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2012年5月7日月曜日

男達の「白鳥の湖」

            

http://www.swanlaketour.com/

マチュー ボーン演出のバレエ、「白鳥の湖」ロンドン公演を、ハイビジョン3Dのフイルムで観た。

力強い男達の踊る白鳥の群舞いが素晴らしい。筋骨隆々の、よく引き締まった体を持った男達が上半身裸で、下半身に羽毛をつけて踊る白鳥だ。近年、これほど感動したバレエの舞台を他に見なかった。素晴らしいスピードと力強さ、そしてジャンプする跳躍力。エネルギーが爆発する。

マチュー ボーンは、1960年ロンドン生まれのカリオグラファーで、前衛的なバレエのグループをもって1995年から活躍している。この「白鳥の湖」はウェストエンドとブロードウェイとで、最も長く公演が続いている出し物だそうだ。ローレンス オリビエ賞、トニー賞で最優秀演出賞と最優秀カリオグラファー賞を受賞している。

監督、カリオグラフ:マチュー ボーン
音楽:チャイコフスキー
演奏:ニューロンドンオーケストラ
指揮:デヴィッド リロイド ジョンズ

キャスト
白鳥  :リチャード ウィンザー
プリンス:ドミニック ノース
クイーン:ニナ ゴルドマン
執事  :ステーブ キルカン
少年時代のプリンス:ジョセフ ヴォーガン

ストーリーは
はじめの場面では 舞台の中央に大きなベッド。幼いプリンスが眠っている。白鳥がプリンスに襲い掛かり 必死で逃げても捕まって殺されてしまうという悪夢にうなされている。いつも見るのは、同じ夢だ。  しかし、朝はいつもどおりにやってくる。侍従の命令通りに召使達がプリンスの身支度をする。プリンスが制服を着込んだところで クイーンの待つ馬車に乗り、国民への会見や公式行事に母と参加して 退屈な時間を過ごす。
次のシーンでは、プリンスが大きくなっている。若きプリンスが幼い頃と全く同じことをしている。起きてから眠るまで 全く自分の時間がない、拘束された不自由な生活をするプリンスの様子が痛ましい。

ある夜、かくれて酒を飲んでいたプリンスは母親に見つかり責められる。プリンスは、母親を愛している。飲んだ勢いで母親に襲い掛かる。しかし母親は冷たく息子を払いのけ、しっかりするように言い渡すだけ。
プリンスは身分を隠してキャバレーに行く。しかし世慣れていない彼は飲んだくれに喧嘩を売られて、店から放りだされ、笑い物になるだけだった。

月の光が照らす夜の池のシーン
世を儚んだプリンスは池に飛び込んで死のうとする。プリンスの前に立ちはだかって、美しい舞いをみせる白鳥。その美しさにプリンスは目を奪われる。力強い舞いをみせる白鳥のソロが素晴らしい。誘われるかのようにして、デュオで踊るプリンスと白鳥の踊りが秀逸だ。荒々しくプリンスを跳ね除けていた白鳥が 二人して踊るうちに互いに心引かれ、恋に陥る様子が 見ていて手を取るように伝わってくる。
それに続く白鳥たちの群舞いが 激しく勇壮で美しい。12羽の白鳥達の力強い踊りをバックに 歓びに満ちた恋する二人の踊り。プリンスと彼とは一回り体の大きな白鳥のデュオが、月の光に照らされて青く輝いてみえる。

次は宮廷の舞踏会
退屈な宮廷舞踏会に辟易しているプリンス。各国から来たダンサー達がそれぞれのお国の踊りを見せたり、貴族達は華やかに着飾り社交に忙しい。そこに、プリンスの恋する白鳥が人の姿をして突然現れる。うろたえるプリンス。会場にいたすべての女達のこころを、白鳥は、わし摑みしてしまう。白鳥の暴力的ともいえる性的な魅力にクイーンまでもが 夢中になってしまう。プリンスに、わざとつらく当たる白鳥に、プリンスは驚き、白鳥を追い求めて狂ったようになってしまう。

最後は再びプリンスの寝室
プリンスは重い病気に陥って、召使や母親に世話をされている。
そこに、夢にまで見た白鳥が 会いにやってくる。白鳥は瀕死の傷を負っているが、プリンスは それに気がつかない。出会えたことに歓び、デュオを踊る二人の前に 沢山の白鳥達が襲い掛かる。プリンスを、くちばしで突き刺し肉をえぐる白鳥達。それを助けようともがく瀕死の白鳥。二人とも 囲まれて殺される。
上空を プリンスをしっかり抱きしめたは白鳥が、天に昇っていく。
というお話。

白鳥の女王に恋をするプリンスを描いたチャイコフスキーの「白鳥の湖」が、そのままプリンスと雄の白鳥との許されざる恋の物語にされたところが現代的解釈だ。鍛え抜かれた筋肉をもった男達が上半身裸で白鳥になって、荒々しく激しく白鳥を踊る。毛つくろいをし、羽ばたき、飛び発って宙に舞う。バレエとは男の美しさを見せる為の芸術だと言われているが、その言葉がすんなり納得できる。本当に 美しい、感動的な舞台だ。

「白鳥の湖」は パリオペラバレエ、ロイヤルロンドンバレエ、キエフバレエ、ボリショイバレエ、ニューヨークバレエ団、オーストラリアバレエでも観てきた。どれが一番美しかったか、甲乙などつけがたい。キエフバレエでは ものすごく沢山の踊り子達が、普通の舞台の倍はある大きな舞台に広がって、贅沢で豪華なパフォーマンスを見せてくれて、目を瞠った。パリオペラバレエを見たときは、ヌレエフが演出した「白鳥の湖」だったので ドラマ性があって、涙が自然と出て来るほど美しかった。しかし、このマチュー ボーンの白鳥には とても感動した。

3Dテクニックがでてきた時は ちょっと立体的に見えるくらいで何だ?という感じだったが、徐々に技術が良くなってきて、特に舞台の映像化には、3Dテクが とても生きている。舞台芸術では 物語が平面的なならないように観客の前に花道ができたり、役者が観客席の後ろから飛び出してきたり、舞台のそでを上手に使ったりする。舞台ライブのフイルムを3Dにすると さらに見ている人に直接手が触れられるような 錯覚を起こさせ、画面に臨場感が出て、とても効果的だ。

男達が チャイコフスキーにあわせて群舞いするシーンや、瀕死の白鳥を踊る姿を見ていて、これがチャイコフスキーの「白鳥の湖」に一番合って居るのかもしれない と思った。とても良い舞台を観られて、幸せ。映画館でこれを観た後、DVDをロンドンから取り寄せる手続きをしてしまった。