ページ

2010年11月26日金曜日

2010 今年最後のACOコンサート


オーストラリア チェンバーオーケストラ(ACO)の定期コンサートを 今年も全部聴いた。全部で7公演。
もう10年も リチャード トンゲッティ率いるこの室内楽団をサポートして、寄付金を送り、公演を聴き続けてきた。リチャード トンゲテイは、ヴァイオリンソロイストとして 他のヴァイオリニストの追従を許さない。完全に卓越して優れている。資金不足に喘ぎ、スポンサー獲得に苦労しながらも 決して室内楽団としての質を落とさない。必ず毎年 全員で海外公演に出かけ、国外の若いミュージシャンと共演して新しい空気を取り入れてくる。団員も全員若い。
自由でフレキシブルな、組織の中で一人一人の楽団員が 生き生きと喜んで音楽を表現している。どんなに長いシンフォニーでも 大曲ばかりを並べたコンサートでも 全員立ったまま演奏する。決してアンコールに応えず、演奏で力を出し切ったら サッサと退場して帰る。そういったスタイルも大好きだ。
遂に 眼鏡をかけるようになったリチャード トンゲッテイの、いくつになっても少年のような顔と体つき。新しいロシア人のコンサートマスター サツ バンスカを迎えて一層 技術的に高度で難解な弦楽曲を 当たり前のようにサラリと弾く。そんなACOが 大好きだ。

毎年 定期コンサートの最初と最後のコンサートは 内容が濃い。去年の最後のコンサートは素晴らしかった。いつもはアンコールに応えないが このときだけは いくつもいくつもアンコールに応えて、果てしもない終わりのないコンサートになった。団員と聴衆とが 文字通り一体化したこのときの感動がまだ忘れられない。
というわけで、今年最後のコンサートに、期待して行ったが からぶりして帰ってきた。といっても、ACOが悪かったのではなく、好みに問題だ。演奏はいつも最高だが、演出が良くなかった。嗜好の問題だから、仕方がないけど。

コンサート プログラムは
べートーヴェン ヴァイオリンソナタ「クロイツエル」
ヤナチェック 弦楽四重奏 「クロイツエルのソナタ」

「クロイツエル」という題名の トルストイの短編小説がある。1899年の作品。ベートーヴェンの「クロイツエル」(1803年)を聴いて 感銘を受けたトルストイが 同名の小説を書き、有名になって、映画にもバレエにもなった。
汽車の中で、ボズドヌイシェフ侯爵が、自分の妻が 友人トルハチェフスキーと浮気をしているのを知って、激情にかられて妻を殺してしまったことを、告白するという小説だ。

小説のもとになったベートーヴェンの「クロイツエル」は、「春」とともにベートーヴェンのソナタに代表作だ。初演は1803年のウィーン。
ベートーヴェン自身がピアノを弾き、彼と親しかったジョージ ブリジットタワーがヴァイオリンを弾いた。題名のクロイツエルは、フランス人ヴァイオリニスト ロドルフ クロイツエルに、捧げられた曲だからだ。
実際はベートーヴェンは 初めから これを共演したジョージ ブリジットタワーのために作曲したが、ある女のことで諍いがあり 不仲になったので腹を立てたベートーヴェンが 勝手に曲名を 「クロイツエル」に変えた と言われている。「クロイツエル」で有名な曲が 実は「ブリジットタワー」という曲になっていたかもしれない ということだ。にも関わらず クロイツエルは このソナタを一度も演奏しなかった。女のことで、不仲同士になったベートーヴェンと ブリジットタワーとが共演して、人々の心を揺り動かして、感動させ、トルストイはこれによって 小説のインスピレーションを湧かせたのだから、皮肉だ。

「クロイツエル」も、「春」もヴァイオリンソナタだが、ピアノも同格で対等に弾いて聞かせるソロが多く、高度の技術と音楽性を要求される。
私はどちらも大好き。それぞれに 思い出が深い。嘘みたいな体験がある。

かつて、沖縄にいた時 若きヴァイオリニストが「春」を弾く為に 本土からプロのピアニストを呼んだ。当時このヴァイオリニストは 沖縄で一番の奏者で独身、ハンサム。細身の彼の輝かしいデビューコンサートだったが、呼ばれて東京から来たピアニストは、これまた細身で美人の独身者だった。二人でリハーサルを繰り返すうち、当然のことながら 誰の目から見ても 二人は 恋愛中。ヴァイオリンもピアノもソロがあり 伴奏があり、それはそれは よく調和していて、コンサート大成功の予兆に、お世話する私たちもウキウキしていた。
それが壊れた。どうしてか知らない。コンサートの当日、二人とも目は三角に吊りあがり、口はへの字。二人が憎み会っているのは一目瞭然。
その二人のベートーヴェン「春」は すごかった。ヴァイオリンは 激怒のほとばしり。ピアノは 指も折れよ とばかり鍵盤たたきつけて、わめきたてる。怒涛の春嵐、、、。もう、とても迫力のある「春」でしたね。コンサートの後のうちあげもなく、彼女は 蹴飛ばすようにハイヒールの音高々に去り その足で東京に帰りました とさ。あれはすごい「春」だった。

ヤナチェックの「クロイツエルのソナタ」は、ベートーヴェンの「クロイツエル」からではなくて、トルストイの短編小説をもとに作曲されたもの。1923年にプラハで初演された主人公ボズトヌイシェフが悩みぬいて苦しむシーンが第1章節、妻と愛人が語り合うシーンに続いて、最終楽章で 妻が夫に殺されて 終わる。

今回のコンサートでは 二人の男女の役者が舞台の全面に座り、これを演じた。妻とその愛人だ。二人の対話があって、ベートーヴェン「クロイツエル」が演奏され、二人の演技と対話があって、ヤナチェックの「クロイツエル」が演奏された。
楽章ごとに 役者によって曲が中断される。これに、私は曲を楽しめなかった。曲の解釈は人によって異なる。わたしには私の「クロイツエル」がある。それは人殺しでもなければ、愛でも憎しみ合いでもない。だから、曲を他人に解釈されて、それを押しつけられるのは嫌だ。
そんな意味で 今回のコンサートは全く楽しめなかった。今年最後のコンサートだったのに残念だ。

2010年11月23日火曜日

シドニーはジャカランダが満開




今頃のシドニーの季節を初夏「はつなつ」と呼んでいいのかな。
日差しは日ごとに 強くなっていきますが、ジャカランダの花が満開です。うす紫色の花で、花がまず咲いて、満開になり散り始めて はじめて葉が出てきます。葉が出る前の満開の様子は 遠くから見ると桜の満開に似ています。小高いシドニー北部からシドニー湾を見下ろすと、うす紫色のジャカランダの木々がこんもりと、いくつもいくつも山になっていて、桜が満開の頃の日本のように、見ていると心が満たされて、豊かになっていきます。
風が吹くと 花びらが散る様子も桜に似て、風が強く吹いた朝は 紫色のじゅうたんの上を歩くことが出来ます。南米からやってきた花だそうですが、遠いところから、ようこそ。
オーストラリアの強い太陽に似合う赤い、激しい花が多いなかで、ジャカランダは日本の桜を思い出させる 数すくない優しい色で、心がなごみます。
日曜日の朝、散歩に出て ハーバーブリッジを見て ジャカランダの木の下で ひとやすみ。

2010年11月16日火曜日

映画「ソーシャルネットワーク」 フェイスブック



ベン メズリックの「フェイスブック世界最大のSNSでビルゲイツに迫る男」という長いタイトルの ノンフィクション「THE ACCIDENTAL BILLIONAIRES」を映画化したもの。映画「ゾーデイヤック」、「ベンジャミンバトン数奇な人生」を作った フィンチャー監督による作品。
フェイスブックを創設したマーク ザッカーバーグが 19歳でソーシャルネットワークを作るところから、現在にいたるまでの道のりを映画化したもの。
弱冠26歳の現在活躍している青年が、わずか6年のあいだに 史上最年少で億万長者になった過程を描いた作品。

アメリカ映画
監督:デヴィッド フィンチャー

キャスト
マーク ザッカーバーグ   :ジェシー アイゼンバーグ
エドワルド サリヴァン   :アンドリュー ガーフィールド
ショーン パーカー     :ジャステイン テインバーレイク
キャメロン ウィンクルボス :アーニー ハーマー
クリステイ リー      :ブレンダ ソング
マリリン デプリー     :ラシダ ジョンズ
ダステイン モスコヴィツ  :ジョセフ マゼロ
マーテイン ターナー    :マックス ミンゲラ

ハーバート大学の秀才達が 続々と出てきて みな早口でしゃべりまくる。言っていることの内容もすごいが、頭の回転が速いだけでなく そろってイケメン。この映画 ハーバードの回し者ではないかと思うほど「さすが ハーバード すごい!」と思わせる。優れた秀才のいるところには 秀才達が集まる。歴史のある古い校舎、立派な図書館、校内のパブ、質素な寄宿舎、レガッタ競技、ボールダンス、学長の権威主義と俗物性、学食、上級生の下級生いじめ、などなど大学生活の様子が次々と出てきて 興味深い。歴史ある大学の校風がとてもイギリス的だ。大学とは学問の府、若い人たちが 本気で学び生活する場なのだということがよくわかる。

出演者の全員が 並みの人の3倍の速さと 3倍のボキャブラリーの数々を駆使して会話しているので 大学生の雰囲気も本物っぽい。ちなみにマークが最後に自分のPCでポチンとキーをたたいて「友達」にする弁護士の女性ラシータ ジョーンズは 実際ハーバード出身だそうだ。
映画として、よくできている。映像は美しく、監督が自由自在に役者を動かし操作している。せりふが多いので どの役者もものすごい厚さの台本と格闘したことだろう。じつにハーバードっぽい雰囲気を 監督も役者たちも脚本家もこなしている。とても完成度の高い映画だ。

ラリアの国営ABCテレビで、新作映画を二人の評論家が紹介する番組がある。マーガレットとデヴィッドという年配の評論家が 互いの意見をぶつけ合う様子がおかしくて 何十年も続いている人気番組。辛口の批評が多く、新作で公開直前なのに「こんな映画は見るに値しない」と断じる作品も出てきて おもしろい。その二人が この映画に5点満点をつけたので、びっくりした。ミヤザキ ハヤオの「ポニョ」以来のことだ。めったにない。
実際、映画を観てみて、なるほど と思った。

ストーリーは
マーク ザッカーバーグと同級生の女の子は 学生ホールで話をしている。彼女は 話をきちんと聞こうとせず、自分の知識や考えを矢継ぎ早に披露するマークの態度に怒って 絶交を言い渡す。
そこで ひとり寮に戻ったマークは 腹いせに PCで彼女を始めとする同級の女子学生全員に関する個人情報を公表する。名前や出身、あだ名やサイズまで公表されて、女子学生たちは人気投票のえじきとなった。マークのやったことは男子学生たちを 大喜びさせ ハーバード校のなかで注目をあびることになる。
マークと親友のエドワルドは 双子のウィングルボス兄弟と出会う。兄弟はマークがやったような技術を使って 友達作りのネットワークを作る というアイデアを持っていた。メイルアドレスをもっている人同士が ネット上で次々と友達となり その環を広げていくことができる。そんなつながりをマークは エドワルドやウィンクルボスと 協力して 大学で組織作りしていく。そんなネットワークが大学の新聞で話題になったところで、マークとエドワルドに ナップスターの創始者 ショーン パーカーから招待状が届く。

マークとエドワルドが会いにいってみると、ショーン パーカーは 派手に女遊びをして、お金を湯水のように使いながら、PCの可能性について 次々と話を一方的にまくしたてる。エドワルドは ショーンを ただの誇大妄想の精神分裂症患者としか思えずに嫌悪するが、マークはショーンの生活態度や俗物性に、惹かれていた。
そしてマークは大学を離れ、エドワルドにもウィンクルボス兄弟にも言わずに フェイスブックをショーンの会社に売り渡し、その経営に関わっていく。裏切られたエドワルドは深く傷つき、双子のウィンクルボス兄弟もアイデアを盗まれた、として訴訟を起こす。訴えられたマークは、、、
というお話。

脚本を書いた49歳のアーロン ソーキンは この映画は 「友情と裏切り、嫉妬と忠誠心を描いた人間ドラマだ」 と言っている。
マークひとりが自分では予想も期待もしていなかったのに フェイスブックによって一挙に億万長者になって 現代のヒーローになったことを私たちは知っていたが、実はこんなアイデアや そこに至る道でハーバードの学生達が知恵を出し合い 友情や信頼がフェイスブックを育ててきたのだ、ということがわかる。利益を独り占めしたマークは後に エドワルドやウィンクルボス兄弟に 和解金を払うが、彼にはハーバード精神や その中で培われてきた友情や信頼は失われ、2度と回復することはできなかった。映画では、一人の天才の孤独な姿が その無表情の裏に、よく表されている。現役で活躍する26歳の青年を通じてハーバード大学の校風や青年達の姿が生き生きとと描かれている。優れた人間ドラマだ。映画としてとても完成度の高い よく出来た映画だ。

ハーバードの生徒会長に立候補するウィンクルボスは マークの裏切りにあって 兄弟や他の友人達が訴訟を起こそうとしても、断固として反対して「否、ハーバードの学生はハーバードの身内を訴えたりしない。」と言い切る。選ばれた紳士の模範、ここにあり という感じで ほれぼれする。一人で双子役を演じ、立派な好青年の代表選手をそつなく演じている。実際のウィンクルボス兄弟は ボート競技で北京オリンピックに、アメリカを代表して出場した。頭が良く スポーツも出来る立派な青年紳士達だ。

ナップスターの創始者、ショーン パーカーを演じたジャステイン テインバーレイクは 6つのグラミー賞やエミー賞をとった 有名なシンガーソングライターだったと、娘から後から聞いて知った。映画では憎まれ役だが、頭が良いのがよくわかる。そんな人とは知らなかった。若い人とは話をするものだ。年寄りは知らずに通り過ぎ、知らずに老いて行く。若い人たちから学ぶことは無限にある。PCもフェイスブックもツイッターもIPADも、、、限りない。

フェイスブック加入者は5億人を軽く突破した。
毎日何気ない会話をフェイスブックで様々な人たちと交し合う。権威ある親がいて兄弟 親戚 祖父母かいるといった大家族を中心にした社会は崩壊した。子供を中心とした核家族さえ もう確かではない。家族のない社会で 何かを書き込めば 必ずどこかの誰かがPCで読んでいて 返事や答えを書きこんでくれるフェイスブックは 現代の人々を孤独を救う家族の代理のようなものだろう。
東京生まれの娘達は 沖縄、レイテ島、マニラ、シドニーと移動して生活してきた。インターナショナルスクールで育ったので 友達は世界中に広がって散らばっている。フェイスブックは そんな彼女達にとって、なくてなならないネットワークだ。

ネットワークは 最新医療の知識を僻地で受け取ることもできる。
ロシアで またジャーナリストが殺された。政府の汚職とチェチェン反政府運動に関わっていたジャーナリストだった。中国では ノーベル文学賞を受賞した作家が拘束 収監されて、その妻の自宅拘禁になっている。フェイスブックや ツイッターは こういった人権に関わる運動に 今後大きく貢献することになるだろう。
とても良い映画だ。観る価値はある。

2010年11月14日日曜日

映画 「ゲインズブール」とルーシー ゴードンの自死




映画 「ゲインズブール」を観た。1960年代にシンガーソングライターとして、俳優として一世を風靡した フランス人セルジュ ゲインズブールの一生を描いた作品。
生涯 反逆児であり続け、酒と女に溺れるデカダン生活を送り、有名女性を次々とよろめかせ、死ぬまで世の流れに抵抗し続けた男。外見的に観れば こんなワシ鼻の醜い小男が どうして世界中にゲインズブール熱を撒き散らし 人々を夢中にさせたのか わからない。時代が より激しい捨て身の反逆者を必要としていた としか 解釈できない。

セルジュ ゲインズブール:エリック エルモスニーノ
ブリジット バルドー  :ラエテイーナ カスタ
ジュリアット グレコ  :アナ モウグラリス
ジェーン パーキン   :ルーシー ゴードン

ストーリは
ゲインズブールは1940年代 ナチ占領下のパリで幼年期を過ごす。古典音楽のピアニストだった父親から、厳しくピアノを教育される。しかし、体罰が当たり前の厳しい教育や 学校生活や、差し迫るドイツ軍からの迫害など 彼は意に介さない。時代状況など全くかけ離れたところに、彼は自由な自分だけの世界を持っていた。達者な筆使いで女達の裸体画や、セックス描写を描き自分でストーリーを作って楽しんでいた。女以外に関心が向かない、早熟な少年は 夜の女達から人気があった。
やがて、大人になってキャベレーでピアニスト兼 歌手として働き始める。自由自在に作曲して それに詩をのせて自分で歌う。自由で奔放な即興曲に、次々とファンが増えていく。
地下鉄の切符切りを歌った「リラの門の切符切り」でデビュー、フランス ギャルの「夢見るシャンソン人形」で、ユーロビジョンコンテストで優勝し、いちはやく世界に名が売れて、時の人になる。妻帯者でありながら、ジュリアット グレコなど有名な女性と 次々に浮名を流す。

60年代のセックスシンボル ブリジット バルドーと恋愛関係に陥り バルドーのために沢山の曲を作る。超有名な「ジュテム モア ノンブリュ」も、そのうちの一つだが、当時バルドーは ドイツ人のビジネスマン ギュンター ザックスと結婚していたため この曲が発表されなかった。 後に ゲインズブールが40歳で、20歳のイギリス人 ジェーン パーキンと結婚したとき、二人でこの曲が デュエットで歌ってレコード化され、発表された。ベッドのなかで、あえぎながら 男女が歌っているとしか思えない曲も、いまなら皆 普通に聞いているが、当時は レコード会社も歌手も 逮捕覚悟で吹き込んだのだった。

ジェーン バーキンとの間に シャルロット ゲインズブールを始め3人の子供に恵まれるが その後ゲインズブールは 心臓発作を繰り返しても 深酒とチェーンスモーキングを 止めようとはしなかった。
レイゲに凝って、ジャマイカでフランス国歌「ラ マユセーズ」をレイゲ調に編曲して発表するが、これが愛国者の反感をかい、つるし上げられ、右翼に何度も襲撃され 自暴自堕落になっていく。「ラ マユセーズ」の著作権を自ら破産するために、買ったりもした。19歳の中国人モデルと結婚して男の子の父親になったりする。
死ぬまで酒と女を愛し、社会からも、家庭からも自由で、自堕落な男だった。残した曲が数え知れない。
というお話。

彼の作った曲の歌詞は そのまま歌えば何と言うことはないが、二重の意味を持っていて、そのほとんどが猥歌とも言える。ダブルミーニングのおかしさを それを作った本人が一番おもしろがっていた。何も知らずに 歌って有名になった 当時18歳のフランス ギャルなど、あとで自分が歌っていたことばの別の意味を知らされて、うつ状態に陥った事実もある。

この映画のなかで 一番輝いているのはバルドーだ。バルドーが初めて ゲインズブールのアパートに押しかけて、一晩過ごした時に、私のために曲を作って と言われてゲインズブールは眠らず 夜の間に3曲の曲を作った。夜明けに、その曲に合わせてバルドーが 裸ではしゃいで踊るシーンが、どこから観ても本物のバルドーのようで、とても魅惑的だ。役者のラエテイータ カスタは、38歳のファッションモデルだそうだが、バルドーを演じるに当たって 現在76歳のバルドーに会って、彼女の承諾を得たという。この女優、バルドーのそっくりさんで成功したので、これから人気が出るだろう。ヨーロッパの映画ニュースで、今一番セクシーな女優 という名誉な名前がついていた。

ゲインズブールとジェーン バーキンのカップルは 70年代の超過激な曲を逮捕覚悟で発表したり、国歌を猥歌にしたり、トレードマークのミニスカートで街を闊歩し、前衛的な存在だった。二人で出演した映画の数々は 過激なセックスシーンばかりだ。それを やせっぽちで中性的なジェーン バーキンがやると 全くいやらしくない。膝上20センチのスカートも、背の低い人がやると小学生になってしまうし、体育系体系に人がやると ただのピンポン選手になってしまう。 バーキンのミニスカート姿の小粋な美しさは他の誰にも真似ができない。

映画でゲインズブールも グレコもバルドーも本物そっくりで真実味があり、とてもよかったので、肝心のジェーン バーキン役の女優が 全く似てなくて、いま60歳代の本人のほうがいまだに魅力的なのは、とても残念。この、ルーシー ゴードンと言う人、いくつかの映画のチョィ役に出ていて、「スパイダーマン3」では、ニュースキャスター役で出ていた。ゲインズブールのジェーン役が この人にとって初めての主役級の役だったのに、ジェーンとは雰囲気も顔もスタイルも似ても似つかない。彼女が悪いのではなくて、適役ではなかった ことが残念だ。
この役者ルーシー ゴードンは、28歳、イギリス人。この映画を撮り終わった後、映画のリリースを待たずに、パリのアパートで首を吊って自殺した。
もしも、女優として大成できない と悟って逝ってしまったのだったら、とても哀しいことだ。

(写真の女性はスパイダーマンで出演のルーシー ゴードン)

2010年11月4日木曜日

映画「ファイナルデスティネーション」真田広之のオールヌード




映画「THE CITY OF YOUR FINAL DESTINATION」を観た。イギリス映画。
邦題が まだない。直訳すると「あなたの最終目的地」、とか「最後の安住の地」、とか「ファイナル デステイネーション」とかが、無難だろうか。映画撮影中に 製作者が亡くなり 財政問題を抱えて、映画編集に時間かかかり、4年たってやっと完成して公開された。

監督:ジェイムス アイボリー(JAMES IVORY)
キャスト
アンソニー ホプキンス (アダム)ANTHONY HOPKINS
オマー メトワリー (オマー)OMAR METWALLY
シャーロッテ ゲインズブール(アーデン)CHARLOTTE GAINSBOURG
ローラ リネイ (カロライン)LAURA LINNEY
真田広之 (ピート)

ピーター カメロンの同名小説を映画化したもの。この映画はジャンルでいうと、すぐれた文芸映画ということができる。そこに、嫉妬や殺人が からむが、美しい南米ウルグアイの田舎で暮らす 裕福なユダヤ人家族の叙情的なラブストーリーだ。
アルゼンチンで撮影された その景色が美しい。また、サーの称号をもつアンソニー ホプキンスが素晴らしい。映画の中でピアノを弾き 芸術を愛する役柄だが、実生活でも絵を描き、作曲をする72歳の役者。

でもこの映画の話題性は、主人公をシャーロット ゲインズブールが演じていることだ。あの1960年代に一世を風靡したフランスのシャンソン歌手セルジュ ゲインズブールと 女優ジェーンパーキンの間に出来た娘。ゲインズブルグは、ブリジット バルドーをはじめとする世界中の女達を よろめかせた。「ゲインズブール」という題名の映画が 彼のそっくりさんが演じて製作されて、じきに公開される。彼の短い一生を映画化したものだそうだが、彼の悪い男ぶりを、近々映画で観られるのが楽しみだ。その娘のシャーロットは 可憐で可愛らしい。

もう一つの話題性は、アンソニー ホプキンスの愛人役に 日本の真田広之が演じていることだ。彼の全裸シーンが出てくる。彼の体が美しい。
それと、彼の映画がとても キングイングリッシュで、良い。長いこと日本に住んでいないので この映画を観るまで 全然知らなかったけれど この人は1999年から ロイヤルシェイクスピア劇団で 日本人としてたったひとり、本場のイギリス人に混じってシェイクスピアを演じて 大英名誉勲章(HONORARY MBE)を受賞している。例えて言うと 歌舞伎座にイギリス人が入ってきて日本語で歌舞伎を演じるようなものだから、それは大変なことだったろう。
いまは、ロスアンデルスに住んで 人気のTVドラマ「ロスト」に出演している。なかなか、立派な若手の国際俳優なのだ。
彼の作品では トム クルーズの「ラストサムライ」、ジャッキー チェンの「ラッシュアワー3」日本映画「亡国のイージス」などで見ていた。スタントマンを使わないジャッキー チェンの映画で 同じくスタントマンを使わない真田広之が エッフェル塔の上で武術を駆使してやりあう場面を ハラハラして見た記憶がある。また「ラストサムライ」で、トム クルーズに日本刀の使い方や身のこなし方を教授したのは彼だったそうだ。
とても良い英国英語を話す。耳が良いのだろう。彼は 5歳のときから役者をやってきたが、この映画で初めてゲイの役を演じることになった。役作りに とても苦しんだ とインタビューで言っている。

この映画で 忘れられないシーンがある。ものすごく広い どこまでも広がる草原を 真田広之が ひとり馬に乗って走ってくる。まわりには 何もない。やがて向こうの一本道からポンコツのスクールバスやってきて 一人の女の子を下ろしていく。その女の子を真田広之が馬の上の鞍に跨ったまま かがみこんで女の子をヒョイと抱き上げて鞍にすわらせて 馬を走らせて屋敷に送っていくシーンだ。こんな芸当が本場のカウボーイにとっても どんなに難しいか、乗馬体験のある人は想像がつくだろう。それを彼がやると、とても自然で 美しい絵になっている。印象に残るシーンだ。

ストーリーは
現代ラテンアメリカ文学を代表する作家JULES GUNDが亡くなった。アメリカの大学で文学を教えるオマー(オマー メトワリー)は、彼の伝記を書きたいと考えて遺族に承諾を請う手紙を出す。しかし、返ってきたのは それを拒否する作家の兄と未亡人と愛人のサインつきの手紙だった。遺族をなんとか説得して伝記に一刻も早く取り掛かりたいオマーは 鞄ひとつでウルグアイの作家が住んでいた田舎にやってくる。
そこは、戦前にドイツから逃れてきた裕福なユダヤ人家族が 買い取って農園を開いた広大な領地だった。遺族たちの許可なしに屋敷にやってきてしまったオマーは 簡単に帰ることもできない。遺族はオマーが屋敷に滞在することを許可する。

気位が高く 取り付く島もない未亡人カロライン(ローラ レニー)。
亡くなった作家との間に小学生の娘を持つ 愛人アーデン(シャーロット ゲインズブール)。作家の兄アダム(アンソニー ホプキンス)と彼の愛人ピート(真田広之)。
人里はなれた田舎の大きな屋敷で 作家を中心に奇妙な人間関係を続けてきた人々にとって、オマーはかっこうの退屈しのぎでもあったのだ。若いが紳士的で教養もあるオマーを 未亡人以外の家族達は すぐにうち溶けて仲良くなった。
アダムは25年前に ピートを養子として迎えた。ピートは アダムの世話をしながら 農園の管理やアーデンの娘の学校の送り迎えなどをしている。アダムは自分が死んだら、農園も何もかもピートに与えるつもりでいる。オマーは 年齢が近いこともあって、ピートと親しくなっていく。作家の愛人アーデンとも親しくなり 静かで和やかな田舎の生活の中で やがて二人は魅かれあっていく。

アダムは作家の未亡人カロラインが じつは作家の弟を殺したのではないか 作家が書き残していたはずの小説を隠しているのではないか、疑っていた。これを機会に、母親が自分のために残していてくれた宝石を売ったお金を カロラインに与えて屋敷から出すことにした。カロラインは出て行く。
もう伝記を書くことを拒否する理由もない。アーデンもアダムも、オマーに作家の伝記出版を許可することにした。オマーは 伝記を執筆するために、アメリカに帰っていった。
平穏な日々が もどって来る。
アダムとピートの優しい時間。アーデンと娘とのやすらぎの時間。
そして時間が経ち アダムとアーデンのところにオマーが帰ってきて、、、。
とうお話。

アーデンのシャーロット ゲインズブールが 初々しくて愛らしい。アンソニー ホプキンスが素晴らしいが、真田広之がとっても良い。硬派の男がゲイの役をやると輝いて美しい。ウルグアイの自然が美しい。長編の抒情詩を読んでいるようだ。

2010年11月1日月曜日

映画 「レッド」 超過激な新老人達




映画「レッド」、原題「RED」を観た。
これぞハリウッドというくらいハリウッドらしい映画。REDという 同名のコミックブックを映画化したもの。
題名からして笑える。
REDとは、リタイヤード エクストリーム デンジャラス:超危険退職者の略字。

その超危険な退職老人とは
1) ブルース ウィルス (フランク) 55歳(役者の実際年齢)
2) モーガン フリーマン(ジョー)  73歳
3) ジョン マルコビッチ(マービン) 57歳
4) へレン ミレン (ヴィクトリア) 65歳
4人の平均年齢63歳

カーチェイス、機関銃、ショットガン、バズーカ砲、もちろんパトカーを始め 車なんか100台くらい燃えて、ただの鉄くずになるし、静かな郊外の家なんか、粉々のコンクリートの粉塵になる。
過去、アメリカ政府がCIAを使って 南米やアフリカに介入してたくさんの不正工作をした。今の政府にとって、退職した知りすぎたCIAエージェントが 生きていてくれては困ることもある。何年も前に 退職して田舎で静かな余生を送っているはずの おじいさんおばあさん元CIAの命が危ない。

ストーリーは
フランク(ブルース ウィルス)は 退職して年金暮らしになった。郊外に大きな家を買って 気ままな生活をしている。いまは年金配送係りの女性:サラと電話で たわいのない会話をすることが、楽しみになっている。会ったことはないが、彼女がハーレークイーンに はまっていれば、同じ本を買ってきて読んでみる。そんな単純で気の良いサラに フランクは魅かれていて、いつか会って見たいと思っている。サラも フランクに誘われて悪い気はしない。

そんな 平和に つつましく暮らすフランクが 突然何の前触れもなく プロのCIA集団に襲われる。家ごと木っ端微塵に襲撃されて破壊された。いつかこんなこともあるかもしれないと 日頃 準備をしていた通りに 完全武装して彼は脱出する。しかし、哀しいかな、長年CIAで生活してきたフランクには 友達がいない。まだ会ったことのないけれど、心のささえといえば、サラだけだ。そんなわけで、サラのアパートに転がりこむが、そこも安全ではない。サラの合意を得る間もなく フランクはサラを誘拐するような形で 逃亡劇が始まる。サラにしてみれば「恋」どころではない。電話で話しをするだけだった男がいきなり自分のアパートに居た と思ったら 何者かに襲われて自分の生活も何もかも捨てて 命からがら男と一緒に逃亡することになった。

フランクは昔の仲間を訪ねる。
老人ホームにいるジョー(モーガン フリーマン)、ジャングルの中 奥深く秘密の砦に暮らすマービン(ジョン マルコビッチ)、そして、ヴィクトリア(ヘレン ミレン)4人のREDがそろった。退職した元CIAエージェントたちだ。サラを含めて5人の元CIAと、現CIAとの戦争が始まる。
一体 どうして退職者が襲われたのか。
CIAの秘密文書管理室から得た情報によると、以前 フランクたちが関わったCIAのグアテマラでの不正工作をした男が 副大統領になった。彼が大統領の座を得るためには スキャンダルを事前に封じておかなければならない。事実を知っている もとCIAが生きているとめんどうなことになる。したがって処分するしかない。ということだった。
4人のREDたちは、副大統領を誘拐する。元CIAと現CIAとの戦争が始まった。
というおはなし。

ブルース ウィルスは 絶対死なないヒーローだ。ハリウッドの華だ。
「ダイ ハード」シリーズでも ボロボロになっても絶対死なないで、恋人や家族を守る。アメリカ人が一番望む男の理想の姿をいつも演じている。55歳になっても顔にも、体にも全く贅肉がついていない。良い顔をしている。画面では、追手を逃れる為に、次々と変装するが、警官姿がよく似合う。制服の似合う男に女は弱い。むかし 映画「コンコード」でアラン ドロンがパイロットの制服できめて出てきた時 失神しそうになった記憶がある。

ブルース ウィルスも、ジョン マルコビッチも二人とも背が高く 贅肉がなくて美しい体をしている。二人でバズーカ砲や機関銃をかついで走り回って、敵と格闘し ぶん殴りふっ飛ばしていても とても自然すぎて、年寄りが無理しているとは感じさせない。55歳と57歳なんて、いまは、若者か。だからRED(超危険な年寄りども)と呼ばれていても、あまり実感がわかない。そこを73歳のモーガン フリーマンとヘレン ミレンは加わって、やっと、まあREDと呼ばれてもいいかも という感じになる。

ヘレン ミレンは、エリザベス女王を演じてオスカー女優になり、「トルストイ謎の死」でトルストイの妻を演じて アカデミー女優主演女優賞をとった。素晴らしい女優。73歳の彼女が機関銃を持つ。白いロングドレスにクイーンイングリッシュで 「あいつのどてっ腹に5発 玉をぶっぱなしたんだよ。」などと言う。それがとても とても優雅で可愛い。

4人のベテラン役者たちの添え物 ブルース ウィルスが愛してしまったサラ役のマリー ルイーズ パーカーが、テイーンとか20歳代のピチピチギャルとかでなく、とりわけ美人でもなく頭が良いわけでもない 普通の女の役をやっていて とても良い。必死で戦って自分を守ろうとするREDたちに 次第に魅かれていく女の姿がとても自然だった。猿くつわをはめられて しゃべれない場面が やたらと多かったが、彼女 目だけでとても雄弁で、多くを語る。人質で殺されそうになって、怖がって泣きそうになるけど フランクを大きな目でみつめるときの雄弁な表現力は秀逸。

CIAの秘密資料図書館で 資料を管理していた俳優は ハリウッド映画で長年端役をやってきた役者さんで、93歳だそうだ。そんな貴重な人を使っているところもシャレている。

おもしろい映画だ。
これを観て まだまだ私もいけるかも、、、と思い込んで あきらめていたケンカを やりなおす人がでてくるかも。
本当にベテラン役者を 4人も使った 贅沢な映画だ。
平均年齢63歳の4人の役者たちの 今後の活躍を見守っていきたい。