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2011年7月6日水曜日

映画 「ツリー オブ ライフ」



映画「ツリー オブ ライフ」(THE TREE OF LIFE)を観た。
今年5月の 第64回カンヌ映画祭で、最高の名誉である パルムドール賞を受賞した作品。日本公開は8月12日。
http://www.imdb.com/title/tt0478304/

監督:テレンス マリック
キャスト
父オブライエン: ブラッド ピット
母      : ジェシカ チャステイン
ジャック   : ショーン ペン

ストーリーは
今や人生の盛りを越したジャックは、建築家として成功しサンフランシスコ(ニューヨーク?)に住んでいる。仕事に疲れた彼が しきりと思い出すのは自分の子供時代の思い出ばかりだ。
厳格な父、優しい母、3人の男の兄弟の長男として父と母に愛されて、幸せな少年時代を送った。父は 敬虔なクリスチャンで オルガンを弾く。自分を子供達が呼ぶのにサーをつけて呼ばせ、躾に厳しいが、いつも愛情をもって見守ってくれていた。母は美しい女性で、どんな時でも子供の味方になってくれた。楽しい子供時代、森での冒険、クラスメイトの女の子への淡い恋心、母親のお供で買い物に行った町の様子、家が火事になり大火傷をした友達、弟への嫉妬、競争心、、、いつもいつも両親がそばに居てくれた。
そんな父が 失業し 思い出のつまった家を売ることになり、引越しをする。それから大分たって、弟が死ぬ。弟の死は何だったのか。自分の命を育んでくれた両親は自分にとってどんな存在だったのか。ジャックは考える。
というお話。

本当は、この映画にストーリーはない。物語の起承転結やドラマやストーリーは何もない。
最初の30分ほどは 生命の誕生を顕微鏡のミクロの世界で写しだしたり、海洋の水の流れ、海の中の生きる生き物達、風、ゆれる木々、古生代の恐竜まで出てきて、ナショナルジェオグラフィックのようだ。それぞれの映像に何の脈絡もなく ただ美しい映像が次々と映し出され、荘厳な音楽が流れる。ブラームス「交響曲第3番」が流れる。囁き声で マザーとか、命とか誰かが囁く。
物語を期待して見ると 完全に裏切られる。綺麗な音楽と何の脈絡のない画像ばかりをしばらく見せられて、となりに座っていたおばあさんは もうすっかり眠ってしまった。

ジャックが生まれ 若い父親(ブラッド ピット)と母親(ジェシカ チャステイン)が愛情をたっぷり注ぎ込む。ジャックがヨチヨチ歩きの時に 弟が生まれ、そして末の弟も生まれる。
3人の男の子が自然いっぱいの家の周りでふざけまわる長い長いシーンには スメタナの「モルドヴァ」が使われていて 管弦楽が高らかに鳴り響いて感動した。ソビエトの圧政下で禁止されながらもチェコスロバキア人の誇りを「交響曲 わが祖国」に託してを演奏し続けた「モルドヴァ」。無垢な少年達が飛びはね、ふざけて笑い、はじけるような歓喜のシーンに この曲の第一楽章全部を使うなんて、何と言う大胆な贅沢。

イマジネーションの羅列と言うことも出来るし、一人で連想ゲームを楽しんでいる、ということも言える。監督は完全に、自分の世界で遊んでいる。この映画は 監督自身の個人的な思いを音楽と映像で並べ立てた 抒情詩だ。

彼の作品「2001年宇宙の旅」(A SPACE ODYSSEY)を観ていないので、よくわからないが、この監督はバーバードでも オックスフォードでも哲学を学んだ学者さん ということだ。

しかし、ブラームス、スメタナが高らかに鳴っていたのは前半で、後半はバッハとレクイエム 賛美歌ばかりに変わる。
宗教的な啓示に満ちている。
天国も出てくる。へクター ベルリオズの「レクイエム」をバックに 死んだ人々が昔のままの姿で出てきて 渚を素足で歩いていく。天国に向かって。

ハシゴも出てくる。天に登るバベルの塔だ。ノアの洪水も出てきて、プールで溺れて死ぬ子供が出る。罪人に水を施すマリアのような母。それから 汚れた足を洗う女も出てくる。敬虔なクリスチャン家庭に育った少年時代を思い起こせば 聖書をさけて通ることはできない。神なくして人生の哲学はない。そういえば、題名の「ツリーオブ ライフ」は 聖書の言葉だった。知恵の樹と、命の樹のツリー オブ ライフだ。

外国で暮らしていて いつも興味深く観察するは こういった知的で芸術的で、さらに抽象的、印象派的な作品に対する観客の反応だ。日本だったら、この映画を観て 人々はおとなしく上品に「なかなか味わいのある映画でございました。」などと言うのだろう。
私が見ていた映画館では、映画が終わったとたん、失笑の渦と ため息の氾濫。「マイガーッシュ!!!イナッフ イナッフ!」(おやまあ、、もう沢山よ!)と大声のおじいさん、、、。完全にこの映画、ここでは 受けませんでした。
おいおい、みなさんクリスチャンでしょう? カンヌで最高の賞を受賞した映画なんですけど、、。ブラピが出ている映画なんですけどー。

いくら芸術でも 気取りや粉飾やおせじが効かないのが、オージー気質。わかっているつもりだったが、詩情たっぷりの美しい映画を みごとに拒否してくれたオージーたちの反応をみて、改めて オージーは正直だな と思った。
でもわたしも、ブラッド ピットが出ていなかったら この映画 最後まで観なかったかもしれない。彼がオルガンでバッハの「トッカータとフーガ」を弾くシーンがとても素敵だ。 ブラピのファンなら 3分間のこのオルガンのシーンのために、2時間20分の映画を我慢して座っているのも耐えられるでしょう。