ページ

2010年2月22日月曜日

映画 「ザ ハート ロッカー」



アメリカの経済学者 ミルトン フリードマンは「国の仕事は軍と警察以外はすべて市場に任せるべきだ。」と言った。
しかし、米国主導の市場原理は自由競争によって人々の生活が豊にする、、どころか、世界規模で貧富差が広がる一方だ。理念としてのグローバリゼーションは死に絶え、現実のグローバリゼーションは貧困者を さらなる貧困に追い落としている。

また、国家事業としての軍と警察は、じつは無数の民間事業によって支えられている。純粋に軍と警察が公正な方法で運営されて汚職にも内部腐敗にも無縁であった歴史など どこにもない。

戦争の民営化が言われて久しい。
戦場に人材派遣で、貧困者が送り込まれている。戦争はビジネスだ。かつて、デイック チェイニー副大統領がCEOを勤めたハリー バートン社は石油採掘機の会社だが、子会社を通じて戦場に民間人を派遣するビジネスをしている。わずかな契約金で イラクやアフガニスタンに人を送り込んでいる。イラクで アメリカ民間警備会社が、大手を振って活躍している。市民を虐殺しているのは悪名高いこれら民間警備会社の恐れを知らない雇われ兵だ。
BBCニュースで アメリカ民間警備会社が あるアフリカの村で青年達を集めてリクルートしているところをカメラが捉えていた。イラクという国が 地球儀の上のどのへんにあるのかも知らない若者達が ドルに目を輝かせていた。こういう事実は なかなか表には出てこない。

映画「ザ ハート ロッカー」原題「THE HURT LOCKER」を観た。
監督:キャサリン ビグロー
キャスト:ジェレミー レナー (ジェイムス軍曹)
     アンソニー マッキー(サンボーン軍曹)
     ブライアン ジェラテイ(オーエン技術兵)
     その他、ガイ ピアース、レイフ ファインズ など
ストーリーは
戦時下のイラク、バグダット。
爆発物処理特別部隊EODの仕事は 不発弾や時限爆弾 地雷、ダイナマイトを腹に抱いた人間爆弾にいたるまでの 爆発の危険のあるものを解体処理することだ。戦場での最前線の最も危険な作業をする部隊だ。

人望があり、部下から信頼されていたトンプソン軍曹(ガイ ピアース)は 爆弾を処理した直後、その現場でリモートコントロール操作による爆弾で命を落とす。変わってジェイムス軍曹(ジェレミー レナー)が送り込まれてくる。彼はすでに、873個の爆弾を解体する実績を持っていた。しかし、部隊の中で 余りにも自信家でチームーワークができないジェイソンを、サポートしなければならないサンボーン軍曹(アンソニー マッキー)と、オーエン技術兵(ブライアン ジェラテイ)は、彼に振り回される。仲間としての信頼感が得られないまま 連日 危険な前線で仕事を続行けることで、ストレス レベルも尋常ではない。

ベッカムと名乗る人なつこくジェイムスに付きまとってくる少年がいた。ゲリラの秘密基地を急襲すると、少年が殺されていた。その体のなかには何キロもの爆弾が埋め込まれていた。。少年の体を引き裂き 取り出した爆弾を解体する。さすがのジェイムスも冷静ではいられない。

移動中 スナイパーに狙われている。いつ どこで と言えず、突然兵が倒れ、助け起こしてみると撃ち殺されている。スナイパーは善良そうな羊飼いであり、マーケットの商人であり、ベールを被った主婦だ。
死はいつでもどこにでもある。今日生き残ったのは、ただ運が良かったというだけのことだ。

極限状態のなかで 大型爆弾を背後で操作して多数の死傷者が出た現場で ジェームスは 命知らずにもサンボーンとオーエンとを伴って 犯人を追って 夜の居住地に入り込んでいく。結果、オーエンは襲われて瀕死の目にあう。

任期が終了してジェイムスは帰国する。
待っていた妻のところに帰り、赤ちゃんの世話をする。日常に戻ってもジェイムスにはそれが 何の喜びも興奮や 楽しみも もたらさないことを知る。
そして、彼はまた 志願して爆弾処理部隊として戦場に戻っていく。
というストーリー。

映画を観ている観客は 命知らずのジェームスの肩越しに戦争を見ることになる。怪しげな違法駐車の車。爆弾は見つかったが ワイヤーが どこに通じていて爆発する仕掛けになっているのか わからない。座席を切り裂き フロントを開けで信管を見つける。
目と鼻の先で リモートコントロールで発火させようとしているゲリラが潜んでいる。毎回 違う種類の爆弾が 人の意表をつくかたちで仕掛けられている。解体が楽ではない。ひとつの爆弾で300メートル以内にいる人すべての命が一瞬で失われる。
スナイパーは市民を装い どこにでもいる。ドキドキハラハラだ。
何と バグダッドで米軍は孤立していることだろう。

フィルムの最初に「WAR IS DRUG」という言葉が出てくるがこの言葉が映画のすべてを語っている。戦争は中毒だ。阿片やアルコールのように人の神経を無感覚にさせ、神経をズタズタに破壊する。
ジェイムス軍曹はアメリカが仕掛けたイラク戦争の犠牲者だ。イラクは、米軍など呼び寄せていない。スンニ派とシーア派の対立や 政治腐敗やクルド民族問題など、すべてイラク国内問題であって アメリカやイギリスの介入すべきことではない。大量兵器など持って居なかったイラクに 国連の賛同もなく介入したアメリカ。イギリスではいま、公聴会が開催されていてジョージ ブッシュを後押ししてイラクに介入したトニー ブレアが裁かれている。

戦場の実態に肉薄する映像を作る行為、そのことに意味がある。若い女性監督が 現地を見て 撮影に入っている。よくやっていると思う。
「アバター」を作ったジェームス キャメロンは、自分の作品がゴールデン グローブ賞を受賞したとき、賞は「ハート ロッカー」のキャサリン ビグローが取ると思ってたよ と言ったそうだ。この二人は むかし夫婦だった。元夫と元妻がともに アカデミー最優秀監督賞に ノミネートされて 賞を取り合っている、なんて 素敵しゃないか。

アカデミー監督賞は、この「ハート ロック」か、クリント イーストウッドの「インヴィクタス」になったら良いと思う。
監督に賞を与えて、次の製作を励ますことが、賞の目的ならば、キャサリン ビグローと、クリント イーストウッドに 世界の良識と良心を呼び覚ますような作品を今後も続けて撮ってほしいと思う。