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2010年6月12日土曜日

映画 「ロビン フッド」




イギリス映画 新作「ロビン フッド」を観た。第63回カンヌ映画祭のオープニングに、上映された作品。
ロビン フッドは 中世イングランドの伝説上の義賊だ。 
いつの時代にも 義賊は人々から愛される。権力に楯突いて 権力者の独占する富を 民衆にばら撒いたりする。人々は抑圧者を憎むけれど、反逆する勇気や力を持たない。だからごく普通の人にとって反逆者は、時として、自分の代弁者であり、英雄でもある。鼠小僧、石川五右衛門、紅はこべ、ネッド ケリーなども人気者だ。

今まで ロビン フッドは、何度も何度も 映画化されてきた。1976年には、「ロビンとマリアン」という題で、ロビンをショーン コネリー、マリアンをオードリー ヘップバーンが演じている。デイズニーアニメの「ロビン フッド」は、キツネだ。1991年にはケビン コスナーがロビンをやった。
新作では、ロビンは オージーのラッセル クロウ、マリアンを これまたオージーのケイト ブランシェットが演じている。監督は「グラデイエーター」、「ブラック ホークダウン」、「エイリアン」を作ったイギリス人 リドリー スコット監督だ。

オーストラリアはその昔 イギリスで有罪を宣告された受刑者が送り込まれて できた国。もとはイギリス人とは言っても イギリス英語はしゃべらない。そんなオージー俳優ケイト ブランシェットに「エリザベス」その1も その2も演じさせて、アカデミー賞までオーストラリアに持っていかれてしまった。イギリスには英国女王を演じられる役者が居ないのかしら。まあ、それほどオージー俳優の質が高いということか。15年オーストラリアに住んでいるから という理由からかどうかわからないけれど ケイト ブランシェットは一番好きな女優だ。フィルムよりも、舞台を大切にしている本当の役者。育ち盛りの3人の男の子のお母さんとは思えない。本当に美しい女優だ。

ラッセル クロウも良い。同じオージーのニコル キッドマンがメデイアを嫌って  ものすごく高い塀と監視カメラで守られた家に住み、外出ごとにパパラッチを巻くために 同時に3台の車が家を出るようにして、パパラッチがそれを追ったとたんに ゴミ自動車に隠れて外出する というようなことをやっているのとは、違って、ラッセル クロウは何も隠さない。表も裏もない人。フットボールチームを持っていて その運営に財産をつぎ込んでいる 私生活でもマッチョな人なのだ。彼はこの同じ監督の「グラデイエーター」でアカデミー主演男優賞を獲った。体が大きいし、アクション映画が良く似合う。この人が 馬に乗って全力疾走させながら、両手で剣を持って敵に向かっていく姿は、まったくもって 黒澤監督の三船敏郎の姿に重なる。

ストーリーは
12世紀後半のヨーロッパ。
十字軍遠征中のロビンは 勇敢な戦士だ。腕も立つが、口もたつ。獅子王リチャードに、率直に「敵国を侵略するのは 仕方が無いが、無意味な殺戮はすべきでなない」と進言して、王の怒りに触れ 仲間とともに刑罰を科せられる。しかし、戦闘で獅子王リチャードは あっけなく殺される。王の死をロンドンにいる王子ジョンのもとに、知らせるための使いが、フランス軍の密使に襲われて全滅した。そこをロビンとその仲間が通りかかり、獅子王のヘルメットと白馬を奪い返す。虫の息になっていた使いの男は、ロクスレイといい 自分の父親から授けられた家宝の刀を父親に返してもらいたい とロビンに言い残して息絶えた。 ロクスレイの父親を思う姿に心をうたれ、ロビンと仲間は 彼の故郷のノチンガムに向かう。

ノッチンガムでは、年老いた盲目の父親が 息子の妻とともに、ロクスレイの帰りを待っていた。ロビンの報告は 息子を失ったノッチンガム領主の父親にとっても 夫を失った妻マリアンにとっても残酷な知らせだった。10年余りの間、男はみな十字軍に駆り出され、働き手の不在に農民達は 疲れきっていた。女達は農作業にやつれ果てていた。
ロクスレイ家で休養をしていたロビンに、やがて、父親は このまま居て 息子として家を継いで欲しいと、懇願する。帰る家がある訳ではないロビンは 乞われるまま ロクスレイ家に留まる。そしてマリアンを妻として 領主の跡取りとして農地の世話をまかされることになった。

しかし、ジョンが国王になると税のとりたてが厳しくなるばかりで 領主達は不満をつのらせていた。ジョン王はフランス人の王女を愛人にしており、裏ではフランス密使が暗躍、イギリス国の内部から すでに独立が蝕まれていた。フランス側の密使は 税の取立てに不満を持っている領主たちの反逆を助長して、イギリス内部から反乱と崩壊を画策していた。そして、遂にフランス軍は大挙して、ドーバー海峡を越え、イギリスに侵攻してきた。
ジョン王も、税の取り立てに抵抗していた領主達も力をあわせて、フランス軍に立ち向かう。激しい戦闘ののち、ロビンの指導力のもとで、戦果をあげ、イギリス軍の勢いに負けたフランス軍は退却を余儀なくされる。

ようやく他国の侵攻の危険が去った。しかし、時を移さずジョン王は、反抗的な領主達すべてを処刑するという暴挙に出た。ロビンはマリアンを伴い、仲間達を集めて、シャーウッドの森に入って身をかくした。
というお話。

ロビン フッドと聞いて、シャーウッドの森を拠点に 悪い金持ちから富を奪って 人々に分けて与える大泥棒を想像しているとちょっと違う。そうなる前のお話だ。どうしてロビンが シャーウッドの森に身を隠さなければならなくなったのかという事情を映画化したもの。
130頭の馬、500人の戦闘術に長けた戦死をエキストラに使ったそうだ。フランス軍の侵攻をくい止める戦闘シーンは 迫力満点。

この映画ではロマンチックなシーンがない。ロビンとマリアンとの結びつきが 普通の男と女の結びつきを越えている。
一度として関係を持たなかったロビンが死地に向かうときに、マリアンに向かって、これが人生の最初で最後という心を込めて アイラブユーと言い、それを受け止めながら マリアンがそっぽを向く。そのときの二人の間に流れる空気の密度の濃さに、思わず涙がこみ上げる。このとき二人は 他のどんな夫婦よりも 心で強く結ばれていたのだ。とても心に滲みるシーン。

やたら体が大きくて、無口で強い。無表情だが心は優しい。そんな、オージーの 代表選手みたいなラッセル クロウが、あまり好きじゃない人も、この映画を観て、「あ、、、頼りになりそう、こんなおとうさん欲しい」と思うかもしれない。無精ひげに白いものが混じるようになって ラッセル クロウ ますます良い味のある役者になってきた。