婚は個人の嗜好に関わることで、結婚しようがしまいが、同性婚か異性婚か、他人が関わることではない。社会的責任を負う成人が結婚すれば、年金や遺産相続など、社会保障上の優遇措置も、異性婚、同性婚ともに等しく法的に保障されなければならない。当たり前のことだ。今まで法的保護されていなかったことのほうが異常だった。

映画「ビハインド ザ カンデラブラ」を観た。邦題はまだわからない。
「カンデラブラ」という言葉は、シャンデリアの複数形。だから原題を直訳すると、「シャンデリアの輝く後ろで」とか、「煌めくシャンデリアの背後で」というような意味になる。
マイケル ダグラスとマット デモンが同性愛カップルを演じた話題作。今年のカンヌ国際映画祭に出品された。ハリウッド映画の重鎮マイケル ダグラスと、アクション ヒーローのマット デーモンという、考えられないようなカップルのとりあわせの意外さに惹かれて見に行った。

監督:ステーブン ソダーバーグ
キャスト
リベラーチェ:マイケル ダグラス
スコット ソーソン:マット デーモン
ドクタースターツ:ロブ ロウ

ストーリーは
エルビス プレスリー、エルトン ジョン、マドンナやレデイーガガが、舞台のパフォーマンスで大爆発して人気が出る、その前の時代。テレビがやっと全米の家庭に普及したばかりのころ、世界の舞台で誰よりも人気を得ていたのは、ピアニストのリベラーチェだった。彼は一流のエンタテイナーとしてラスベガスのヒルトンを拠点にして、きらびやかで派手な演出で、ピアノを演奏していた。舞台には、きらびやかなガラス細工で覆い尽くしたピアノ。純白のミンクのガウンを羽織り、10本の指全部を純金の指輪で飾り、派手な衣装を身にまとったリベラーチェが舞台に上がると、熱烈な女性ファンたちは歓声を上げ、彼がダンス音楽を弾くと踊り狂い、クラシックを奏でると涙して静かに聴き入った。当時のアカデミー賞の舞台も、リベラーチェの演奏演出でリードされていた。
彼は、シングルマザーだった母親を大切にして、身の回りに、美青年を沢山はべらして、はたから見ると同性愛者だったが、それを決して認めることをしなかった。彼の自宅は 演奏の舞台をそのまま持ってきたように豪華絢爛、部屋のどこにでも特大のシャンデリアが煌々と輝き、家具調度品や食器に至るまでビクトリア朝、ベルサイユ宮殿をそのまま再現したように派手に飾り立てていた。

1977年、犬の調教師をしていたスコット ソーソンは 友人に誘われてラスベガスでピアニスト リベラーチェのショーを見たあと舞台裏を訪れる。ひと目でソーソンを気に入ってしまったリベラ―チェは 強引にソーソンを自分の秘書になってもらいたいと求める。父と子ほどに年齢が離れているにもかかわらず二人は愛し合うようになり、ソーソンはリベラーチェの身の回りの世話から ショーにまで一緒に登場するようになり、互いになくてはならない関係性を築き上げる。

リベラーチェは生来の気前の良さから自分が好んで身に着けている宝石や金銀と同じものをソーソンに与え、彼のために家を買い、養子縁組までして世話を焼く。若いソーソンは時として、自分の好きな時間に外出して、普通の人のように友達付き合いもするふつうの生活をしたい、今の生活には自由がない、と苛立つときもあるが、リベラーチェの情愛の深さに、自分もまた全力でリベラーチェにつくして生きようとする。二人の愛情生活は5年余りの間、続く。

しかしソーソンが 姉の葬儀のために田舎に帰っている間に、寂しさに耐えられなくなったリベラーチェは若いダンサーに心を移す。絶望するソーソン。リベラ―チェがすべてだったのに、と叫びながら耐え難い痛みから、ソーソンはアルコール中毒に身を落とす。
5年経った。ソーソンは自分を取り戻し、平穏な生活に戻っている。ある日、リベラーチェから電話がかかってくる。電話に応じて、ソーソンがリベラーチェを訪ねてみると、たくさんの使用人を抱えて豪華絢爛だった屋敷は見る影もなく、彼は死の床に居た。二人は溢れる思いで語り合う。そしてリベラーチェは人生で一番幸せだったソーソンとの生活の思い出に、自分がいつも身に着けていた指輪をソーソンに与える。ほどなくしてリベラーチェの死が伝えられる。エイズだったが、死因は発表されなかった。というお話。

監督ステーブン ソダバーグは スウェーデン系アメリカ人。
1989年「トラフィック」で、アカデミー監督賞受賞。史上最年少26歳の受賞だった。アメリカの暴力社会、人種差別社会や警察内部の不正を描いていて、良い映画だったので、社会派の監督かと思っていたが、このあとは、「オーシャンズ11」(2001年)、「オーシャンズ12」(04年)、「オーシャンズ13」(07年)で成功。2008年になって、チェ ゲバラのバイオグラフィー「チェ」を製作した。「チェ」は前篇、後篇と合わせると6時間あまりの長編映画。オーストラリアでは公開されなかったので、台湾でヴィデオを求めて、誰もいない日に、ソファのまわりに昼食、夕食、おやつ、飲み物を準備して一挙に観た。素晴らしい作品だった。今回のこの映画も、とても良い。芸達者な二人の役者がそれぞれとても良い味をだしている。

マイケル ダグラスは68歳。ベラルーシ出身でユダヤ系アメリカ人俳優、カーク ダグラスの息子。「ウォール街」(1987年)でアカデミー主演男優賞、「ローズ家の戦争」(1989年)、「ブラックレイン」(1989年)を主演、これは松田優作の最後の作品にもなった。
1979年に映画「チャイナシンドローム」を製作出演したが、これはマイケル ダグラスが反原発活動家として原発の危険を予告したという意味で、記憶に残る。ジェーン フォンダがこの映画を主演したために、ジェネラルエレクトリック(GE)は 怒ってすべてスポンサーから下りると、公言したことでも話題になった。しかし、この映画公開日、1979年3月16日から12日後に、ペンシルバニア、スリーマイル島で原子力発電所で、原子炉炉心がメルトダウンする事故が起こった。あたかも映画が事故を予言したかのような形になったことで、映画としては全然イケてない映画だったが 映画史上に残る作品になった。

マット デーモンは、頭脳明晰、正義のために戦う強い男か、立派なお父さんの役ばかり主演してきた。リベラーチェににじり寄られて毒牙にはまって、遂に心まで奪われていく心優しい青年の役を好演。全裸シーンが多いけれど68歳のマイケル ダグラスも40代のマット デーモンも若い体に感心。二人の男の関係がとても自然に描かれていて好感がもてる。表も裏もない純真な男と男の関係が、切なくて優しくて とても良い。
リベラーチェに限らず、シャンデリアのように輝くスターの生と死のストーリーは 輝いているときには美しいだけに悲しい。エイズで死の床にあってもなおソーソンの目からみるとリベラーチェは輝いて見えている。彼が棺に納められているときでさえソーソンには、舞台で輝いているリベラ―チェしか見えていない。本当に本当にソーソンには「リベラーチェがすべて」だったのだ。そして、二人は本当に愛し合っていたのだ、ということがわかってホロリとする。

マット デーモンははじめ動物調教師をしていたころは がっしりしてちょっと太り気味、顔も四角だったのがリベラーチェに望まれて 痩せて顔もシャープな顎の顔に変ってくる。ハリウッド映画の化粧係のテクニックにつくずく感心。どんな顔でも作れるんだなあ。びっくりだ。
この世では、あつい男と男の友情に涙する男がたくさん居るのに、男同士の結婚を嫌う男が多いのは どうしてだろう。全然理解できないよ。オーストラリアでも、日本でも早く同性婚を立法化するときだと思う。