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2011年10月11日火曜日

映画「あしたのジョー」僕らは明日のジョーだったか



「僕らは明日のジョーなんだ。」と言って、田宮高麿は「よど号」に乗って ピョンヤンに行き そこで死んだ。
1968年から1973年。「あしたのジョー」が少年サンデーに連載されていた当時の「ぼくら」にとって、あしたのジョーは本当に漫画以上の存在だった。「本は心の栄養」だそうだが、あしたのジョーは心の栄養どころか 血であり肉であった。

このころアメリカはベトナムを爆撃し、日本全国が米軍の基地だった。
東京のど真ん中を 米軍ジェット機輸送のためのオイルが連日突っ走っていた。核も堂々と持ち込まれていた。
ベトナム独立のために銃を持ち、農地に穴を掘り 圧倒的な軍事力をもつ米軍に徹底抗戦していたベトナムの人々を 殺す為に毎日飛び発っていくアメリカ軍人を 日本政府は送り出していた。多くの良識ある人々は ベトナム反戦運動に立ち上がった。当時のべ平連、全学連や全共闘は、傷ついても傷ついても負けずに立ち向かっていく あしたのジョーに自分達の姿を重ね合わせていたと思う。向かっていく巨大な壁は、自分達の力にかなうわけがないアメリカ政府と日本政府の安保条約であり、自衛隊と機動隊の力だった。

ベトナムを激しく爆撃するアメリカ大使館に「抗議」に行って、1967年10月逮捕された。17歳だった。単純直行実行主義だったから、米軍のベトナム介入に反対して 気がついたら歩道の敷石を割って アメリカ大使館に石を投げていた。月島警察署で 刑事が私が何も言ってないのに 目の前で「私は**大学の**の指揮の下にシャガクドーのデモに参加し、、、。」と スラスラ書いていくのを あっけにとられて見ていた。ふーん。ふむふむ。あの先頭に居た人は あの有名な**大学の**さんという人だったのか、、。シャガクドーって どういう字? 私の学生運動の理解度など、その程度だった。明治、法政、中大、東大に出入りしていたが 自分の大学には骨のある新聞会さえなかった。友人は佐世保、防衛庁に突入していたが マルクスやレーニンよりも、あしたのジョーから 手っ取り早く より多くの自立の精神を学んでいた。 今思うと冷や汗が出る。

この作品は 漫画だけでなく、何度もテレビでアニメーション連載番組になったり、映画化されたりしていたらしい。2011年2月に映画化されたものを観た。先日帰国の際 日豪間の飛行機の中で見たのだが、画面が小さくて、よく動きがわからなかったので、改めてヴィデオで観た。

監督:曽利文彦
ストーリーは
1960年代。まだ日本は 完全に戦後復興していない。ベトナム特需で、経済が潤ってくるのは その後だ。場所は東京の下町。涙橋を渡ると 貧民街だ。家賃を払えない人々が 川沿いに勝手にバラックを建てて住み着いた いわば無法地帯だ。
そこで飲んだくれの元ボクサー 丹下段平(香川照之)は、しょぼいボクシングジムを持っている。何年も前のボクシングへの夢を捨てられずにいるのだ。
ある日、ケンカで矢吹丈(山下智久)の身のこなしを真近に見て、ジョーに天性のボクシングの才能があることを見抜く。ジョーは親に捨てられ孤児院から抜け出してからは、窃盗、詐欺 暴行の常習犯で 少年院と娑婆を行き来する 明日のない生活をしていた。

丹下は少年院に収容されたジョーに手紙を書く。明日のために、強くなれ。ボクシングを通して、ケンカではなく本当の男になれ、と。
ジョーは少年院の中でも問題児だった。大した意味もなく反抗する。腹を立て自分が叩きのめされるまで 圧倒的多数の警備員を相手に勝ち目のない争いを挑んでいく。そこで、プロボクサーの力石徹(伊勢谷友介)に出会う。怖いもの知らずのジョーは、自分の体より遥かに大きく しかもウェルター級チャンピオン戦が予定されている力石に、挑戦して、二人は少年院の中のリングで ボクシング試合をすることになる。ジョーは生まれて初めて ボクシングのグラブをつける。リングで、ジョーは 殴られても殴られても 立ち上がり 勝負はつかない。遂に二人は互いにノックアウトして、同時にリングに倒れる。勝負はつかなかった。

少年院を出たジョーは このときの試合で いつか力石を完全に倒すことが自分の目標だと定め、丹下ジムに直行する。明日のジョーが強くなる為の 厳しい訓練が始まった。酒びたりだった丹下の目が、再び輝きだした。
一方、力石は財団の令嬢、白木葉子(香里奈)が所有する白木ボクシングジムに属し、立派な設備やプロのトレーナーを使って 世界チャンピオン戦を戦うことになっていた。力石を世界一にすることが 白木財閥の目的だ。どんなことがあっても力石に世界一のタイトルを取らせたい。 しかし力石もまた、ジョーを完全にリングの底に沈めて 前回の勝負がつかなかった試合を完了させたかった。

いつしかジョーは 力石を倒すこと、力石は 世界チャンピオンのタイトルを取ることよりもジョーを倒すことが目標になっていった。白木財閥は様々な手を使ってボクサーとしてのジョーを潰そうとする。ジョーに勝てるわけのない相手を次つぎと出してくる。ジョーの得意技は クロスカウンターパンチ。自分を打たせて、その隙に打って相手を倒す。ついに白木財閥が力石、ジョー戦を回避することが出来なくなった。力石とジョーとでは身長も体重も違いすぎる。ウェルター級の力石は バンタム級にまで体重を落として、ジョーに対戦することになる。とうとう二人はリングに上がって、、、。
というお話。

丹下段平を演じた香川照之という役者を「剣岳 点の記」、「北の零年」、「明日の記憶」、「20世紀少年」で見た。この役者は独特の輝きを持っていて、自分の役に魂をこめて 演じていることがよくわかる。私が見た彼の演じた映画の中で、この丹下段平の役が一番良かった。片目で出っ歯 腹巻姿でいつも酒の匂いがする 難しい役をよく演じていた。
力石徹の 伊勢谷友介も、よく減量したと思う。打ち合いのシーンも迫力があった。ジョーをやった山下智久という人は 「クロサギ」という映画で見たことがある。ジョーの美しい体を 映画のためによくトレーニングして作ったと思う。
原作ファンの いまはもうおじさん、おばさん おじいさん おばあさんの面々も、この映画には、結構満足したのではないだろうか。