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2010年9月2日木曜日

メトロポリタンオペラ 「ばらの騎士」を観る



ニューヨークメトロポリタンのオペラを ハイデフィニションフィルムに収めたものを 映画館で観た。同じハイデフィニションフィルムを日本でも、限られた映画館で上映しているそうだ。日本で上映しているフィルムのなかには、歌舞伎も狂言も文楽もあるらしく、そういったフィルムを ここでも観られたら どんない良いか、、、と思う。
オペラは リチャード シュトラウスの「ばらの騎士」、原題「DER ROSENKAVALIER」、「デル ローゼンカヴァレル」というドイツオペラ。リチャードを日本では ドイツ語読みにしてリヒャルドといっているみたい。ウィンナーワルツの ヨハン シュトラウスとは関係ない ゴリゴリのドイツ人作曲家。

初演は1911年、ドレスデンロイヤルオペラハウス。3幕 3時間30分と、長い本格的オペラで、リチャード シュトラウスの代表作とされている。他に彼は「サロメ」、「エレクトラ」など とても前衛的なオペラを作曲したが 「ばらの騎士」が大ヒットしたため これが彼の最高傑作といわれている。初演時から人気が出て、ヨーロッパ各地から このオペラを観る人達のために 特別列車が仕立てられ「ばらの騎士列車」とよばれたそうだ。ウィーンの香り高い 優雅でモーツアルト風の繊細さに満ちている。吉田秀和が オペラの中で モーツアルトを除けば これが一番好きだ と どこかで書いていた。

「ばらの騎士」というと、手塚治の「りばんの騎士」を思い浮かべてしまうけど ウィーンの貴族の間で当時 婚約の契約に際して 相手に銀の薔薇を送る習慣があり、その薔薇を届ける使者のことを薔薇の騎士と呼んだ。
シュトラウスはソプラノの声を一番愛していて、世界で一番美しい音だと言っていた。このオペラでは テノールを歌う王子様や恋を語る男はいない。銀の薔薇を届ける美青年の騎士オクタビアンは メゾソプラノを歌う男装の麗人 女性だ。昔はカステラートが 歌っていたのだろう。カステラートは、高音を歌うために睾丸を除去された歌い手のことで これについては5月26日の日記で書いたので繰り返さない。

このオペラでは 極端にアリアがなく、合唱もない。メゾソプラノの薔薇の騎士オクタビアンと ソプラノを歌う彼の愛人と恋人の3重唱が 多くて みごとに美しい。歌のどれもが重唱だ。繊細だが難曲ばかり。音程も次々と転調し 演奏するオーケストラはどんなに大変か と思う。頼まれても演奏したくない。安楽椅子で聴く分には 実に贅沢な喜び。立場が違えば 天国と地獄だ。
舞台設定が マリア テレシア時代のウィーンなので ロココ調の家具や衣装で、それを舞台に再現するとものすごくお金がかかる。お金も時間も しっかり掛かる 重いドイツオペラ。絶叫型アリアの多いイタリアオペラと比べると、何と違うテイストだろう。

しかし ハイビジョンフイルムを映画館で観て $24もするけれども得をした気分になれるのは、2回ある幕間の休憩時間に、フイルムが止まることなく 幕の内側で、舞台セットを組みかえるために何十人もの作業員が 次の舞台を作る様子をずっと見せてくれることだ。これは オペラより面白いかもしれない。クレーンで階段がつるされて、背景を描いたパネルが次々とはめ込まれていく。魔術をみているようだ。
またプレシド ドミンゴの 出演者へのインタビューまでサービスされていて、舞台裏で歌手達の素顔が見られるのも、うれしいオマケだ。

ニューヨークメトロポリタンオペラオーケストラ
指揮:エド デ ワート
キャスト
マルシャリン元帥夫人:レネ フレミング
騎士オクタビアン  :スザン グラハム (メゾソプラノ)
ソフィー      :クリステイン シャファー (ソプラノ)
オックス男爵    :クリステイン シグマドソン(バスーン)
ソフィーの父ファニル:トマス アレン (バリトン)

ストーリーは
ウィーンにある屋敷で マルシャリン元帥夫人と 17歳の美青年オクタビアンは愛し合って暮らしている。
そこに夫人の従兄弟に当たるオックス男爵が訪ねてくる。彼は俗物で、ケチで野卑で臆病者で好色漢だ。ファニルという新しく貴族に昇格した裕福な成金の娘、ゾフィーを妻に迎えたい意向をもっている。そこで、マリシャリン元帥夫人は オクタビアンを婚約成立のための薔薇の使者に立ててやることにする。
純白の美しい衣装を身に着けたオクタビアンを先頭に オックス男爵はファニルの屋敷に到着する。銀の薔薇の花を 娘のゾフィーに手渡して口上を述べるオクタビアンは しかし一目で可憐なゾフィーに恋をしてしまう。ゾフィーも美しくて立派な騎士オクタビアンを一目で愛してしまう。
そこに登場するオックス男爵は 無作法な上、すでにゾフィーの主人になった気で強引にことを運ぼうとする。たまりかねて、ゾフィーは オックス男爵と結婚しない、と父親に宣言して、 オクタビアンに助けを求める。しかし父親は娘のわがままを許そうとはしない。オクタビアンは いやがるゾフィーを無理に 連れ出そうとするオックス男爵を 止めさせようとして剣を抜くが、オックス男爵は からきし臆病で剣は使えず オクタビアンに肘を突かれて怪我をして大騒ぎをする。

オクタビアンは策略を練る。召使を使って オックス男爵に 女からの偽の手紙を渡して密会におびき出すことにした。いかがわしい宿屋に、オックス男爵が 約束どおりにやってくる。現れたのは 女装したオクタビアンだった。男爵が熱心に口説き始めると、ゾフィーも、ファニナルも、警官や おまけに元帥夫人までが現れて、大混乱。あまりの醜態に、元帥夫人はオックス男爵に 貴族としての自覚をもって、立ち去るように命令する。
そこで元帥夫人とオクタビアンとゾフィーの3人になる。オクタビアンは 元帥夫人に未練はあるが、ゾフィーを放っておくこともできない。そんな 混乱してうろたえるオクタビアンに向かって、元帥夫人はやさしく、若い二人で幸せになるように、と言い置いて自分は去っていく。というお話。

気品があり、風格も備わっている元帥夫人のソプラノと、若くて可憐、初々しいゾフィーのソプラノに オクタビアンのメゾソプラノが加わって みごとな3重唱になる。オクタビアンを愛しているのに、自分はもう若くないのだから 愛を捨ててあげましょう と嘆きながらも力強く愛を歌いあげる元帥夫人と、ただ一途にオクタブアンを愛していますと訴えるゾフィーのソプラノが オクタビアンの低音にからみあって、とても美しい。
この3幕の3重唱には、シュトラウスにとっても とても愛着のある曲だったようで、彼が亡くなったとき遺言どおりに、この3重唱が演奏されたそうだ。