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2013年2月26日火曜日

映画「シルク ド ソレイユ 彼方からの物語」



1985年以来 カナダを本拠にするサーカス集団、シルク ド ソレイユのパフォーマンスを映画化したもの。ラスベガスで公開された 7つのサーカスを、50か国余りの国々から集まった、1200人のパフォーマーが演じている。公演は、「O」、「KA」、「ビバ エルビス」、「LOVE」、「ズーマニテイ」などなど7つの公演を合わせて編集されている。日本では去年の11月に映画館で公開された。

カーニバルに迷い込んだ少女(エリカ リンツ)が 空中曲芸師の青年(イゴール ザリボフ)に恋をする。青年はエリカを見つめて、空中で綱を落としてしまい、落下。砂に飲み込まれる。そのあとを追って、エリカは青年を探しに、冒険の旅に出る。というストーリー。台詞はなく、すべてパントマイムと音楽だけ。砂に飲み込まれ、砂漠でピエロに出会ったエリカは 彼の案内でさまざまな人々に出会いながら、冒険を重ねていく。半ばからは、誰も乗っていない空の三輪車が、彼女を案内して空中曲芸師の青年を探し求める。

シルク ド ソレイユを3Dデジタルで映像化するアイデアは、ジェームス キャメロンからきたそうだ。キャメロンは「アバター」撮影後、3Dで録った彼のデモフィルムを シルク ド ソレイユの社長に送り、それを契機に両者が会って、フイルム化が実現したそうだ。プロデユーサー兼 総指揮が キャメロン、映画監督は、「シュレク」や「ナルニア物語」のアンドリュー アダムソンだ。キャメロンは、現在活躍している映画監督の中で、最も尊敬すべき監督の一人だと思うが、長年ハリウッドにいる映画人にしては珍しく とっても人柄の良い人らしく、「アバター」発表の時には、自分が開発したカメラ技術の、デジタル3Dで、ビジュアル モ-ションを作った新しい技術を、他の映画監督たちを招待して、惜しげもなく公開したそうだ。
世界一の石油会社BPが アメリカ西海岸で事故を起こし、地下で噴出するオイルを止めることができなくて 世界を震撼させていた時、いち早く、自分たちが「タイタニック」撮影のために開発した水中ロボットや機材を BPに使うように申し出ていた。
世界一、深い海底を自分の開発した潜水機材で、遊泳した冒険家でもある。
このシルク ド ソレイユの撮影では、自ら3Dカメラを抱えて、空中で撮影したそうだ。18台の3Dカメラを同時に使いながら 動きの速いアクロバットを撮影したという。

この映画で見られる、ラスベガスの7つのショーのうち、幾つかは今でも公演されている。日本でも北米以外では 唯一シルク ド ソレイユの常設舞台が デイズ二ーランドにあった。2008年に 初めて「ZED」の公演が行われ、3年続いたが、2011年3月11日の地震で休業、安全な興行が保障できないことや、興行収入の問題があり、12月31日で興行が打ち切られた。全然、知らなかった。残念だ。でも考えてみれば サーカスのアクロバットは 一瞬の取り違い、一秒の相手とのミスが事故につながる。骨折や脱臼どころではない、脊椎損傷で死亡事故につながったり、一生車椅子の生活になりかねない。地震国ではリスクが多くなるので、彼らの 興行打ち切りと、全員の引き上げはやむを得なかったのかもしれない。

ずいぶん昔になるが シドニーで、シルク ド ソレイユを見に行った。大きな広場にカラフルなテントが立ち、それはそれは素晴らしいサーカスだった。
テントに入るなり たくさんのピエロたちが歩き回っていて、まだ舞台が始まる前なのに、お客が退屈しないように手品を見せたり、遊んでくれる。そのプロフェッショナルな立ち振る舞いで、お客は テントに入った途端に、おとぎの国に入り込むことができる。手品やアクロバットも、みな出し物に、生のオーケストラが演奏している。ヴァイオリニストの腕も素晴らしかった。ピエロの笑わせ方にも品のある、上質な笑い。
観ていると、マットの上で10人ほどの青年が 棒やボールを投げ合いながら自分たちも跳んだり空中回転するアクロバットで、一人の青年が動かなくなった。ピエロ達がその青年を速やかに運び出し、アクロバットは途切れることなく続いたので 私たちは何が起こったのかわからなかった。でも、すべてのパフォーマンスが終わったあとで、アナウンスで、「パフォーマンスの最中に倒れた団員は、病院に運ばれましたが骨折も怪我もしていないことがわかりました。ご心配かけました。」と放送された時、同時にワーっと お客たちが拍手と歓声があがって、みな喜び合った。忘れられないことになった。一瞬のミスが 団員にとっては命に係わるような仕事をしているのだ。

今回の映像のうち、どのパフォーマンスも素晴らしいが、エリカを案内するピエロがとても素敵。背が高くて手足が長く、ものすごいハイジャンプしながら走ったり、頭が後ろに着きそうなほど反り返ることができる。舞台回しの役だが、最高のピエロ。BENEDLKT NEGROという名前。トキメキ。
「ビバ エルビス」のショーの中の 沢山のトランポリンをロックに合わせて沢山の男の子たちが 跳んで跳ねて空中回転したり交差したりするのも楽しい。「LOVE」ではビートルズの曲に合わせて空中で大きな車輪が回り その中やその上を男たちが駆け回ったりする。すべてのアクロバットが 今まで見たことがあるボリショイサーカスの空中ブランコの100倍くらい危険度が高く、スピードがあるのに、観ていて楽しい。
「O」の水中撮影もすごかった。水の底からゆっくりアラビア風の音楽に合わせて、踊り子たちが 踊りながら引き上げられてくる。沢山の踊り子たちの踊りが 美しいが、驚いたことに最後にゆっくり踊りながら水から引き上げられてきた6人の踊り子たちは 一体何分間水中で息を止めて待っていたのだろうか。よく生きていました。
大きな金魚鉢のようなプールで一人水に入ってはプール際でバランスをとったり、美しいポーズをとる曲芸も美しい。3人のアラビア女性(?)のアクロバットは、3人とも怖いくらい体が柔らかくて、どこが誰の足で どこからどこまでが足なのか手なのかわからない。
「KA」の 巨大な床が垂直に立ち上がって、ワイヤー一本で男たちが戦闘を繰り広げるシーンは すごい迫力。ビュンビュン矢が 垂直の床に飛んできて付き刺さる。飛んでくる矢を避けたり、突き刺さった矢に体重をかけたりしながらスピーデイーに やっつけたり、やっつけられて床から滑り落ちて行ったりする。

でも私が好きなのは、空中で金色に輝く四角のワクを手や足や体でクルクル回したり、中に入ったりしながら踊る青年のパフォーマンス。鍛えぬいた男女の体が これほど美しいものか と感動する。
最後のエリカが、空中曲芸師アエリアリストに やっと会えて、二人が仲良く 一本のひもに手を絡ませるだけの命綱で 空中で踊る美しいパフォーマンスが良かった。「ふたりはやっと会えて、幸せに幸せに暮らしました、とさ。」という、おとぎ話がすんなり飲み込める 本当に美しい舞台だった。

本当に夢みたい。シルク ド ソレイユ。何て素敵な人たちだろう。