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2013年11月14日木曜日

映画 「ザ ロケット」

                                   
http://www.abc.net.au/atthemovies/txt/s3827512.htm

監督:キム モルダウト (KIM MORDAUNT)
ラオス映画
キャスト
アロ (AHLO) :KI  SITTHIPON
キア (KIA)  :LOUNGMAN KAOSAINAM
母        :ALICE KEOHAVONG
叔父さん    :THEP PHONGAM
父        :BOONSRI YINDEE

ベルリン国際映画祭最優秀賞、アムネステイインターナショナルフイルム賞
シドニーフイルムフェステイバル2013年オーデイエンス賞

ストーリーは
全裸の女の出産シーンから始まる。女の義母が出産の介助をしている。長い苦しみの末に、元気な男の子が生まれてほっとしているところで、再び女の陣痛が始まる。後継ぎになる男の子の誕生に顔を崩して喜んでいた出産介助の母親は、急に別人のようになって女を責めたてる。彼女は双子を宿していたことを隠していたのだった。義母は介助しない、氷のように冷たい視線で産み落とされたもう一人の男の赤子を見ている。昔からのしきたりで 双子は家族に悪運をもたらす邪鬼だと言われてきた。どこの家でも後から生まれてきた二人目の赤子は 生まれてすぐに埋められる。出産直後だというのに、嫁と母親は赤子を抱いて山に向かう。赤子を誰にも悟られないうちに埋めてしまわなければならない。しかし、嫁は掘った穴の中にどうしても元気な泣き叫ぶ子供を埋めることができない。

そこで、画面は突然、満面笑顔の元気な男の子に変わる。10年の時が経ち、家族に不幸をもたらすと言われた疫病神のアロは、元気に育っている。双子の兄は、居ないので病気か事故で亡くなったらしい。義母と両親とアロは貧しいながらも仲良くに暮らしている。しかし平和な山村に、突然政府の役人がやってきてダムができるので強制立ち退きを命令される。村民たちが軍に追い立てられるようにして山に移動する最中、こともあろうにアロの母親が事故で命を落としてしまう。用意された代替え地は痩せた土地で、人々はビニールをはぎ合せて雨風をしのぎ、トカゲや蛇を捉えて空腹を凌ぐような生活だった。アロの父親は、家や田畑を無くし、妻にさえ先立たれ、腑抜けのようになっている。気丈なアロのおばあさんだけが頼りだが、彼女は口を開ければアロを、家族に不幸を呼んできた疫病神だと責めたてる。空腹で先の見えない生活の中でもアロは 友達を見つける。エルビスプレスリーのような奇妙ななりをした叔父さんに連れられた8歳の女の子キアだ。二人は野山を駆け回り二人して遊び呆ける。しかし、アロのちょっとしたいたずらが、村の自警団の怒りを買ったために、アロ家族もキアとキアの叔父も村を追われることになってしまう。

10歳のアロの父とおばあさん、8歳のキアとその叔父、これら5人の奇妙な放浪が始まる。キアの叔父は自分の故郷に皆を連れていく。しかしそこは無数の地雷と不発爆弾の埋まった廃村だった。5人は苦しい流浪の旅を続ける。ある村に着いてみると、ロケットフェステイバルが開催されるという。村は干ばつに苦しんでいた。ロケットを打ち上げて雲の上まで飛ばして雨を呼んできたものには、多大なご褒美が出るという。アロの父親は母親からなけなしのお金を引き出して、ロケットを作り始める。

一方、アロはキアの叔父が、もとは米兵だったという秘密を知っている。叔父から得た知識で蝙蝠の糞を集め、高い木を伐り出して独力でロケットを作り始める。お祭りが始まり、大人たちが作った大型のロケットはアロの父親のロケットも含めて、決して雨を呼んでこなかった。村民たちが失意のうちに祭を終了させようという時になって、小さなアロがロケットを背負って会場に到着する。そして、アロの作ったばかりのロケットは、厚い雲を超えてどこまでも飛んでいき、雷を引き起こし、ついに雨をもたらせてくれた。どしゃぶりの中で、村長は、アロたち家族が村に定住するための許可を与えた。抱き合って喜ぶ大人たち。満身笑顔のアロとキア。ここで映画は終わる。

ラオスは世界で一番激しい爆撃を受け、一人当たりに落とされた爆弾の量が世界一の国だ。ベトナム戦争でラオス北部とベトナムのホーチミンルートを通る南東部に、アメリカによって200トンを超える爆弾が落された。米軍はやっきになって北ベトナムから南ベトナム解放戦線に補給を送るホーチミンルートを断裂しようとした。1964年から1973年の9年間の間に200トン、8分ごとに一つの割合で爆弾を落とし、それはラオス人一人当たり1トン以上の量に値する。
それに加え、フランス植民地時代の独立戦争や、第2次世界大戦中の日本軍の進駐や パテトラオとラオス軍との戦争を含む地上戦で大型爆弾、ロケット爆弾、手りゅう弾、大砲、対人地雷などなど、膨大な不発弾が埋まっている。また米軍が落したクラスター爆弾は7800万個であり、そのうち30%は不発弾だ。国連はラオスの山村に今だに埋まっている不発弾は約50万トンと、推定している。
そういった地雷と不発弾による事故でたくさんの人がいまだに死傷している。不幸なのは不発弾を解体して金属や火薬を抜き出して売って生計を立てている人々が多いことだ。金属スクラップ集めで家計を支える子供たちの多くが命を落としている。

映画の中で、アロがひもじいのとおばあさんのつらく当たられて、しょげている時、キアがふざけて腐った木の実をアロにぶつけるシーンがある。二人は始めは土や葉を投げ合っているが、しまいには二人して夢中になって大笑いしながら石や木切れなど片っ端から掴んで投げ合う。アロが土の色をした丸いものを投げようとした瞬間、見ている観客は心の中で「ダメ―!」と叫ぶ。アロがそれをキアに投げつける瞬間、おじさんの太い腕がアロのつかんでいた手りゅう弾をつかむ。それまでただの飲んだくれでロック狂のへんてこな叔父さんでしかなかった男が、初めて頼もしく見える瞬間だ。うまいな。こういう見せ方。監督の腕が良い。

ラオスにはたくさんの山岳民族、少数民族がいる。ラオスを時計回りにみるとベトナム、カンボジア、タイ、ミャンマー、中国に囲まれた内陸国だから、ラオ語を話さない少数民族もたくさんいる。キアの叔父さんはロック狂でへんてこで、どこに行ってもつまはじきされている少数民族だ。アメリカによって起こされたベトナム戦争の中で最も、激しい被害にあった被害者と言える。
米軍はベトナム共産軍を圧殺するために、少数民族に武器を与えて、軍事訓練をした。これらラオス政府から差別されてきた少数民族は 米兵の一兵卒としてベトナム軍のスパイとして戦場に送られたり、米軍に役立つ兵力としてこき使われて そして捨てられた。だから今だに少数民族は、新政府から虐殺され、差別されている。少数民族出身で米兵くずれでロック狂という 難しい役をタイ人俳優のTHEP PHONGAMが、上手に演じている。彼の狂いっぷりが、素晴らしい。衣食足って礼節をわきまえてしまった日本人俳優には こんな屈折した奇妙な男を演じる役者はいないのではないか。

とにかく二人の子役が素晴らしい。ひもじい、情けない、逃げ場のない小さな社会で、こぼれるような笑顔、二人して大口を開けてガハハと笑いころげる豪快な天真爛漫さ。子供を主人公にした そのパワーの圧倒されまくる。映画はまさに演劇、映像、音楽、脚本、舞台、原作、光と影そしてすべてを含んだ総合芸術だという事実を目の当たりに見せてくれる。ベトナム戦争のもたらしたもの、無数の死、政治の不理屈、常に置き去りにされる女や子供の生きる権利、こうしたものを訴えるための100の理論や論争を このひとつの映画が表現して語りつくしている。子供の持つ本来のパワーが、優れた反戦映画として完成している。

これほど心に沁みる映画を観たのは、「赤い運動靴と金魚」(1997年)、と「禁じられた遊び」(1958年)以来だろうか。言論弾圧のひどかったイランで、マジット マジによって製作された「赤い運動靴と金魚」は、子供たちを主人公にすることによって、宗教よりも戦争よりも人間らしく生きることを訴えた。又、ルネ クレマンによる「禁じられた遊び」は、ドイツ軍の爆撃機によって両親も可愛がって抱いていた犬も殺されて生き残った孤児と、農家の少年との心の触れ合いが、胸をえぐられるような痛みをもって反戦を訴えかけてくる。

監督はオーストラリア人のテレビドキュメンタリーフイルム作家。フリーで東南アジアに残された戦禍の中を生きる人々を描いた「SECRET WAR」、ロシアの政治的自由とベルリンの壁崩壊を描いた「45YEARS IS ENOUGH]」、などで実力を認められてきた。代表作は、「BONB HARVEST」2007年で、ラオスの不発弾から金属を回収してスクラップで家計を支える子供たちを描いて、最も優れたドキュメンタリーフイルムとして評価されている。
このひとのこれからの活躍を見ていきたい。