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2009年3月3日火曜日

映画「フローズン リバー」


映画「FROZEN RIVER」を観た。邦題未定。「フローズンリバー」か、「凍った河」か。

主演女優 メリッサ レオ(MELISSA LEO)が、今年のアカデミー賞、最優秀女優賞にノミネイトされた。予算の限られた独立プロが作った映画が、アメリカでヒットして、中年で地味な女優が主演女優賞に推薦されるというのも 大変珍しいことだ。晴れやかなアカデミーの舞台に これほど似合わない女優も少ないだろう。 この映画で、初めてメガホンを握って アカデミー監督賞にまで 推選されたのは、コートニー ハントという女性監督だ。

ストーリーは
極北の冬、ニューヨークの北の端 川を挟んでカナダと国境を接しているモホークという町に住んでいるレイ(メリッサ レオ)は、15歳と5歳の男の子のお母さんだ。パートタイムで、近くのスーパーに勤めている。家を買ったばかりなのに、その購入資金を ギャンブル狂の夫に すべて持ち逃げされてしまって、途方にくれている。

そんな時、乗り捨てていった夫の車を運転している女を見かけて、必死で追いかける。女は モホーク町のインデアン自治地区に住んでいる 先住民族のライラという女だった。車は乗り捨てられていたので もらったのだという。ライラは車さえあれば、大金が稼げる良い仕事がある、とレイに言う。レイは初めは相手にしなかったが、家のローンを取り立てに来る不動産屋の圧力にまけて、仕事を引き受けるために ライラを訪ねていく。 仕事とは 凍結した河と車で渡って カナダからアメリカに密入国する人を運ぶという危険きわまりない仕事だった。いつ、どこで 氷を張った河が 割れるかわからない。走行中 氷が割れれば 車ごと ただちに全員の死が待っている。氷の厚さを心配すれば 荷物を減らすしかないが トランクに入るだけの密入国者は運ばなければならない。夜間運転で方向を間違えても、車がエンコしても、命に関わる。車は ぼろい普通乗用車だ。国境警備隊の眼からも、逃れなければならない。

ライラは 私生児を産んだために 赤ちゃんを 親に取り上げられて、家を追い出された女だった。お金を貯めて自分の赤ちゃんを取り戻したい と思っている。レオとライラは 二人で危険な仕事をしなければならないことに、怒りと憤りを感じている。しかし、二人とも 自分たちの子供のために 違法な仕事を続けなければならない。互いに憎みあっていた 二人は 命知らずの仕事を 共にやっているうちに 憎悪はやがて理解に、そして、共感に変わっていく。二人は、車のトランクに中国人やアフガニスタン人を忍ばせて密入国者を運び続ける。 そして、ある日、、、。 というお話。

吹雪の舞う、極寒の凍結した河の上を車が走るごとに、ハラハラし通しだった。まったく とんでもない映画だ。 男運のない女達の 母親としての強さ、けなげな母親の捨て身の子供達への愛情。まことに女は子供のためなら何でもできる。

レオの15歳の息子がとても良い。彼にとっては 父親はヒーローだ。全財産を持ち逃げして、自分を捨てて去っていったなどとは 信じられない。父親は家の修理や 車の修理を いとも簡単にやってのける立派な男だ。そんな父親を悪し様にののしる母親が許せない。父親をギャンブラー呼ばわりするのも許せない。それでも母親なしに 生きていくことができない。母親に対して 憎み反発しながら それでも寂しくてならない難しい年頃の息子の姿には ホロッとさせられる。

映画の最後がとても良い。自分の子供のためだけに 無鉄砲な違法行為を続ける女が 自分の子供だけでなく 他の子供も不憫に思い そのために自分を犠牲にするとき、女は一段上の人間性を獲得する。 とても良い映画だ。

独立プロの小さな映画が人の心を感動させ アカデミーという最も華やかな舞台に引き上げられた、そのことに大きな意味があると思う。ハリウッドの 商品として売れ行きの良い 人々の好みの迎合するような映画でなく 独立プロで、どうしても言っておきたいこと どうしても主張したいことを映画にした若いエネルギーを高く評価したい。