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2012年9月6日木曜日

映画 「ムーンライズ キングダム」

 
   
アメリカ映画

監督:ウェス アンダーソン
脚本:ロマン コッポラ
音楽:ベンジャミン ブリテン

キャスト
保安官シャープ :ブルース ウィルス
スージー    :カラ ヘイワード
サム      :ジャード ギルマン
スカウトマスター:エドワード ノートン
スージーの父  :ビル マーフィー
スージーの母  :フランシス マクドナルド

ストーリーは
1965年夏、ニューイングランド島。
夏の間、ボーイスカウトが ニューイングランド島で、キャンプをしている。スカウトマスターの指導の下、キャンプ内での規律はとても厳しい。食事、炊飯、野外活動、就寝、すべてが時間どうりに 秩序正しく行われなければならない。

ある日、サムと言う少年は、地元の学校の生徒達が教会で「ノアの箱舟」の劇を演じているのを見て、ひとりの少女に恋をした。少女の名前はスージー(カラ ヘイワード)。
サム(ジャード ギルマン)とスージーは 示し合わせて、計画したとおりに駆け落ちをする。サムはテント1式を背負い、空気銃も担ぎ、スージーはスーツケースに愛読書をつめて、ふたりの逃走劇がはじまる。

12歳の少女の失踪で、普段は眠ったような、静かな田舎町は大騒ぎ。少女の両親はあわてふためき、ボーイスカウトのキャンプも大慌て。12歳のサムは 孤児だったので、養父母の育てられていたが、これを機会に、養父母は、サムの引取りを拒否。サムが見つかり次第、孤児院に送られることになった。スージーの両親の要請を受けて、保安官のシャープ(ブルース ウィルス)は 何としても二人の身柄を確保しなければならなくなった。

一方、恋する二人、12歳の道行きは、きわめて順調。二人して手に手をとってボートでムーンライズ キングダム岬に渡って、海辺にテントを張り、サムは魚を仕留めて料理して、スージーは毎晩、サムに本を読んできかせる。二人して仲良く 眺めの良い海辺で過ごしていた。しかし、大型台風がやってきて、、、。
というお話。

映画のストーリーや、キャストや、ドラマがどうこう言うような映画ではなくて、映画そのものがアート作品。ふつうの映画ではない。非現実的なフェアリーテールでもある。
例えば、教会の尖塔で 恋する二人を保安官が引き戻そうとしているところで、雷の音がした、と思った次の場面で、折れた教会の塔に片手で保安官が捕まっていて、その片手にサムが、またその片手にスージーがぶら下がっている絵のようなシーンがある。
あるいは、ボーイスカウトのマスターが居住する小屋は 50メートルもある高い木のトップにのっかっている。そのくせ中では揺れもしない。物理学的にも、建築上も、土木工学的にも、ありえない小屋なのだ。
カメラは正面から写していて動かない。画面が平面的で奥行きがない。ボーイスカウトの小さなテントが沢山並んでいるが、そこに一人が入るシーンがある。次のシーンはテントの中だが、これが驚くほど広くて整然としている。距離感とか、奥行きの 普通の感覚が覆される。

ブルース ウィルスの演じる保安官のキャラクターガ生きている。二人が捕られる。娘と引き離されたサムに、保安官が朝食を作ってやっている。すっかりしょげているサムに、どうだ、あの浜辺では楽しかったか?と聞く。いいなあ、あの浜辺。俺に彼女がいたら、絶対あの浜辺に連れて行ってやっただろうと思うよ。と、実に共感をもって語り、サムを一人前の男として扱っている。
登場する大人たちが、みな、スージーの両親も含めて、どこかずれている。大真面目だが、ずれている様子が とてもおかしい。

サムが獲物を捕まえ、解体して 火をおこし料理する。スージーが食べ終わると、サムが眠るまで、本を読んで聞かせる。テープレコーダーの曲に合わせて、砂浜で踊ったり、手を繋いだり、泳いだり、ちょっとキスしたりする。ひょうひょうとした眼鏡の少年が、頼りなげに見え、危なっかしくて仕方無いのだが、見ている側は、笑いをこらえて見守っている。

駆け落ちという深刻なできごとを 駆け落ちにはちょっと早すぎる二人が気軽にヒョイとやってしまい それに混乱して上や下やの大騒ぎに巻き込まれる大人たちが笑える。
音楽が良い。ベンジャミン ブリテンの「真夏の夜の夢」や、「ノアの箱舟」などからもってきた音楽が 画面の芸術性や、とっ拍子のない筋書きによくマッチしている。

大人でもない、子供でもない、テイーンでもない、スージーとサムの危なっかしい愛の行方に、ハラハラしながら、笑いをこらえながら見ている誰もが いつしか二人の見方になっていて、二人がどんなことになっても守ってやりたい、と思うだろう。
子供だったとき、人を好きになって、それがどんなに純粋で真剣だったかを思い出して 胸が痛くなる人もいるかもしれない。
とても楽しい、ロマンテイックコメデイー。