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2011年6月27日月曜日
メトロポリタンオペラ 「ヴァルキューレ」
オペラ「ニーベルングの指環」は ワーグナーが26年間かけて完成させた一大叙事詩だ。ギリシャ神話をオペラにしたもので、バイエルン国王 ルードビッヒ2世という 半端ではないパトロンなしには 絶対完成できなかった作品。
全曲の初演は1876年8月13日から17日、バイロイトオペラハウスで発表された。普通 4部に分かれていて、14時間30分の上演時間を、4晩に分けて上演される。4部とは 「ラインの黄金」、「ヴァルキューレ」、「ジークフリート」と「神々の黄昏」だ。
今回 ニューヨークメトロポリタンオペラのHDフイルムを 映画館で観たのは 「ヴァルキューレ」3時間40分。
指揮:ジェイムス レビン (JAMES LEVINE)
解説:プラセド ドミンゴ
ヴォータン :ブライン ターフェル (BRYN TERFEL)
ブリュンヒルデ:デボラ ヴォイト (DEBORAH VOIT)
ジークムント :ヨナス カーフマン(JONAS KAUFMAN)
ジークリンデ :エバ マリア ウェストブレック(WESTBROEK)
フリッカ :ステファニー ブライス(BLYTHE)
フンデイング :ハンス ピーター コング (KONG)
http://www.metoperafamily.org/metopera/broadcast/template.aspx?id=16210&prodpage
ストーリーは
神々の一番上に立つ神、ヴォータンには人間との間にもうけた子供、双子の兄妹がいる。二人は生後 別れ別れになっていた。妹ジークリンデは 愛のない結婚でフンデイングの妻になっている。
ある嵐の夜 戦で傷を負った戦士ジークムントが 助けを求めてきたのがジークリンデの家だった。二人は一目観るなり 恋に陥り激しく愛し合うようになった。そこに夫 フンデイングが戻ってきて ジークムントと決闘することになった。ジークリンデは 父が残した霊剣を兄に渡す。
一方 ヴォータンは それを見ていて ジークムントを助けてやりたいが 正妻フリンカの猛反対にあって、息子ジークムントを処分するために娘のブリュンヒルデを送り込む。
しかし、ブリュンヒルデは 父が本当はジークムントを助けてジークリンデとの愛に生かしてやりたい気持ちを持っているのを知って、ジークムントに加勢する。しかし、ヴォータンが与えた霊剣をもっても 傷ついたジークムントは 決闘に敗れて死んでしまう。いとしい人を失ったジークリンデは、死を望むが ブリュンヒルデは ジークリンデにはジークムントの子供の命が宿っていることを教えて 折れた霊剣を持たせて森に逃がす。
娘ブリュンヒルデが 父に背いたことを知った父ヴォータンは 娘に愛を感じながらも 娘を罰するために 炎で取り囲んだ中に封印して眠らせてしまう。
というストーリー。
イタリアオペラが大好きだけれど、ドイツオペラもすごいなと思う。見終わって 感動の波が序序に競りあがってきて もう息もつけない。3時間40分の長い長い夢を見ていたようだ。
極端に重唱が少なく、どれもが独唱で、それがすべてどっぷり じっくりと聞かせてくれる。一般的なオペラでは 心を奪われるような しっかり聞かせてくれるアリアはせいぜい2-3曲だ。しかし、このオペラでは、ほぼ全曲が独唱の連続だ。
オーケストラの奏でる音楽が素晴らしい。管弦楽が特に 光っている。
とても一人の作曲家が全部を作り上げたとは思えない。本当に、天才の作曲家が何年も何年も時間をかけて 構想して構築して練り上げて、作り上げた完成品だ。本当に素晴らしい。
このような芸術の遺産に、いま触れることが出来る贅沢が 心から喜ばしい。
ジークムントとジークリンドの出会いと互いに愛し合う テナーとソプラノがとても美しい。ジークムントをやった ヨナス カーフマンという人は、若くてギリシャ彫刻のような美しい顔をしている。テナーの声も美しくのびて 力強い とても男性的なテナーだ。聞き惚れて、見惚れる。
ヴォータンのブライン ターフェルのバリトンが パワフルで美しい。今一番人気のあるバリトンではないだろうか。彼の神様の重厚で厚みのある声が胸に迫ってくるが、彼は役者としても一級だ。表情など、怒った顔は火の様に燃えていて怖い。父に背いた娘を怒りながらも 一番のお気に入りの娘だったブリュンヒルデを罰することの 心の痛みが伝わってきて泣かせる。
ブリュンヒルデを歌ったデボラ ヴォイドは ソプラノの人だが剣と盾をもって戦う勇ましいヴォータンの娘を演じてアルトっぽいアリアを沢山歌った。戦士の娘が父の前に立つと 父に思わず幼児のように駆け寄ったり けなげで いじらしい娘の姿も見せる。最後は舞台中央が 盛り上がって10メートルも高いピラミッド状になり そこから眠ったまま逆さ吊りにされて まわりを火で囲まれる。舞台が真赤に染まり その下で苦悩する神々の神ヴォータンの嘆く姿が ひとり浮き出されて終わる。
絵のように美しい。この美しい劇的な光景が忘れられない。とても感動的な終わり方だ。たくさんの舞台を観てきたが これほど 激しく脳裏に焼きつくようなエンドは稀だ。
このあと、話は続いて 身ごもったジークリンドは隠れ家でジークフリートを産む。この若き英雄が ブリュンヒルデの炎を解いて彼女の眠りを覚まして、活躍する。
長い長い 叙事詩だ。オペラをもってギリシャ神話を生き生きと甦らせて総合芸術に仕立てあげたワーグナーの才能と、それを支えたルートヴィッヒの遺産に改めて感動する。