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2011年11月4日金曜日
アンネ ソフィーオッターとその仲間達のコンサート
去年の9月に すでにチケットを買ってあって、もうキャンセルできないシドニーシンフォニーのコンサートに、近所に住む娘と二人で行ってきた。娘はインフルエンザに罹患して3日目、4時間ごとに強力な鎮痛剤を必要とする身。私は 長い長いインフルエンザからくる諸々の症状からようやく回復したばかり。一人で行くつもりだったが、娘がタクシーで駆けつけてきた。
家に残してきたオットは 腰痛で歩けず、どんな鎮痛剤も効果がない痛みで、とうとうモルヒネを使うことに、、。もうひとりの娘は ニューカッスルで夫と二人の赤ちゃんと全員が これまたたちの悪いインフルエンザで 嘔吐と下痢と発熱で全滅状態 という有様。
今年のシドニーの春は最低だ。桜も桃も ワトルの花も終わり ジャカランダの花が咲き始めたというのに いっこうに気温が上がらず 昼間は初夏らしく気温20度を越えるが、朝晩急激に気温が下がり、冷えるので病人が続出している。
毎年この季節には、たくさんの花が咲き、かすれ声で鳴く練習をしていた野鳥の赤ちゃん達が 飛び、さえずることができるようになって、にぎやかな季節のはずなのに、今年は全く様相が異なる。こんなに家族全員が寝込むような春も珍しい。
http://www.youtube.com/watch?v=0tJbJvKzuEo&feature=related
オペラハウスで歌ったのは、スウェーデンから来たメゾソプラノ歌手、アンネ ソフィー ボン オッター。彼女が友達のチェリスト スベンテ ヘンリソン、ピアニストのジョー チンダモ、ドラムのゴードン ライトを連れてきた。去年の段階では、彼女がフィンランド人のヴァイオリニスト ペッカ クシストを連れてくるはずだった。しかし、今や ペッカは、アンネ ソフィーよりも ずっと人気者になってしまって、たった一日のシドニーのコンサートにために来られる余裕はなかったのだろう。
ペッカの代わりに、チェロのスベンテ ヘンリソンが来た。アンネ ソフィの歌と、チェロとドラムとピアノだけのコンサートだと思っていたが、フルサイズのシドニーシンフォニーオーケストラがバックで演奏していて、若い指揮者、ニコラ カーターが全曲 指揮をした。これがとても良い指揮者で 印象に残った。アシュケナージの後に こうした地元オーストラリア出身の若い優秀な指揮者が育って居ることが、頼もしい。
プログラムは
1)ミルハウド ダルス「THE CREATION OF THE WORLD」
2)ジョセフ カンテローブ「SONG OF THE AUVERGNE」
インターバル
3)ハンズ クラウサ:プラハで生まれ45歳でアウシュビッツで亡くなった作曲家による「小さなオーケストラのための序曲」
4)スべンテ ヘンリソン「チェロ協奏曲」自作自演
5)ガーシュインなどの作品からポピュラーソングを7曲
ジャズ、バラードなど。
ガーシュインの数曲以外 知っている曲のひとつもないコンサートだった。アンネ ソフイーのメゾソプラノが 思いのほか伸びない。声にハリとつやと輝きがない。思えば彼女の声は全盛期を過ぎている。もうオペラは無理か。フランスのフォークソングやジャズやバラードなら歌える。フルオーケストラを後ろに 気持ち良さそうにスウィングしている彼女は 美しい。絵になる。でも、それもあと10年 持つか持たないか。
チェリスト スベンテ ヘンリソンが良かった。自分が作曲したチェロ協奏曲をシドニーシンフォニーと一緒にソロでやって、素晴らしい演奏と卓越した技術をみせてくれた。彼がチェロを弾き始めると、目の前に大平原が広がり、豊かなサバンナが見えてくる。空気はあくまでも透明に乾いており、冷たい。岩塩の板を運ぶ駱駝が その優雅な足取りで砂漠を進んでいく。日が昇り、大平原の向こうに日が沈む。ゆったりしていて、大きな愛情に抱き抱えられているような安心感のある 美しい曲だった。彼の存在そのものに、才気がほとばしっている。将来のあるチェリストなのだろう。
やっぱりチェロの音は良い。不思議とヴァイオリン弾きがヴァイオリン奏者と幸せに暮らしている人が、身近にいないが、ヴァイオリン弾きとチェロ奏者の夫婦なら10組くらい知っている。ヴァイオリンはわがままな楽器だから、別の楽器奏者か、まったく楽器をやって居ない人との方が うまくいくのかもしれない。オーケストラにいたとき 一番気の合う人はコントラバス奏者だった。歌手ではソプラノよりはアルトを歌う人、テノールよりはバリトン歌手と一緒に居て 気持ちが落ち着く。
サッカーならばゴールキーパーが好き。野球ならキャッチャー、ラグビーなら断然フルバックだ。
コンサートの前、オペラハウスの横で、ハーバーブリッジや港に停泊している大型豪華船をみながら 寿司屋で握ってもらった折り詰を 娘と開けた。次の瞬間 何かの音がしたと思ったら、わさびのついたシャリだけが地面に転がっていた。何が起ったのか、皆目見当がつかない。私も娘も向かい合ってテーブルに置いた折り詰を前にして、何も見なかった。
目にも留まらぬ速さでカモメが 折り詰の中央にあった赤貝の寿司を奪っていったのだ。何も見えなかったのに。
目にも留まらぬ早さとは、こういうことだったのか。動物って すごいな。
敵ながら あっぱれ あっぱれ。