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2007年8月7日火曜日

映画 「AS IT IS IN HEAVEN」


スウェーデン映画、「AS IT IS IN HEAVEN」(邦題未定、天国にいるような、か?)監督、カイ ポーラック(KAY POLLAK)を観た。この映画は シドニーで一番古くて 72年の歴史を誇る映画館、クレモンオピアムで、連続37週間 上映している。現在もまだ上映記録更新中で、毎日フィルムを回し続けて 話題になっている。 連続上映第36週目に行ってみた。驚くことに館内は満員の盛況。一人として美男、美女が映画に出演している訳ではない。有名な監督でもない。地味な映画だが、評判にたがわず、良い映画だった。

オーストリアで高く評価されている、有名な指揮者ダニエルは、ある日、舞台で指揮を終えた瞬間に、心臓発作で倒れる。死の淵から生還した彼は休養を命じられ、激しい音楽家の競争社会を捨てて、子供のころ 暮らしたことのあるスウエーデンの田舎に帰ってくる。古い小学校を買い取り、自然の美しさに見とれ、ただなすがままに残りの人生を送るつもりできたのに、教会の合唱隊の指導を頼まれる。全く 乗り気でなかったのに、地元のおじいさんや おばさんたちが 発声方法や音楽の基礎を学ぶうちに みるみると変わっていく姿を目の当たりにする。遂に彼は指導にのめりこみ、合唱隊をオーストリアの合唱コンテストに出場する程の実力を養う。ダニエルはコンテストの当日、奇跡のような美しいハーモニーを聴きながら、、、、というストーリー。

これは、音楽が人の生き方を変えることが出来るという、現実をきわめて明確に描いた映画。 ダニエルの 理にかなった合唱指導が実に良い。全身を使って どなる、自己最大音を発散させる、床に寝て腹筋をゆるめて、大笑いする、腹の底から笑う、足を踏み鳴らしながら体を動かす、声の限り自分の音を出させる、咽喉で歌うのでなく全身をサウンドボックスにして、音の振動を感じる、このようにして 体を音を振幅させる楽器として音が出せるようになると、団員のひとりひとりが音の限界からも、個の限界からも開放されて、表現する喜びに満ち溢れ、自然と歌い踊りだす。

家庭内暴力をふるう夫をもった妻は、合唱団で歌うことによって自分をとりもどし、家を出る決意をする。知恵遅れの 青年はやっと、合唱団に自分の居場所を見つける。2年間 妻子ある男にだまされていた女は、男を見限る。長年 女教師に片思いしてきた おじいさんは、遂にみんなの前で、彼女に愛を告白する勇気を持つ。 牧師の妻は生まれて初めて 感情を表現する喜びを知って、改めて、夫に愛を告白して歓喜の夜を過ごす。そんな妻に、牧師の夫は「このような行いは間違った行いだ。」と、妻をたしなめようとする。女として成長して変わった妻を受け入れられない夫、喜びを分かち合うことができない夫にとまどう妻、、、自分の生を生きる自信をつけた妻達に対して、嫉妬に狂い 暴力で女を押さえつけようとする男達の、醜いこと。

スウェーデンの片田舎の自然が素朴で美しい。合唱団が出かけていく、オーストリア、インスブルグの町並みの美しさ。雪を頂いたアルプスの山々に囲まれた街に 赤い路面電車がはしる。一度、住んでみたい街。 この映画、音楽の持つ力を存分に描いた後、単に感動もののハッピーエンドにさせないところが良い。