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2011年4月20日水曜日
デンマーク映画「未来を生きる君たちへ」
デンマーク スウェーデン合作の映画 「IN A BETTER WORLD」、邦題「未来を生きる君たちへを観た。
2011年 ゴールデングローブと、アカデミー賞 最優秀外国語映画賞、受賞作。
スーザン バイヤー監督 (SUZAN BIER) 1時間50分。
キャスト
ドクター アントン:PERSBARANT MIKAEL
アントンの妻マリアンヌ: DYRHOLN TRINE
10歳のエイアス :MARKUS RYGOAD
10歳のクリスチャン:NIELSEN WILLIAM JOHUK
クリスチャンの父 :THOMSER ULRICH
http://www.imdb.com/video/imdb/vi1945869593/
ストーリーは
デンマークのある小さな街。
二人の 10歳の少年がいる。
エイアスは スウェーデン人で、おまけに兎のような前歯を矯正しているところなので 学校で いじめられている。体の大きな 悪いグループの生贄になって、通学用の自転車を壊されたり 殴られて 生傷を作ってばかりいる。
彼の父親、アントンは デンマークに本拠を置く国連から派遣されて スーダンの難民キャンプで働くドクターだ。エイアスの母親も ドクターだが、家の近くの病院に勤めている。しかし夫が過去に 他の女性と恋愛関係を結ぶ裏切りにあって以来 夫とは別居している。
そんな 壊れた家庭と、学校でのいじめに苦しむエイアスのクラスに 新入生が やってきた。
ロンドンから来たばかりの クリスチャンだ。彼は癌で母親を失ったばかりだ。父と二人 父の生まれ故郷に 帰って来たのだった。クリスチャンにとって、母の死は 耐え難い痛みだった。父、クラウスは いつもクリスチャンに 「母親は必ず良くなって帰ってくる。」と、約束していた。でも母は帰ってこなかった。癌末期に、母は自分がわからなくなって 子どものようになってしまった。そんな母の姿を見て、父は母の死を望んでいた。クリスチャンにはそれが許せない。
クリスチャンは 無表情、無感情を装いながら、心の中では やり場の無い怒りで燃えていた。
アントンが 休暇で帰ってきた。再びスーダンの難民キャンプに帰るまで 数週間 エイアスや彼の小さな弟や クリスチャンを遊びに連れて行ってやることができる。そんなある日、エイアスの弟が粗暴で乱暴な自動車整備工の子どもに いじめられた。中に入ったアントンは その男に恫喝され、暴力を振るわれる。
アントンには 強い信念がある。暴力に暴力で返しても何も生まれない。自分は筋の通らない無意味な暴力を決して恐れない。そう子供達に言い聞かせて、アントンは その男の前に立つ。しかし、男はアントンの説得など何も聞かず、再び一方的に暴力を振るった。アントンは このことで子供達に 暴力を恐れない自分の正しさを示したつもりだったが、子供達は ただ、信頼する人が 自分達の目の前で殴られる暴力への恐怖を体験することになった。
クリスチャンの古い家の作業小屋には、ずっと昔 亡くなったおじいさんが放置していた爆薬が沢山あった。クリスチャンは インターネットで爆弾の作り方を学び、爆弾を作る。エイアスの父アントンを侮辱して殴ってきた自動車修理工の車に 爆弾を仕掛けるためだ。暴力には暴力で対するしかない。エイアスの協力が要る。しかし気の弱いエイアスは どうしてよいか わからない。思い余って アフリカにいる父に ネットを通じて電話をする。すると、父は いつもの父ではなく うっすら涙を浮かべ 疲れているから息子と話が出来ない、と言う。そんないつもと様子が違う 気弱な父を見たエイアスは 父を傷つけた悪者を征伐しなければならない、と思い込み、クリスチャンと一緒に 敵の車に 爆薬を仕掛けることにする。
アントンはその日、難民キャンプで 幼い少女の命を救うことができなかったことで気落ちしていた。そこを、少女を傷つけた張本人 反政府軍のキャプテンが 怪我をしてアントンの部屋に 銃をもって押し入ってきた。アントンは 死んだ少女を侮辱して笑いものにする この男を 治療せずに キャンプ内にいる人々に引き渡したのだった。男は難民達によって撲殺される。アントン自身の暴力へのの強い信念が揺らぎ始めた。アントンは傷ついていた。
クリスチャンとエイアスは 車の下に爆弾を仕掛ける。しかし発火直前に何も知らない 女の子が近寄ってきたのを 止めようとしてエイアスは爆発とともに吹き飛ばされる。幸い エイアスは命を取り留める。クリスチャンは警察にも父親にもすべてを話して、エイアスの母親に許しを求める。しかし、母親はクリスチャンをなじり、責め立てることしかしない。
クリスチャンは それをみて エイアスは死んだと思いこんでしまった。
彼は、ひとり、死んだ母親のところに行こうとして ビルの屋上から飛ぼうとしているところを アントンに救い出される。
というお話。
10歳のころの子供達の 傷つきやすい魂が、痛ましい。孤独な少年達、エイアスとクリスチャンの傷の痛みがひしひしと伝わってくる。
信頼していた両親の離婚と、学校で毎日繰り返される いじめにあっているエリアスの孤独は、母親の死を受け入れられないで 平然を装っているクリスチャンの孤独と 同じだけ 深くて大きい。
しかし孤独で哀しいのは、少年達だけではない。
夫の裏切りを許せない妻も、アフリカで止むことのない暴力と 不合理な医療活動に押しつぶされそうなアントンも、そして 妻がガンで苦しみながら死んでいくのを見送ることしかできなかったクリスチャンの父親も みな大きな傷を抱えて生きている。
痛みや哀しみをうすめてくれるように、自然が 雄大で美しい。
アフリカの大地、どこまでも広がる砂漠、砂塵のなかを歩き続ける女達の色鮮やかな 衣装が目を瞠るほど美しい。
デンマークの海辺の町。
人は誰もが 疲れて帰ってくるところは 海辺だ。朝も、昼も夜も 葦の茂る湿地と、それの続く海 広くて大きなな果てのない海を眺めて、心を鎮める。
題材に 社会問題や深刻な民族問題を扱っているが、映像そのものは、美しい抒情詩のようだ。映像の美しさに 心を浸けるだけのために、観ることもできる。すぐれた映画だ。