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2010年8月13日金曜日
オペラ 「フイガロの結婚」
モーツアルトの傑作中の傑作、「フイガロの結婚」を観た。オペラハウスにて オペラオーストラリア公演。イタリア語。3時間。
監督:二ール アームフィールド
音楽:オーストラリア オペラバレエオーケストラ
指揮:パトリック サマーズ
キャスト
フイガロ:テデイ タフ ルーデス (バリトン)
スザンナ:タリン フイビッグ (ソプラノ)
伯爵:ピーター コールマン ライト(バリトン)
伯爵夫人:レイチェル ダーキン(ソプラノ)
マルチェリーナ:ジャクリーヌ ダーク(ソプラノ)
オペラは同じ作品を何度観ても そのつど新しい発見と、新しい感動がある。今年になって、「椿姫」、「トスカ」、「真夏の世の夢」と「フイガロの結婚」を観た。来月「ペンザンスの海賊」を観る。
席は舞台から13列目の真ん中。こんな良い席で 毎年オペラを観るなど、私の年収からみたら とてつもない出費だ。しかし、そのことによって得られる満足という名の代価は大きい。しょせん、人生は自己満足 と割り切っている。
去年は 「魔笛」、「アイーダ」、「ムチセンスクのマクベス夫人」、「ミカド」、「コシ ファン トッテ」をみて、」アイーダ」が一番 豪華な舞台だったので 強く印象に残っている。
今年観たオペラの中では 「真夏の世の夢」が一番印象的だった。舞台全体が意表をついて 青く神秘的な森の中になっていた。その森に本当に水を張った湖があり 森に住む不思議な動物達、幻想的な舞台を飛びまわるインドの子供たちや妖精。アクロバットなみに自由自在に動き回り 踊り 歌も歌うパックが素晴らしく、忘れられない。
今回のフィガロは 正統的というか、モーツアルトの時代のコスチュームだった。当初は べネデイクト アンドリュー監督の 前衛的な舞台になるはずだった。設定も、伯爵邸ではなくて刑務所で、出演者の衣装は刑務官の制服という現代的な解釈でオペラが演じられるはずだった。しかし、オペラサポーターからの、ブーイングがひどかったらしくて、何年か前にニール アームストロング監督で成功したとおりの舞台に 急遽変更したもようだ。まあ、どっちでも良いのだけれど、保守的なオペラファンの声に負けて、演出が変わるというのも、おもしろい。プログラムもポスターも全部無駄になったわけだ。
今回のオペラは モーツアルトの良さをたっぷり味あわせてくれた。やはりモーツアルトは最高。これ以上の作曲家は望めない。3時間あまりの舞台でせりふが全くない。全部が歌だ。激しい動きの芝居をしながら3時間余り、歌いっぱなしの役者たち、、、それも2重唱、3重唱、4重唱の連続だ。一つ一つのせりふが 完結した歌になっている。コーラスも入って、歌の祭宴だ。モーツアルトが亡くなる5年前の作品。この頃、家賃も払えない 食事も充分とれない貧困のどん底で これほど笑いの満ちた 愉快で楽しい音楽を作るために命を紡いで そして死んでいったモーツアルトを思うと涙がでてくる。
1786年初演だから、フランス革命勃発直前の作品。まだ権力者が絶大な力を持っていた時代に 使用人たちが 伯爵を懲らしめて、大笑いするという反骨的な喜劇。モーツアルトの 権力者を茶目っ気でおちょくるユーモアの傑作だ。圧倒的な庶民のあいだでもてはやされ 人気を得たという事が うなずける。ストーリーは
18世紀半ば、スペイン セビリアでのお話。アルマビーバ伯爵家に仕えるフイガロと 小間使いのスザンナは結婚を間近に控えている。それを知っていて好色な伯爵は スザンナをものにしようと しつこく言い寄っている。スザンナの防御が固い とわかると 伯爵は女中頭のマルチェリーナをけしかけて、彼女とフイガロと結婚させてしまおうとする。
一方、純情な伯爵夫人は 伯爵の浮気が悲しくてたまらない。そこでスザンナと伯爵夫人は 二人で秘密の悪巧み。ニセの手紙で 伯爵を庭におびき寄せて 伯爵にはスザンナの服を着た伯爵夫人が、フイガロには伯爵夫人の服を着たスザンナが待っている。まんまとワナに はまった伯爵は闇にまぎれてスザンナに近ついて、口説き始める。しかし なんだか騒がしい。何とスザンナとフイガロが、目の前で逢引をしている。立腹する伯爵。では、口説いていたのは、、、実はなおざりにしてきた 美しい妻だった。長いこと妻に悲しい思いをさせてきたことを反省して、伯爵は心から謝罪する。
最後はフイガロとスザンナの結婚式が伯爵の祝福のもとでおこなわれる という 愉快で楽しい喜劇だ。
このオペラが成功するかどうかの鍵は 何といってもフイガロとスザンナに、「演じて良し」、「歌って良し」、「「観て良し」の 歌手を配役にする事にかかっている。フイガロのバリトン:テデイ タフ ルーデスは背が高くてハンサム 若くてかっこ良過ぎるフイガロで申し分ない。スザンナのタリン フィブリグが おちょぼ口で美人とはいえないが ソプラノではオペラオストラリアの顔だし、可愛くてとても良かった。ふたり共 演技がとてもうまい。声も良い。
伯爵のバリトン:ピーター コールマン ライトは腹が出ていて好色漢らしくて とても良かった。声がのびのびとして堂々としていて美しい。
しかし中でも伯爵夫人をやった ソプラノ レイチェル ダーキンが一番好きだ。彼女は「コシ ファン トッテ」でも、「真夏の夜の夢」でも準主役をやった。背が高くて 顔はジュリア ロバーツなみの美人。声に伸びがあって、声量もある。何よりも大学を出て何年もたっていない 若い成長盛りの歌手だ。出てくるたびに 良くなっていく。
オペラオーストラリアはこういう人を 海外に流出させないように、大切に大切にしてもらいたい と思う。いままで 同じように 大学を出たばかりでテノールを歌っていて、出演するごとに成長しているのがわかる イタリア人オージーの歌手が一昨年までいた。その声が アンドレア ボッチェリに似ていて大好きだったのに、もう外国に引っ張られていってしまった。レイチェルには この土地で成長して ずっと歌っていて欲しいと思う。
死ぬまでに あと何本 オペラを観られるか わからないが 何百年も前に優れた芸術家が 命を削るようにして作ってきた 総合芸術の中でも、とりわけすぐれた芸術の結晶であるオペラをみるたびに ありがたい、幸せなことだと思う。