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2022年6月19日日曜日

コヴィッド禍2年半

浅川マキの「にぎわい」を歌ってみた。
シドニーは、今真冬でインフルエンザが流行していて、コヴィッドによる死者数を上回りそうだ。過去2年間のオーストラリアのコヴィッドによる死者数は7452人。これは100万人死者数を超えた米国、90万人のインド、50万人と言っているブラジルなどと比べると僅かだ。米国やインドがコヴィッドによる犠牲者数を概算に近い数字で発表しているのに比べると正確な数字だ。

この2年半オーストラリア政府は国民にも、一時滞在者にも、小学生や浮浪者にも、無料でPCRテスト、ラビットテストを実施し、ワクチンをほぼ強制し、自宅死亡者も検査してきた。政府は、PCRテスト、ラピッド抗体テスト、1人3-4回繰り返し打ったワクチン、コヴィッド休業手当、コヴィッド失業手当、事業者手当、小中高校の各教室に換気装置設置、自宅学習用PC貸出、ロックダウンに伴う警備、コヴィッドクリニック新設などなど、数えきれない対策に空前の出費をしている。莫大な借金をこれから私たちは働いて返していかなければならないだろう。

50人の年寄りを預かる施設で働いている。コヴィッドが老人を殺すということで、この2年半感染対策に追われた。面会人の制限、ワクチン、熱発者の隔離などでコヴィッドによる感染死を、完全にくい止めた。しかし職場は過重な人手不足とストレスで職員を失った。辞めて職場を去っていった人は1ダース以上にいる。
私は一番仲の良かった仲間を失った。ドイツ人のナース。今職場に行けば彼女が座った椅子に座り、彼女が使っていたマグにコーヒーを煎れる。彼女のことを思わない日はない。彼女が仕事に出てこないかったので、娘さんに訪ねて行ってもらったらベッドで眠るように亡くなっていた。ハートアタック。コヴィッドがなかったら決して起きなかった。
彼女の死後、また別のフィリピン人のナースがストロークを起こした。ナースの彼は50代で、パブで会おうぜー、と誘うと決して断らないで、やってくる気の良い奴だった。
その後、もう一人まだ40代のタイ人のキッチンスタッフがストロークを起こし完全回復に至っていない。ハートアタックもストロークも血管の中に異物が詰まって心臓や脳の動きを止める。コヴィッドによるストレスが原因だ。たった50人の患者数、70人のスタッフの小さな施設で、短い2年の間に3人もの仲間を失うなど誰が想像しただろう。失ったものが大きすぎていまだ総括できない。コヴィッド禍がいかに医療現場にすさまじい跡をのこしたことか。

大学では当時脚光を浴びていた文芸学部でマスコミを学び、業界新聞社に勤めた。夫の赴任でフイリピンに居た時はインターナショナルスクールでバイオリン教師を5年間やった。シドニーに来てからは医療通訳と公立病院のナースをやって、今の職場に移って16年勤めている。様々な職業を経て来て、医療従事者はやはり責任が重くてストレスも多いとつくずく思う。やりがいがあるがタフな仕事で犠牲も大きい。しかし、その時その時に自分の興味に即した職種に就くことができたことは幸運だったと思う。

人は若いころどんなに贅沢で派手な暮らしをしていても、年を取り歩けなくなり、ひとりきりバッグひとつで老人ホームに入り、シングルベッドで死んでいくものだ。それを16年みてきた。それでも最後に良い人生だった、幸せだったと言って去っていきたい、と思っている。
I am singing ' Past prosperity' written by Maki Asakawa.