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2007年11月7日水曜日

パンク映画と映画「オイスターファーム」


映画「パンクス ノッツ デッド」は、スーザン ダイナー監督と、テイム アームストロング監督によるアメリカ映画。30年間にわたるパンク音楽を 写真、フィルム、新聞、テレビ番組など すべてのメデイァを動員して、おさらいした、優れたドキュメンタリー作品。 観ようと思って 楽しみにしていたら、たった1週間で、映画館から姿を消した。

同じ時期に、イギリス人監督ジュリアン テンプルが、製作した、パンクバンド、クラッシュなどの、ジョー スツルマーの、半生を描いたドキュメンタリー映画、「STRUMMER :THE FUTURE IS UNWRITTEN 」が、劇場に出たかと思ったら「パンクス、ノット デッド」と同時に姿を消した。まさに、人口の少ない国、1週間 劇場で公開して、客が入らなければ すぐひっこめてしまう。この2本の映画、抱き合わせで、水曜日の夜 たった一回公開されたが、こうしたマイナーな映画を上映する映画館は、私が夜 一人で行くには、ちょっと怖くて行けないような場所にある。重ね重ね、行けなくって、残念だった。 ビデオは出るかどうか わからないが、それに、期待をつなげていくしかない。

というわけで、良い映画を上映していない今、ビデオ屋で、ふらふらするしかないが 2-3年前 見逃していた、オーストラリア映画「オイスターファーム」を見つけた。喜んで借りて観た。ラリアに来てから、ひんぱんに食べるようになった生カキが、タスマニアから来るだけでなく、シドニーから車で パシフィックハイウェーを たった2時間のホーカス湾でも養殖していると聞いていたが、どんなふうに、作っているのか興味があった。ストーリーにも興味あったし、女優のケリーアームストロングは 好きな女優。

配役は、アレックスに、ALEX O’LACHLAN,養殖場主人にDAVID FIELD,妻にKERRY ARMSTRONG、おじいさんに、JIM NORTON.

ストーリーは 23歳のアレックスは 妹を連れて シドニーから車で2時間ほど離れたホーカス湾のカキ養殖場に、住み込みの職を求めて来た。養殖場を家族経営している主人は、、夫婦と子供、おじいさんの4人家族。アレックスと妹は、主人の提供する海洋上の小屋に居をかまえる。 アレックスと妹は 救護施設育ち。施設というだけで、東欧など外国からきた難民施設から来たのか、また、孤児や家庭内暴力から逃れてきた子供達の施設からきたのかは不明。妹は最近、交通事故にあって手足が不自由になったので、ちかくのリハビリ施設に通わせるために、兄はお金が必要。

アレックスは働き出してすぐ、カキをシドニー魚市場に搬送したときに警備員を襲い 売上金を強奪する。そしてその現金の封筒をその場で、養殖場の自分あての小包みにして、郵便ポストに入れる。 その後、アレックスは毎日毎日、泥にまみれてカキ養殖のために 力仕事に明け暮れる。が、いつまでたっても、自分が自分あてに送ったはずの 現金封筒が届かない。空腹で、昆布なんかしゃぶっている妹を見ても、腹がたつだけ。そうしているうちに彼は 郵便局に勤める女性に恋をする。

カキ養殖場の夫婦は カキの変動する値段と温度調節のむずかしい技術の割りに、収入が一定しないことで 家族間の関係がぎくしゃくしている。年間を通じて、ふらっと 働きに来る短期労働者も多く、妻の心は揺れ動き、夫婦間の信頼関係はなく、別居同然だ。小学生の息子のために、離婚までには至っていない。やもめのおじいさんは、養殖事業から引退して、欲もなく気楽に、家族や、移ってきた兄妹を 見守っている。

壊れそうな息子夫婦を見つめながらも、おじいさんは 秘密の自分の作業場で お嫁さんのためにせっせと、風呂桶を作っている。真水のない この海の上の養殖場で、お風呂は何よりも贅沢。一面に海の色の美しい切り紙細工で張りあわせ、貝殻をはめこんだ風呂桶は、まるで海の中にいるような錯覚を覚えるような 美しいお風呂だ。完成まじかのこのお風呂をみつけたアレックスは この美しい海の緑色は 100ドル札を切り刻んだもので出来ているを 知って怒り狂う。強奪して自分あてに郵送した妹の治療費だったのだ。怒りと羞恥心とで 気も狂わんばかりのアレックスに、おじいさんは、ひょうひょうと、「犯罪者にならずに済んで良かったじゃないか。」という。 アレックスは怒りおさまらず 妹をつれて、家を出ていく。しかし、シドニー行きの電車から、ホーカス湾の美しい 素朴なたたずまいを見ているうちに 考えなおして戻ってくる、というお話。

おじいさん役のJIM NORTON が素晴らしい。引退して、飲んで、グダグダ一日 海を見て過ごす ただのおいぼれのような風をしていて、息子夫婦の不和をきちんと見ていて いっさい口出しせずに 夫婦和解の契機を作ってやる。新しい雇用者の青年が強盗をしたことを見抜いていて、それが発覚しても警察の追求を切り抜け、青年を見守っている。年寄りの知恵と寛容とが生きている。押し付けがましくなく ユーモアと滋養に満ちた老人に、心から、ジーンときた。

ホーカス湾の美しさ。うっそうと茂った森に囲まれた湾と、海からみた朝焼け、夕焼け。ボートで行き来する人々の素朴な生活。過酷な漁業労働。黙々と働く人々。自然描写、カメラワークが素晴らしい。  この映画 観た人は今夜、生カキが食べたくなること請け合い。