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2012年8月25日土曜日

オペラオーストラリア公演 「南太平洋」



オペラハウスで、ミュージカル「南太平洋」を観て来た。

オペラオーストラリアでは、毎年10から11のオペラを上演する。今年は、「魔笛」、「トランドット」、「コシ ファン トッテ」、「真珠とり」、「アイーダ」、「蝶々夫人」、「ルチア デ ラメモアール」、「サロメ」、「椿姫」、と「南太平洋」だ。重いオペラだけでは疲れるからか、予算の都合によるものか、わからないが、「南太平洋」のような軽いミュージカルも、毎年 一つくらい間に挿まれる。前には、「マイ フェア レデイー」や、「美女と荒馬」や「メリーウィドウ」などが上演されて、それなりに好評だった。

「南太平洋」は 1949年初演の ブロードウェイミュージカルだ。
原作:ジェームス ミッチナー 「TAILS OF THE SOUTH PACIFIC」
作曲:リチャード ロジャース

映画「南太平洋」は 1958年製作
監督:ジョシュア ローガン
キャスト
ネリー  :ミッチー ゲイナー
エミール :ロッサノ ブラッツイ
ジョセフ :ジョン カー
ブラデイ マリー:ジュアーニ ホール

オペラ「南太平洋」
監督:バーツレット シェアー
指揮:アンドリュー グリーン
キャスト
ネリー:リサ マッケーン
エミール:テデイー タフ ローデス
ジョセフ:ジャスパー リロイド
ブラデイーマリー:ケイト セベラノ

歌われる歌
バリ ハイ
ワンダフル ガイ
SOME ENCHANTED EVENING
THERE IS NOTHING LIKE A DANE
YOUNGER THAN SPRING
ハッピートーク など。

ストーリーは
太平洋戦争中の南太平洋のある島。
米軍駐屯地の海軍所属の看護婦、ネリーは、その持ち前の明るさと天真爛漫な性格で 基地の人気者だ。ネリーに思いを寄せる若い兵士が何人もいる。しかし、彼女は島の農園主エミールに パーテイーで出会って、恋をしていた。エミールはネリよりもずっと年配のフランス人だ。

その基地に 海兵隊のジョセフが 特殊任務を任されてやってきた。となりの島に、敵の日本軍が上陸したが、それを偵察して、敵の通信網を切断するのが彼の任務だ。しかし、米軍の彼らには島の地理や、島の人々に関する情報がない。それで、軍としては、島を良く知っているエミールに、島を案内してもらいたい。しかし、それは、当然、大変危険な任務だった。
軍は丁重にエミールに協力を依頼するが、案の定、にべもなくエミールは断る。それでもあきらめきれず、米軍の司令官はネリーを呼び出して、ネリーを通して、エミールの力が借りられないかどうか、詮索する。
そんな軍の思惑に関係なくエミールは、パ-テイーを開催してネリーを招待する。そこでネリーはプロポーズされる。夢心地のネリーが、歓びに胸を震わせているときに、色の黒い二人の子供達が登場する。そこで、エミールは子供達を抱き上げて、自分の子供だ、といってネリーに紹介する。ネリーは 恋した男が以前、土地の女と結婚していたことを、知って衝撃を受ける。そしてエミールを、許すことが出来なくなる。ネリーは、エミールの前から逃げるように立ち去り、エミールが会いに行っても もうネリーは エミールに会おうとしなかった。ネリーは勤務地変更願いを出していた。

海兵隊のジョセフがエミールとともに、島から消えた。後になって、ネリーは 二人が日本軍の基地に潜入したことを知る。エミールの屋敷に残された二人の子供達が 気になってネリーは屋敷に通って、子供達を世話するようになる。天使のように心の美しい子供達を見ているうちに、ネリーは自分が本当にエミールを愛していたことに気がつく。そこにジョセフの死の知らせが入り、、、。
というお話。

映画が公開されて、日本でも空前のヒット作になった。ロードショウを銀座で観た記憶がある。12歳くらいだったか。画面の美しさと、「バリ ハイ」を歌うジュアーニ ホールの素晴らしい迫力に見惚れた。緑輝く南太平洋の島々、透明なエメラルドグリーンの海、ジョセフが恋をする島の娘の可憐な可愛らしさ、ロッサノ ブラッテイの素敵なナイスミドルぶり。何もかも美しくて素晴らしく、心ごと南太平洋に持っていかれそうな思いだった。
ロッサノ ブラッテイは、キャサリン ヘップバーンとの共演、「旅情」、「愛の泉」などで、すでに知っていて、中年男なのに いつも恋する男の役で目がウルウルする姿に、魅かれていた。12歳なのに!

それにしても ミュージカルのせりふに何度も何度も出て来る「ジャップ」、「ジャップ」という言葉が今になると気に障る。子供の時には知らなかった時代背景や社会関係が分かってみると いやはや何ともこれは お気楽なアメリカミュージカルだった、と思う。
それと、軍規のゆるさ。従軍看護婦が 自由奔放に兵士達と恋愛して、休日(!)には好きな兵士と手を組んでデートする。看護婦たちは駒鳥のようにさえずりながらスイスイと飛び回り、気に入った相手と恋愛したり基地内で結婚したり、戦争中だというのに地元の名士が開催するパーテイーに招待されて飲んだり食べたり、社交している。まるで当時の日本軍の軍規からみると絵空事のようだ。これは、米軍のプロパガンダ映画だったのか。
ストーリーだけをみると 日本で空前のヒット映画というのが嘘みたいだが、当時貧しかった敗戦国日本にとって、こうした明るくて楽しい映画が必要だったのかもしれない。

オペラオーストラリアが このミュージカルをやることになってエミールの子供達を選ぶオーデイションがあった。10歳の息子役に選ばれたジャスパー リロイドは、ポリネシア系のオージー。祖母がバレエ教師、母も叔父もシンガーでダンサー、本人は3歳のときから ダンスを習っていて、バレエだけでなく、ジャズダンス、ヒップホップもタップダンスもお手の物という多才な子供だ。きれいなボーイソプラノを聴かせてくれた。

父親のフランス人、エミール役を演じたテデイー タフ ロイドはオペラオーストラリアではおなじみのバリトン歌手だ。2メートルも背丈のある、がっしりした体格で、おなかに響く美しい低音を聴かせる。 残念なのは、主演女優のネリー役の、リサ マクイン。彼女は、もともとミュージカル俳優なので、声量がなくテデイ タフ ロイドとのデュエットでは、生彩に欠けることだ。

しかし、一番悪かったのは ブラデイマリー役のケイト セベラノだ。「南太平洋」を観に来た人は 10人のうち9人は「バリ ハイ」の歌を聴きに来たのではないだろうか。ブラデイマリーは、体重150キロはありそうな土地の女で、基地に自由に出入りして、兵士達にココヤシの民芸品や装飾品や ミイラになった人の頭を50ドルで売りつける。ジョセフ中尉に、年端もいかぬ娘まで差し出す商売女で、煮ても焼いても食えない女だ。そんな巨漢が バリ ハイの歌ひとつで、人々に、この世のものと思えない夢の島を見せてくれる。昔、映画でこの歌に 感動して完全にノックダウンされた。しかし、オペラハウスで観たブラデイーマリーは声量のない貧相な女で、最低だった。ロックを聴きに行って、浪花節を聞かされたようなものだ。

プレミアチケット二人分と、オペラハウスの駐車券を入れると500ドル。オペラハウスは、こんな悪い商売をしてはいけない。オペラ好きには全然観る価値のない公演だ。ミュージカルにミュージカル以上のものを求めてはいけないのならば、オペラハウス以外のミュージカルシアターで、半額の値段で公演するべきだ。