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2011年1月23日日曜日
映画 「英国王のスピーチ」のコリン ファース
オーストラリアは 英国国王を元首とする立憲君主制国家だ。国家元首はエリザベス女王。
映画「英国王のスピーチ」原題「THE KING’S SPEECH」は、エリザベス女王の父親にあたるジョージ6世のお話だ。
この映画、ゴールデングローブ賞で、アルバート ジョージ6世を演じたコリン ファースが 主演男優賞を獲得した。アカデミー賞では 作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞にノミネイトされている。
監督:トム ホッカー 37歳の新鋭の監督
キャスト
アルバート ジョージ6世:コリン ファース
言語療法士:ジェフリー ラッシュ
エドワード8世:ガイ ピアース(アルバートの兄)
アルバートの妻:ヘレナ ボナム カーター
シンプソン夫人:エバ ベスト
ストーリーは
1936年、英国王ジョージ5世がに亡くなった。次期国王は当然長男の プリンス エドワード8世(ガイ ピアース)が 継承するはずだった。王政学を学び ジョージ5世を支え、次期家長として活躍し 陸軍に従事し 国民から慕われていた。にも関わらず 彼は離婚暦のあるアメリカ女性 シンプソン夫人に夢中だった。英国議会も大英教会も 国王が離婚暦のある平民の女性と結婚することは 英国憲法違反であることを指摘する。国王の座をとるか、平民となって離婚した女性と一緒になるか 選択を迫られて、プリンス エドワードは シンプソン夫人を取る。「シンプソン夫人の支えなしには 国民のための いかなる執務も行うことは出来ない」という歴史的で感動的なスピーチを残して 彼は去る。
にわかに脚光をあびることになったのは 次男のプリンス アルバート(コリン ファース)だった。彼は 海軍出身。華やかで社交的で国民に人気があったエドワードに比べて 正反対の性格。シャイで吃音障害を持っていた。吃音を治すべく 今までに何人もの専門医師や言語療法士の治療を受けていたが 効果がない。生まれもっての短気で激しやすい性格もあって、正常な会話ができないことに困りきっていたところだった。
心配した妻 エリザベスは ドクターライオネル ロークという新しい言語療法士に会いに行く。オーストラリア パース出身の変わり者。彼は プリンスの妻に向かって 治療してもらいたかったら 自分の家の診療室に来るように、と言って、プリンスを呼びつける。古いロークの家には 極寒のロンドンにもかかわらず充分な暖房さえない。そんな彼の自宅で治療が始まった。発声練習から歌ったり踊ったり ワルツを踊りながらシェイクスピアを読む。意表をつく独特の治療法に、幾度も幾度も アルバートは 怒りを爆発させ 治療を中止させる。
しかし、そんなことを繰り返すうち、アルバートは次第に 今まで誰にも打ち明けられなかった胸のうちを ロークに聞いてもらうことができるようになる。序序に、二人の間に友情が芽生えてくる。
時に、ナチスドイツがポーランドを始めとするヨーロッパで侵略を進める。フランスに次いで 英国も参戦せざるを得ない。英国の誇りをもって開戦するに当たって、国王は国民に向かって スピーチをする。歴史に残る名スピーチだ。アルバートは ロークを伴って放送室に入って マイクロフォンに向かう。何度も 詰まりそうになりながら オークの励ましのもとに スピーチを最後まで 声高らかに威厳をもって読み上げる。
というお話。
とても良い映画だ。
どんなに吃音障害をもつことが苦しいか よくわかった。映画を観ている人は アルバートと一緒になって 理路整然としている自分の考えを 伝えることができない苦しみを味わう。言葉が出てこない。うやうやしく待ち構える人々や、議会や教会の官僚達の前に立って 口を開く瞬間の緊張感。失敗に失敗を繰り返し 自己嫌悪に身をこがし、こみ上げる怒りをぶつける相手もいない。立場が立場なだけに どもって言葉が出てこなくても 笑う人はいない。人々はただ かしこまって次の言葉を待っているだけだ。それが本人には 余計なプレッシャーになってますます言葉が出てこない。家に帰れば 二人の幼い娘達が待っている。愉快なお話を作って話して聞かせる ふつうの父親だ。父親が言葉につまれば 娘達は幼いながらも 根気よく次の言葉を待っていてくれる。それが またつらい。
コリン ファースの いかにも外見からして誠実でまじめな姿が 吃音障害に苦しむ国王の役に適役だ。今年のアカデミー主演男優賞を獲るだろう。とても良い役者だ。
対する 人を食ったようなジェフリー ラッシュの名演技、、こればかりは他の役者にまねができない。この映画で ロークがシェイクスピアの「ヘンリー4世」を 舞台のオーデイションで演じてみせるシーンがある。さすがにうまい。ゾクゾクするほどだ。何年か前、彼は 映画「シャイン」で精神分裂症のピアニストを演じてアカデミー主演男優賞を獲った。
英国教会が どこの馬の骨かわからないロークを退けて 権威ある専門の言語療法士をつけるように圧力をかけたとき、アルバートは ロークは自分にとって個人的に特別必要な人なので やめさせるわけにはいかない と擁護する。そのとき初めて ロークは自分が 医者でも専門の言語療法士でもない。パースからきた役者にすぎないと言う。かれは 役者として発声訓練をしているうちに 戦争から帰ってきて 体や心に傷を受けた兵士達が 言葉を失っているのを見て それらの人々を治療してきた。経験の多様さでは専門の言語療法士よりも自信を持っている。そんなロークの告白を 驚きもせず聴くアルバート。二人は すでに分かちがたい固い友情で結びついていたのだ。名優どうしの名場面だ。
アルバートが兄エドワードのむかって どうして王位を捨てるのか 問い詰めた時 残酷にもエドワードがアルバートの口調を真似して からかって 立ち去る場面がある。温厚で人格者だという評判のエドワードだが、兄は いつも強い立場だから、からかわれて こき下ろされてつらい思いをする弟のつらい立場には理解が及ばない。強いものは常に弱いものに対して 無自覚だ。
アルバートの吃音障害は 左利きを 教育係に厳しく更正させられたことが契機だが、年上の兄に 大事な玩具をとりあげられたりしたトラウマも要因になっている。何気ない兄弟間のやりとりで内気な年少者の方が傷を負う。年下にしか わからないつらさだ。
妻エリザベスのヘレナ ボナム カーターも良い役者だ。「アリスのワンダーランド」でスペードの女王をやったり「スウィートチャーリー」で 人肉パイを作る悪魔のような女を演じた。今回は 出過ぎず、語り過ぎず ただ夫を支える妻の役が良かった。夫とともに傷つき 共に不安に慄き、歓びを共にする、ひかえめだが なくてはならない役を よく演じていた。役作りのために 歴史学者に会ったり 古い英国のしきたりなど、すごく勉強したそうだ。
それと、子役のふたりの娘達。長女のエリザベス(いまのクイーン エリザベス)役の子供の利発そうな姿が ひときわ目立っていた。