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2013年8月26日月曜日

映画 「ランナウェイ 逃亡者」

    


原題:「THE COMPANY YOU KEEP」
原作:ニール ゴードンのスリラー小説「THE COMPANY YOU KEEP」
監督:ロバート レッドフォード
キャスト
ニック スローン:ロバート レッドフォード
シャロン ソラズ:スーザン サランドン
ミミ        :ジュデイー クリステイー
ベン セパード :シーア ラベロフ
オブボーン元警官:ブレンダン グリーソン
ストーリーは
妻に先立たれた弁護士 ジム グラント(ロバート レッドフォード)は、11歳の娘と ニューヨーク郊外のアルバニーで、二人で暮らしている。ある日、30年前に反ベトナム戦争運動にかかわって指名手配されていた極左組織のシャロン ソラズ(スーザン サランドン)が逮捕されたというニュースが流れる。彼女はFBIの捜査追及を 30年余りの間逃れて逃亡生活をしていたのだった。彼女は銀行強盗の際に爆弾で銀行のガードマンを殺害した容疑で逮捕された。この事件の主犯はニック スローンという男で、30年間指名手配されていて まだ逮捕されていない。

新聞記者のベン セパード(シーア ラベロフ)は、シャロン ソラズがニューヨークの弁護士ジム グラントという男に関係がある というFBIの極秘情報を得る。ベンはシャロンの逮捕を契機に 当時の反ベトナム運動の地下秘密組織に興味を持ち 指名手配されている逃亡者たちを追うことを ジャーナリストの使命だと考える。さっそく弁護士ベン セパードに会いに行き、どうしてシャロンの弁護を引き受けないのかと問い詰めても、ジムは質問をかわすだけ。疑問に思ったベンは、ジムの素性を調べる。すると驚くべきことに、ジム グラントという男はすでに死亡していて、現在弁護士として成功している男は、ジムになり澄ました誰かだ。30年前の秘密地下組織のファイルと指名手配中の顔写真を照らし合わせて見て、ベンは、ジム グラントと名乗る弁護士こそ、事件主犯で逃亡中のニック スローンであることを知る。大スクープだ。翌日の新聞は、ベンの記事が 大きなセンセーションを起こす。

1980年、ミシガン州で過激派が銀行強盗を行い、その際に’ガードマンが殺された。その容疑でFBIが30年余りも追跡していた男を一人の新聞記者が暴き出したのだった。ニックは娘を連れて逃亡する。今は大学教授だったり、材木商だったりする昔の仲間を頼りながら、逃亡し、遂にカナダ国境で、昔の恋人、ミミ(ジュデイー クリステイー)に会う。二人は昔愛し合っていて、別れた時にはミミは、妊娠中だった。ミミは口を閉ざしていて、ニックには、当時の事情がわからない。
一方、新聞記者ベンは 調べれば調べるほど自分が窮地に追いやってしまったニック スローンが、銀行強盗に関与していたとは思えなくなっていく。そこで初めて銀行強盗があった時に、最初に現場を捜査した元警官ヘンリー オズボーン(ブレンダン グリーソン)にインタビューを申し込む。そこでベンは彼の美しい娘レベッカ(ブリット マーリング〉に出会う。元警官は 予想通り強盗事件にニックは関わっていないと証言する。ますますベンはペンの力でニックを追い詰めてしまったが彼が殺人犯ではない確証をもち、自己嫌悪に陥る。

一方、ニックはミシガンの銀行強盗の主犯だったミミに、自首を勧める。シャロンが逮捕されたあと、ミミの逮捕も時間の問題だ。当時ミミは、恋人だったニックに罪を着せてまで逃げ延びなければならなかった。30年たったいまやっとニックは、ミミからニックとの間にできた子供が実は 事件のあと元警官ヘンリーのもとで育てられ、今は美しい立派な女性になっていることを知らされる。
警察の追手が迫った。ミミはボートでカナダに逃げる。ニックは警察の目をミミからそらすために反対方向に逃げ そして逮捕される。逃亡に成功したミミは しかし、あとで考えを改めて捜査隊に向かって行く。
記者ベンは30年前の事件を掘り下げて人々に事実を知らせることに、どんな意味があったのか、自分は無実の弁護士を追い詰めて傷つけただけだったのではないのか、何も知らずに元警官の家庭で育ち立派な社会人になっているレベッカの素性をさらし出し、傷つけることになっただけではないのか、報道の真実とは何だったのか、自問自答するのだった。
というおはなし。

総じて、ベビーブーマー以外の若い人にとっては 退屈な映画だ。どうしてこんなにオールドファッションの年寄りばかり出している映画に人が来るのか 若い人には理解できないだろう。私は若くもなくベビーブーマーで、まさにこの映画で語られる時代を、ベトナム戦争反対運動にも人並み程度に関わり、そのために資金調達に銀行強盗くらい やっても仕方ないよな、くらいの認識で駆け抜けてきたが それでもこの映画は退屈だった。
テーマが何なのか明らかでないからだ。
一つは ベトナム反戦運動してきた地下組織のメンバーにとって、当時の誤りを今、どう考えるのかというテーマ。ここでは殺人に至るテロは誤りだったから、潔く自首して罪を認めると 言っている。それも単純すぎるような気がする。
もう一つのテーマは、30年間秘密にしてきたことを 報道記者が暴き立てて「事実」を表にさらけ出すことにどんな意味があるか、というジャーナリストの良心に係わることだ。この映画では どちらのテーマも中途半端で見ている人に何も考えさせない、何も訴えないで終わってしまった。

40年前、アメリカには徴兵制度があった。アメリカが北ベトナムを爆撃し始めた1965年、ベトナム戦争はベトナム地域のことなどでは無く、全世界の緊迫する問題になった。アメリカの若者は強制的にベトナムに送られ、反戦デモを大学内で行っただけで学生が警察に撃ち殺されたりした。従軍を拒否した若者は刑務所で拘禁され暴行を受けた。沖縄ではベトナムでバラバラになった米兵の死体を、次々とつなぎ合わせて本国に送り返していた。ベトナムの独立を封じ、南ベトナム傀儡政権を作ってアジアの軍事拠点を作ろうとしていたアメリカに 若者が抵抗するのは、当然の流れだった。この当時、学生生活を送ったベビーブーマーには、100人100様のストーリーがあるだろう。問われれば答えるしかないが、他人のストーリーをいまさら聴こうとは思わない。
だから、ニックとミミが自首しろとかいや、しないとかベッドシーンの後で グダグダやっている姿にはげんなりだ。年寄りのベッドシーンなんか見たくない。ロバート レッドフォード77歳、ジュリー クリステイー72歳の裸など誰も興味ない。

 ロバート レッドフォードが良かったのは、「明日に向かって走れ」1969年、「夕日に向かって走れ」1969年、「ステイング」1973年、「華麗なるギャツビー」1974年、「愛と悲しみの果て」1985年、「モンタナの風に抱かれて」1996年までだ。年を取れば醜くなる。出しゃばるのを止めたり、醜い部分を修正したり、ぼやかしたり、隠したりするのは必要最低限のエチケットだ。
ただ、66歳のスーザン サランドンが逮捕され尋問のあとに、今、同じ状況になったら同じことをまたやるつもりか、と問われて、ためらわずに「私は同じことをするだろう。」と毅然と答えるところは良かった。

報道記者としての良心の問題。FBIからご秘密情報を盗み出し、犯人をあぶり出して、追いつめる、この記者は事実を知りたかっただけだ。それが結果としてたくさんの人を傷つけることになり、真犯人の逮捕につながり、封じていた過去の秘密が表に出た。ジャーナリストの使命と良心の呵責。これはジャーナリストにとって永遠の悩みだ。映画ではこれについて、踏み込んでいない。
映画としては、退屈な映画なので、日本公開はないだろうと思っていたら、10月4日、公開だという。

2013年8月23日金曜日

映画 「エリジオン」

               


映画:「エリジオン」
原題:「ELYSIUM」
監督:ネイル ブロンキャンプ
キャスト
マックス デコスタ:   マット デーモン
防衛長官ジェシカ:   ジュデイー フォスター
エージェント クルーガー: シャルト コプレイ
フレイ サンチャゴ:   アリス ブラガ

タイトルのエリジオンとは 理想郷、英雄が最後に達成して行き着く場所のこと。アメリカ映画。サイエンスフィクションのアクションスリラー映画。
製作、監督、脚本は、ネイル ブロンキャンプ。
ストーリーは
2154年、地球は人口の爆発的な増加や、資源の奪い合いによる各国間の戦争、度重なる自然災害によって、病弊し切っている。もはや国は無くなっている。人類は、持てる者と持たざる者の2つの階層に完全に分かれている。一方は、地球から離れてエリジオンに住むわずかなエリート。他方は貧困と餓えの蔓延した地球に住む圧倒的多数の人々だ。

エリジオンは巨大企業、アーマデインが創設した宇宙空間に浮かぶ人工的に作られた星だ。最高に発達した科学と文明を持ち、そこに住むわずかな住民には、もはや寿命も病気もない。贅沢に人々はスポーツに興じ、高い文化を享受している。
地球から 上空に浮かんでいるエリジオンが見える。指輪のような形をした銀色に輝く美しい星だ。ロスアンデルスの孤児院で育つマックスは、仲良しのフレイに、いつも自分が大きくなったらフレイを連れて必ずエリジオンに連れて行ってあげると約束していた。

マックスは成長して、いまではアーマデインの工場で働いている。フレアは看護婦になった。汚れ果てた空気の中で人々は貧困と病気に苦しんでいる。アーマデインが治安警察もすべて支配しており、人々はたくさんの警察ロボットに監視されて、暮らしている。ある日、マックスは工場で機械の誤作動のために高濃度の放射線を全身にあびてしまい、後五日の命、と診断される。時間がない。五日間の間にエリジオンと地球を往復する宇宙船を乗っとって、エリジオンに行かなければ命を長らえることができない。マックスは躊躇わずに地下組織に入る。そこで、地下組織で働く医師と技術者によって、人工頭脳を脳に埋め込み、人工神経を手足に装着する人体改造手術を受ける。

マックスはアーマデインの経営者の乗る宇宙船を乗っ取り、経営者の脳をすべて自分の頭脳にコピーする。そしてエリジオンに向かおうとするところで、フレアを人質にとられて、エージェント クレイガーの執拗な追跡に抗しきれず拘束されて、囚人としてエリジオンに連行される。そこでもマックスは戦い続けるが、力尽き、、、。
というお話。

強い男、マット デーモンがスキンヘッドになって、頭に人工頭脳を取り付けて大活躍する。寡黙で幼馴染の女の子との約束を果たすために傷ついても、死にかけても戦い続ける。マット デーモンが好きな人には見る価値あり。だけれどもサイエンスフィクションとしては、つっこみどころの多い子供向け映画か。
1: 寿命がなく、年を取らず永遠に生きられる社会が2154年にくるとは思えない。映画では、どんな病気もマシンに中に入ると治ってしまうことになっているが、すべての疾病は原因も異なれば、発病のメカニズムも異なる。単純な怪我ならば 特別なマシンに入って早く治すことができる時代は来るだろう。しかし遺伝病や自己免疫疾患のように複雑なメカニズムで発病した疾病をマシンで一瞬で治せるはずがない。また精神疾患はどうだろう。寿命が無くなって、永遠に生きられることになったら人は重篤な精神疾患に苦しむことになるだろう。人は機械ではないから、マシンに入ってたちどころに病気が治る時代がくる、ということはあり得ない。

2:映画では、一つの巨大企業が地球を支配しているが、資本主義社会では企業同士が競い合って巨大企業になるのであって、一つだけの企業が生き残って、全世界を牛耳ることは考えられない。
3:映画では人類をエリジオンに住む階層と地球人の階層とに2分しているが、永遠に生き続けるエリジオンの人口が変わらないならば、文明は衰退する。代わって地球では圧倒的多数の頭脳が大きな力を持つ。いくらロボット警察が監視していても安定した社会は構築できない。またエリジオンの食糧生産、エネルギーの生産はどうなっているのか。人の命が永遠である以上、食糧もエネルギーも永遠に生産可能でなければならない。
4:地球から見て、いつも同じところに浮かんでいる人口的に作られた星エリジオンは、地球と月と太陽との自転の関係では どうなっているのだろう。いつまでも浮かんでいられるものなのか、そのあたり宇宙物理学をやってる人でないと、よくわからない。

アメリカ人は世界で一番 他言語を習得することが苦手な国民がと言われているが、本当にそうだ。ヨーロッパのように地続きで異なる言語文化をもった外国人を持たないから、自然と自分の言葉と自分の世界が世界のすべてだと思い込んでしまう。この映画では、ロスアンデルスとエリジオンしか出てこない。出てくる人はみんなアメリカ人ばかりで、インド人もいなければアジア人も出てこない。世界人口の半分はインド人と中国人なんですけど、、。アメリカというか、ロスが世界だ ロスが地球だ、と、、こんな小さな世界でサイエンスフィクションで遊んでもらいたくない。
でもマックスの苗字が、デ コスタで、フレイの苗字がサンチャゴ というのは、おもしろい。会話もスペイン語と英語のミックスだった。伝統的なアメリカ人の氏は 2154年には絶え果てて、人々も言語もスペイン語圏の人々に乗っ取られていることを予見している。

マット デーモンがSFの主人公という不思議で意外な役柄。この前の映画「ビハインド カンデラブラ」では,意外や意外、、、同性愛のピアニストのペット、ビューテイフルリトルボーイの役をやったのもびっくりだった。芸達者だなあ。
ジュデイー フォスターが知的で冷血、防衛庁長官といった役どころを演じている。マーチン スコセッシの「タクシードライバー」で若干13歳で娼婦役を演じた頃からのファンとしては、彼女の口許の皴が悲しい。ハリウッドは一流の化粧係を抱えているのに、どうして彼女の皴をきちんと消してくれなかったんだろう。フレイを演じたアリス ブラガが若くて可愛らしい。二人の女性を比べても仕方がないが、やっぱり大写しの画面では年齢の衰えが鮮明に出て隠しようがない。

ブラッド ピットの「ワールド ワオーZ」、トム クルーズの「オブリビオン」、マット デーモンの「エリジオン」と、ハリウッドを代表する役者たちが それぞれSF映画を主演したが 総じて「どこがサイエンスなのか」「これでもサイエンスか」と一喝したくなるような、ストーリーの細部の詰めの甘さが目につく。医学知識の欠如、科学知識の不足、未来をイメージするイメージそのものの貧困さが、気になる。
しかし、頭にマイクロチップを埋め込んで、頭からコードを延ばして別人の頭につなげるとその人の頭脳をコピーできるし、人工神経を手足につけて戦闘ロボット並に強くなる、というのは 夢みたい。人として心をもったまま、ロボットのような機械人間になって、悪者をばたばたやっつけて、正義に味方になって戦いたいというのは子供のころ、だれもが、思い描く夢かもしれない。そんな子供の夢を、大真面目に、たくさんのお金をかけて映画にしてくれたのだから、かなり科学的にあり得なくても、つっこみどころ満載でも、それで良いのではないか。娯楽映画なのだから。


2013年8月12日月曜日

映画「ビハインド ザ カンデラブラ」


http://www.youtube.com/watch?v=TQ9OgbLCsUM
    



原題「BEHIND THE CANDELABRE」

オランダで、同性どうしの結婚が法で認められるようになって12年。現在のところ同性婚が認められている国は、パートナーシップを認めている国を含めると、ベルギー、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、スペイン、ポルトガル、カナダ、南アフリカ、アイスランド、ルクセンブルグ、アルゼンチン、ウルグアイ、ブラジル、メキシコ、、ドイツ、などなど。今年、英国議会で承認され、続いてニュージーランドに先を越されて、やっとオーストラリアでも同性婚法案が討議されるようになってきたが、承認されるまでには、まだ時間がかかる。
結婚は個人の嗜好に関わることで、結婚しようがしまいが、同性婚か異性婚か、他人が関わることではない。社会的責任を負う成人が結婚すれば、年金や遺産相続など、社会保障上の優遇措置も、異性婚、同性婚ともに等しく法的に保障されなければならない。当たり前のことだ。今まで法的保護されていなかったことのほうが異常だった。

映画「ビハインド ザ カンデラブラ」を観た。邦題はまだわからない。
「カンデラブラ」という言葉は、シャンデリアの複数形。だから原題を直訳すると、「シャンデリアの輝く後ろで」とか、「煌めくシャンデリアの背後で」というような意味になる。
マイケル ダグラスとマット デモンが同性愛カップルを演じた話題作。今年のカンヌ国際映画祭に出品された。ハリウッド映画の重鎮マイケル ダグラスと、アクション ヒーローのマット デーモンという、考えられないようなカップルのとりあわせの意外さに惹かれて見に行った。

監督:ステーブン ソダーバーグ
キャスト
リベラーチェ:マイケル ダグラス
スコット ソーソン:マット デーモン
ドクタースターツ:ロブ ロウ

ストーリーは
エルビス プレスリー、エルトン ジョン、マドンナやレデイーガガが、舞台のパフォーマンスで大爆発して人気が出る、その前の時代。テレビがやっと全米の家庭に普及したばかりのころ、世界の舞台で誰よりも人気を得ていたのは、ピアニストのリベラーチェだった。彼は一流のエンタテイナーとしてラスベガスのヒルトンを拠点にして、きらびやかで派手な演出で、ピアノを演奏していた。舞台には、きらびやかなガラス細工で覆い尽くしたピアノ。純白のミンクのガウンを羽織り、10本の指全部を純金の指輪で飾り、派手な衣装を身にまとったリベラーチェが舞台に上がると、熱烈な女性ファンたちは歓声を上げ、彼がダンス音楽を弾くと踊り狂い、クラシックを奏でると涙して静かに聴き入った。当時のアカデミー賞の舞台も、リベラーチェの演奏演出でリードされていた。
彼は、シングルマザーだった母親を大切にして、身の回りに、美青年を沢山はべらして、はたから見ると同性愛者だったが、それを決して認めることをしなかった。彼の自宅は 演奏の舞台をそのまま持ってきたように豪華絢爛、部屋のどこにでも特大のシャンデリアが煌々と輝き、家具調度品や食器に至るまでビクトリア朝、ベルサイユ宮殿をそのまま再現したように派手に飾り立てていた。

1977年、犬の調教師をしていたスコット ソーソンは 友人に誘われてラスベガスでピアニスト リベラーチェのショーを見たあと舞台裏を訪れる。ひと目でソーソンを気に入ってしまったリベラ―チェは 強引にソーソンを自分の秘書になってもらいたいと求める。父と子ほどに年齢が離れているにもかかわらず二人は愛し合うようになり、ソーソンはリベラーチェの身の回りの世話から ショーにまで一緒に登場するようになり、互いになくてはならない関係性を築き上げる。

リベラーチェは生来の気前の良さから自分が好んで身に着けている宝石や金銀と同じものをソーソンに与え、彼のために家を買い、養子縁組までして世話を焼く。若いソーソンは時として、自分の好きな時間に外出して、普通の人のように友達付き合いもするふつうの生活をしたい、今の生活には自由がない、と苛立つときもあるが、リベラーチェの情愛の深さに、自分もまた全力でリベラーチェにつくして生きようとする。二人の愛情生活は5年余りの間、続く。

しかしソーソンが 姉の葬儀のために田舎に帰っている間に、寂しさに耐えられなくなったリベラーチェは若いダンサーに心を移す。絶望するソーソン。リベラ―チェがすべてだったのに、と叫びながら耐え難い痛みから、ソーソンはアルコール中毒に身を落とす。
5年経った。ソーソンは自分を取り戻し、平穏な生活に戻っている。ある日、リベラーチェから電話がかかってくる。電話に応じて、ソーソンがリベラーチェを訪ねてみると、たくさんの使用人を抱えて豪華絢爛だった屋敷は見る影もなく、彼は死の床に居た。二人は溢れる思いで語り合う。そしてリベラーチェは人生で一番幸せだったソーソンとの生活の思い出に、自分がいつも身に着けていた指輪をソーソンに与える。ほどなくしてリベラーチェの死が伝えられる。エイズだったが、死因は発表されなかった。というお話。

監督ステーブン ソダバーグは スウェーデン系アメリカ人。
1989年「トラフィック」で、アカデミー監督賞受賞。史上最年少26歳の受賞だった。アメリカの暴力社会、人種差別社会や警察内部の不正を描いていて、良い映画だったので、社会派の監督かと思っていたが、このあとは、「オーシャンズ11」(2001年)、「オーシャンズ12」(04年)、「オーシャンズ13」(07年)で成功。2008年になって、チェ ゲバラのバイオグラフィー「チェ」を製作した。「チェ」は前篇、後篇と合わせると6時間あまりの長編映画。オーストラリアでは公開されなかったので、台湾でヴィデオを求めて、誰もいない日に、ソファのまわりに昼食、夕食、おやつ、飲み物を準備して一挙に観た。素晴らしい作品だった。今回のこの映画も、とても良い。芸達者な二人の役者がそれぞれとても良い味をだしている。

マイケル ダグラスは68歳。ベラルーシ出身でユダヤ系アメリカ人俳優、カーク ダグラスの息子。「ウォール街」(1987年)でアカデミー主演男優賞、「ローズ家の戦争」(1989年)、「ブラックレイン」(1989年)を主演、これは松田優作の最後の作品にもなった。
1979年に映画「チャイナシンドローム」を製作出演したが、これはマイケル ダグラスが反原発活動家として原発の危険を予告したという意味で、記憶に残る。ジェーン フォンダがこの映画を主演したために、ジェネラルエレクトリック(GE)は 怒ってすべてスポンサーから下りると、公言したことでも話題になった。しかし、この映画公開日、1979年3月16日から12日後に、ペンシルバニア、スリーマイル島で原子力発電所で、原子炉炉心がメルトダウンする事故が起こった。あたかも映画が事故を予言したかのような形になったことで、映画としては全然イケてない映画だったが 映画史上に残る作品になった。

マット デーモンは、頭脳明晰、正義のために戦う強い男か、立派なお父さんの役ばかり主演してきた。リベラーチェににじり寄られて毒牙にはまって、遂に心まで奪われていく心優しい青年の役を好演。全裸シーンが多いけれど68歳のマイケル ダグラスも40代のマット デーモンも若い体に感心。二人の男の関係がとても自然に描かれていて好感がもてる。表も裏もない純真な男と男の関係が、切なくて優しくて とても良い。
リベラーチェに限らず、シャンデリアのように輝くスターの生と死のストーリーは 輝いているときには美しいだけに悲しい。エイズで死の床にあってもなおソーソンの目からみるとリベラーチェは輝いて見えている。彼が棺に納められているときでさえソーソンには、舞台で輝いているリベラ―チェしか見えていない。本当に本当にソーソンには「リベラーチェがすべて」だったのだ。そして、二人は本当に愛し合っていたのだ、ということがわかってホロリとする。

マット デーモンははじめ動物調教師をしていたころは がっしりしてちょっと太り気味、顔も四角だったのがリベラーチェに望まれて 痩せて顔もシャープな顎の顔に変ってくる。ハリウッド映画の化粧係のテクニックにつくずく感心。どんな顔でも作れるんだなあ。びっくりだ。
この世では、あつい男と男の友情に涙する男がたくさん居るのに、男同士の結婚を嫌う男が多いのは どうしてだろう。全然理解できないよ。オーストラリアでも、日本でも早く同性婚を立法化するときだと思う。