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2018年7月1日日曜日

野良猫世話係

今年で8歳になる野良猫たちを生まれた時から世話してきた。
自分が飼っている黒猫クロエに手がかかるのに、野良猫の世話までしてきて笑われるが、放っておけない。相手はほんの少しの油断で捕まったり、保健所に送られたりして命を落とす野良猫なのだ。

事の始まりは、前に住んでいた高層アパアートの建物の下に小さなスペースがあって、そこで真っ黒な 野良猫が子供を産んだのが発端だった。父親は茶トラの野良で、傷だらけのでかい体、人を見下すような不敵な面構えだったが、じきに姿を消した。子供達は、母親似の黒猫2匹、茶トラが1匹だった。母親猫は空を飛んでいたハトを捕えて殺したり、ゴミ箱をあさって子供たちを育てていたらしい。そこに、不思議なことに1匹の黑と白の丸々した子猫が加わった。他の3匹の子猫と同じサイズだったが、母猫に体型も色も似ていないので、きっと誰かが飼おうとして育てられない事情ができた人が、野良猫家族のいるところに捨てて行ったのだと思う。心の広いビッグハートのママ猫は、自分の子供達と一緒に、この子を育てた。5匹の猫の登場に、アパート管理組合の面々は大騒ぎ、すぐに猫退治、害畜駆除を開始した。まず黒い子猫が居なくなった。次に母猫がワナにはまって連れて行かれた。

一方動物愛護協会員と私は話し合い、残った3匹の子猫たちを罠で捉えて、獣医に連れて行きワクチンを打ち、避妊手術を受けさせて養子にする計画を立てた。まず、私が黒と白の迷い子だった子を獣医に連れて行ったあと、家に連れて来て養女にした。名前はBABA。 うちにはクロエが居るので互いに慣れるまで別々の部屋に引き留めた。BABAは生後5か月くらいだったと思う。あたたかい部屋、美味しい食事、優しい保護者に引き取られても、BABAは野良猫だった。1日、2日と経つが、食べ物も飲み物も受け付けない。排便もしない。どんなに猫なで声で呼んでも手の届かないベッドの下で身を固くしている。どんなに可愛がろうとしても拒否する。3日目に空気を入れ替えようとベランダに通じるドアを開けとたん、ベランダから3階分の高さを空に向かって飛んで、地面に落ちた。地面にたたきつけられて死んでしまったかと思ったら、2,3日してBABAが生まれた軒下のスペースに他の2匹の子猫たちと一緒に出入りする姿を見て心底安心した。

野良猫は飼えない。人の手でなでられることも、膝に乗ってくることも拒否する。孤高な存在だ。BABAは黒猫と茶トラと一緒に3匹、誇り高い野良として、飼い猫になることを拒否し、母猫を亡くした孤児として一生自由でいることを選択したのだ。BABAが身をもって教えてくれたことの意味は大きい。

毎日牛肉をミンチにして3匹に食べさせた。アパート管理組合から、野良猫に餌をやらないようにという脅かしとも見える手紙を受け取ってからは、ビビりながらも隠れて3匹に食べさせた。そのうちに茶トラが居なくなった。一番人懐こい猫だったから、誰かに捕えられたのか、車の事故か。こうして残ったBABAと黒猫サンダーの2匹が6歳になるまで、毎日食べ物を食べさせて育てた。
その後、2年前に引っ越した。長年暮らしたアパートも、娘たちが大学を卒業して自立して出て行き、2つあるバスルームや予備の部屋もあるアパートは費用がかさむ。年金暮らしになったら高い借家を維持することはできない。仕方なく小さなユニットを買って、引っ越した。それでも野良猫世話係りを止められない。

軒下の野良猫たちに会いに行くのに往復1時間。缶詰めを持っていくと、私の車のエンジン音を正確に聞き分けて、BABAとサンダーは隠れていたところから出てくる。猫は我がままで自分勝手だ、という人の気が知れない。猫は犬と表現方法が違うだけで、真の人の友達なのだ。
きょうもボロ車の音で昔住んでいたアパートに着いてみると、BABAはあくびをしながら、身体をのばしながら、サンダーはあっちの方をそしらぬ顔で見ながら、めんどくさそうに出て来て、わざとお尻を向けている。大歓迎というわけだ。
何てかわゆい奴らなんだ!