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2011年10月7日金曜日

ベンジャミン シュミットのヴァイオリンを聴く



2011年の第7回オーストラリア チェンバー オーケストラ(ACO)の定期コンサートを聴いた。ウィーンから ヴァイオリニスト ベンジャミン シュミットが ゲストとして来て ACOと共に演奏した。
いつもACOコンサートは 音響の良いエンジェルプレイスのホールで聴くようにしているが、ベンジャミンの人気が高いので今回はチケットが完売されていて、仕方なくオペラハウスの どでかいコンサートホールで行われるコンサートに足を運んだ。2500席が 程よく埋まっていた。席は 2階の舞台に向かって右側のボックス席。息を切らせて 上の娘と傾斜のきつい階段を登る。チェロは背中を見ることになるが、ヴァイオリニストたち全員の顔が真近に見える。

プログラム
1) ジョン セバスチャン バッハ
   二つのバイオリンのためのコンチェルト 作品1043
2) エリック コーンゴールド  セレナーデ
3) HK グルバー  バイオリンコンチェルト
休憩
4) フランツ シューベルト ロンド Aメジャー 作品438
5) ジョセフ ランナー ダイ ロマンテイカ 作品167
6) ジェオルグ ブレインシミット ミュゼット 

最初の曲、バッハは 二人の娘達と何百回弾いたか 数えきれない。第1ヴァイオリンと第二ヴァイオリンを二人の娘が 曲の途中で入れ替わったり、私がヴィオラをやったり、チェロをやったりして、よく一緒に演奏した。いつもつっかえるところでは 思わず娘と顔を見合わせたりして、ベンジャミンが ACOをリードするのを聴いた。
バッハ以外は、全員ウィーン生まれの音楽家達のウィーンの香り高い ロマンチックな曲ばかりだった。軽やかで、気品があって、洗練された美しい音楽。

シューベルトのロンドと、ラナーのワルツがとても良かった。
シューベルト自身が ヴァイオリンもヴィオラも演奏し、家族で弦楽四重奏に親しんでいたので、難曲の弦楽曲が多いが、ロンドは明るくて、聴いていて踊りだしそうな軽くて とても甘いロマンチックな曲だ。

また、ラナー(1801年ー1843年)は、ベートーベンの後、ブラームスが出てくるまでの間、ウィーンで最も必要とされていたワルツの作曲家だった。ヨハン シュトラウスの良き友人でも またライバルでもあったようで、ワルツ、ギャロップ、マーチなどを200曲あまり作曲し、自分でもオーケストラを持っていて演奏したという。
それを、ウィーン生まれのウィーン育ちのベンジャミンが演奏すると、最も華やかだったころの 19世紀のウィーンの光り輝く栄華の姿が浮かび上がってくるようだ。

内田光子がよく日本人なのに、ウィーンで育ったので 彼女がピアノを弾くとウィーンの音がする、と言われている。わたしには そのようなピアノの音の違いを聞き分けることは出来ない。しかし、弦楽器には、確かに音質の違いがあるようだ。ウィーンフイルの独特の明るさ、ベルリンフィルの吹奏楽器を生かした力強い独特の輝き。
そして今回のコンサートの音は たしかにウィーンの香り立つ 華やかなコンサートだった。明るくて 春のように心地よい。ゲストのベンジャミンは、とてものびのびと自分で演奏しながら、21人の弦楽走者達をリードしていた。実に楽しそうに演奏して、軽やかな足取りで舞台を去っていった。気持ち良い。

様々な個性をもった演奏家を 毎回ゲストに迎えて、一緒に演奏するACOの力量は確かだ。年7回ある定期公演では、ピアニスト、ヴァイオリニスト、フルーテイスト、ハーピスト、アコーデオン奏者、歌手、俳優、吟遊詩人、ダンサー、画家などなどを ゲストに呼んで共演する。今回のように、ウィーンからのゲストヴァイオリニストを迎えると、音全体が 華やかな色に染まる。
アイルランドのヴァイオリニストが来たときは、ACOの全員がケルト人になったかのように アイリッシュの旅芸人の早弾き、目にも留まらぬ弓さばきで、ケルトミュージックを演奏してくれた。
フィンランドからペッカ グストが来たときは、演奏が始まったとたん、そこに北欧の乾いた空気が流れ 氷の湖がどこまでも広がる光景がはっきり見えてきた。ロシア人がゲストだったときは チャイコフスキーの音に、広大な黒々とした樹林が迫ってきた。何でもできるACOは、力量のある立派な室内楽団だと思う。

21台の弦楽器のなかで、団長のリチャード トンゲテイが使っているのが 1743年の カロダスという名のついたグルネリ、副団長のヘレン ラズボーンが貸与されているのが 1759年のガダニーニ。
コンサートマスターのサトゥ バンスカが使っているのが 1728年のストラデイバリウス。チェロのテイモ べイユが貸与されているのが リチャード トンゲテイのヴァイオリンと同じ木から作られた 1729年のジョセッペ グルネリ。メンバーも どんどん若い人たちが古い人たちに入れ替わって 厳しい稽古に耐えてきた団員達の音は、この15年の間に 本当に良くなっている。

家に帰ってきて 来年予定されているACOの定期公演の 年間通しのチケットを予約した。同時に来年のオペラ オーストラリアのチケットも支払った。毎年この時期に 買っておかないと 良い席が確保できない。
来年の今頃、自分がどんな状態で 何をやっているか 全くわからない。チケットがあっても 病気もするだろうし、行けない日も出てくるだろう。家からコンサート会場まで 夜の運転がだんだん 心配になってきたし、会場の階段も辛くなってきた。しかし、少しでも健康に気をつけて、来年のコンサートも、変わらずに 元気に出かけていけたら良い、と思っている。