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2012年4月17日火曜日

京都最後の自由時間



ツアー6日目。
今日は夕方まで京都で自由時間の日だ。夜6時に ガイドがホテルに来て 京都駅の新幹線プラットフォ-ムまで見送ってくれる。その後、東京駅では別のガイドが待っていて、前に2泊した九段のホテルに送ってくれるはずだ。

ホテルで朝食を済ませて、タクシーで駅ビルの中の伊勢丹へ。
今はどうか知らないが、その昔、男物といえば伊勢丹だった。靴からパンツ、シャツ、ジャケットから帽子まで、そこで買い揃えれば間違いは無い、ロンドンで言うと、バーバリのような店だった。日本に来る前から日本に着いたら 新宿の伊勢丹というところで、シャツもジャケットも オーストラリアやヨーロッパで手に入らないような素敵なのを買ってあげるからね、と約束していた。伊勢丹はオットが発音すると「イーセ トアン」になる。そのイーセ トアンが京都にも出来たと、タクシーの運転手から聞いて、歓び勇んで出かけたわけだ。ところが21世紀のイーセ トアンは、随分様変わりしていて、アルマニやジバンシーやヨースケヤマモトやジュンアシダやカルダンなどのブランド品を、並べてあるだけで、オリジナルはない。意表をつくような つぎはぎジャケットや、襟が左右相称でない遊びの入った背広や、ピンクや花柄のシャツなど、若者に媚を売るようなデザインばかり。生まれて初めてデパートに連れて来られた子供のように期待してやってきたオットの期待が音を立ててしぼんでいくようで、あわててバーバリ店に入る。

バーバリならシドニーにも独立した店を持っていて流行っているが、よくよく見ると伊勢丹のバーバリは 見たことが無いような洒落たものがある。やっぱり、イーセ トアンですよ。ネクタイ2本と、白い襟とカフスがついたストライプのシャツと、白い襟、カフスに、変わり織り模様のついた美しいシャツを買う。オットは首と腹が太いが、腕は短い。袖を短く直さないと買ったシャツは着られないので、いつも25ドル出して 専門店で直してもらっていた。ところが伊勢丹では「無料でお直しいたします」と言われて、信じられない思い。さすが日本のデパート。サービス満点、しかし哀しいかな、お直しが終わる2日後には京都に居ない。泣く泣く袖の長いままのシャツを受け取る。

買い物が済むと、コーヒーショップで一休み。おやおやコーヒーが680円で、サンドイッチつきのコーヒーが880円。勿論サンドイッチつきのを注文。野菜とハムの入ったサンドイッチに オットは感激、パンがフレッシュ、野菜がフレッシュ、ハムがフレッシュ、ウェイトレスが優しいと、繰り返し言う。そんなのわかってる。オーストラリアのパンは、買った翌日にはボソボソで、来たばかりのころは その不味さに閉口して飲み込めなかった。ヨ-ロッパでも美味しいパンにめぐり合わなかった。やっぱり日本のパンは最高、全然よそと違う。

デパートを出ると、自動的に駅ビルに入った。あらあら、右も左も可愛い女の子の洋服や靴や小物ばかり。何もかもがキラキラ光ってまぶしい。最初に目に入った 胸に白い繊細なレースのついたブラウスを着たマネキンを見て、その場で同じものを試着せずに買う。オットのようにいびつな体形をしていないから、試着する必要が無い。オットのシャツ2枚買う為に費やした時間、3時間半。私のブラウスに費やした時間3分。値段も一桁以上違う。この違いは何なのさ。
もっと見たいのに、オットは何と 食べ物の見本が沢山並んでいるバーガー専門店の前に居て、「こっち、こっち」と呼んでも動かない。エネルギー切れだと。ゲッ またパンかよ。コーヒーと食べたサンドイッチは、モーニングテイーで、今度のビールと食べるステーキの入ったバーガーは昼食なんだそうだ。日本に来て、蕎麦屋も鰻屋も鮨屋も並んでいるのに、オットにあわせて、オージービーフを食べる哀しさ、、。

パンで異様に膨れた腹のオットを 東本願寺まで歩かせる。目の前だが、オットと歩くと30分かかる。
仏教の知識は 中村光の「聖おにいさん」(講談社コミック)で勉強済みだが、日本の仏教者に中では、親鸞に、一番親しみを感じる。東本願寺は 駅に近く、西本願寺ほど大きくなく手ごろだ。親鸞には、大乗仏教のような奢りも偉さもなく、小乗仏教の中でも最も民衆に近いところに居た。彼の、「親鸞は弟子一人ももたず候」という言葉や、「善人なほもて往生をとぐ、いはんや悪人をや」は、言葉として力をもつ。ただ真剣に自らの愚かさを知り、祈れば必ず浄土に往生できる、という他力本願は、選ばれた者や、厳しい修行した者ばかりでなく 人は誰でも等しく救われると理解され、人々の生きる道徳の規範のにもなったことだろう。

オットは一通り寺を見ると、もうアゴを出している。タクシーでホテルに戻り、JTBのガイドさんに拾ってもらって、新幹線乗り場に向かう。男と言うものは、どうして乗り物に乗るとただそれだけで、嬉しがる生き物なのだろう。生後10ヶ月のマゴが 車に乗る込むだけで目をキラキラさせて歓ぶ姿と、オットが新幹線や飛行機に乗るときの目は、全く同じだ。
東京のホテルに10時過ぎに着いて、オットはイーセ トアンで買ったシャツとタイを丁寧に、丁寧に大きなスーツケースに移して、安置して、やっとビールに手を伸ばす。今夜もビールが美味しい。